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ろぶすた

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第一部 神殺しの陰謀 第三章 神殺しの罪人

禁忌の者との戦い

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 罪人の呻き声が他の罪人の呻き声を呼び、それがまた呻き声を呼ぶ…。

 「深部へ向かいましょう。」

 ホルスはそう言って河伝いに歩み始めた…。ホルスが先行している理由は知覚がするどいということが理由であり、事前に周囲の状況を把握しながら進んでいってくれていると田村丸は説明してくれた。

 同じ力を持つ私も何か手伝いたかったが…、何もできない自分だと足手纏いになるだけだと、ホルスの後をついて行った。

 深部に行くにつれ、目の前に広がる光景は変わっている。

 まず変化を感じたのは唸り声であった…、低層であればまだ人が話しているのであろうと言う言語であったが、下層に行くにつれ、人らしい言葉は失われていく。

あたた、と痛みを感じる時に出す様な言葉がどんどん舌足らずになり、最終的には、はばばばやふばばば、という条件反射的に出る言葉が響き渡る様になった。しかし、さらに深部では声すら響いてこない…。

 そして極め付けは氷の花が一面に咲き誇る光景に私達は目を奪われた。睡蓮の花が咲き誇るような幻想的で神秘的なその光景は罪人が作り出しているのである…。

あまりもの寒さにアストラル体が裂け、睡蓮の花やハスの花の様に変化するらしい。

 なんとも残酷で美しい光景なのだと私は感動した…。
 
 下層に降りるたびに久々と伝わってくる…。この環境ですら罪を洗い流さなかった罪人の情念…その強さが。

 「次が第七層です。気を引き締めましょう。」

 ホルスはそう私たちの方を向いて言ってくれたが、皆の顔つきには笑みなどなかった。
 
皆一同、第七層を前にしてその異質な雰囲気を感じ取り緊張の糸が張り詰めいてる。

そこにいる何かが…そうさせているのであろう。

 「おかしい…。何かがいます…。」

 ホルスは田村丸らに合図を行い、戦闘態勢を取らせた。

 そこに何かいる…、そんな緊迫感が私たちを包み込み、恐怖させる。

 「禁忌の者たちです…。一本道なので避けては通れないですね…。
 
 ホルスが差す先には3名の禁忌の者がいた。

そこにいる禁忌の者たちは人面犬のようなきれいに分かれている者ではない、顔の半分が虎の様になっていたり、背中が異様に隆起していたりする…まさしく異形の者。

「東雲殿達はこちらで、待機していてください。」
 
 そう言うと田村丸たちがその禁忌の者に向かい駆けて行った。

手前にいた一体を田村丸が切り伏せる。袈裟、胴と刀が空気を切り、風切り音が鳴り響いたと思った矢先、その禁忌の者は崩れた。

 肉体ではなくアストラル体と雖も、脚部と胴…首が切り離されれば致命傷のようだ。環境の要因もあるのかもしれないが、アストラル体がこの世界に還元されている。

「くっそ、もうきやがったか!目標はすぐだ、ここでやっちまうぞ!」

 異様に背中が隆起したその禁忌の者が、もう一人の禁忌の者に声をかけた。

「マードック、ホルス、こいつらは三下だ。押していくぞ!」

その三下という言葉に反応したのか怒りをあらわにし、禁忌の者は羽織ったぼろ布を投げさり、すべての姿をさらけ出した。

背中が隆起していたその者はまるで甲殻類のような強靭な殻に覆われている異形。

そしてもう一人の顔の半分や体の一部が不自然に虎になっているその者は筋骨隆々の強靭な肉体をさらけ出し、こちらを威圧する。

 「三下だと…、吐いた唾は飲み込ませないぞ…。」
 
 そう甲殻類の異形が言った刹那、田村丸の斬撃はその異形に浴びせられた。

 「そんな、軽い武器じゃ俺の体は傷つけられないぞ。」
 
 田村丸の刀はその異形の者を傷つけることはできず、逆に其の硬さから田村丸の刀を落とさせた。

コンクリートを鉄パイプで殴ったようなそんな衝撃が田村丸の手に広がったのだ。

 「おっと、お前らは俺が相手だ。」

 田村丸に加勢しようとした、マードックとホルスの前に虎の異形が首や肩を回しながら立ちふさがった。

 先ほどよりバルクが上がったように、肩がさらに隆起し、ゆっくりとこちらに迫りくる。

 「マードックやれそうか?」
 「あぁ…、問題ない、しょせんは三下だ、私には勝てんよ。」
 
 マードックの顔に焦りはない、今まで王様の従者として力を磨いてきたのであろう。

 マードックはそう言うと体を小刻みに揺らし始めた。ボクサーがフットワークを刻むように左右に反復横跳びをしたと思っていた一瞬のタイミングでマードックの姿は目の前から消えた。

 刹那…、虎の異形の首はかみ砕かれ声もなく首を垂れるように崩れた。

 「所詮は三下、つけ焼き刃の虎が犬を極めた私に勝てるはずなかろう。」

 マードックはそう崩れた虎の異形に向けて言葉を発した。

 「丸は…。問題なさそうだな…。」

 甲殻類の異形は田村丸の猛襲に手も足も出ないようである。しかし、田村丸の攻撃も致命傷になっておらずのようである。

 「この硬さには手も足も出まい。」
 「あぁ、そのようだ…。お互い決定打はないようだな。」

 甲殻類の異形はそのすかした田村丸の様子に腹を立てているようであるが、田村丸は意に介していない。

 「こうなれば最終形態だ。」

 その甲殻類の異形は全身をボールの様に丸めた。

急所であろう頭部や腹部などを体の中にしまい込み、硬い甲羅のようなもので全身を固めたのだ。

 「絶対防御…、これで何人たりとも俺を傷つけることはできん。」
 「蟹か何かだと思っていたが…、アルマジロとの結合か…。いい加減あきらめろ…。」
 「この道を通さなければ、お前たちも深部には行けまい。」

 コキュートスは一本の川でありそれに沿って八寒地獄ができているため一本道なのだ。そのため、この大きなアルマジロの異形をどかさないことには進めない。

 「少しだけ話をしてやろう…。ここにはその絶対防御を貫ける武を持つものがいる。そして、お前を助ける仲間はもういない…。」
 「俺の絶対防御を貫けるのは俺の主様クラスのバケモンだ。そんなやすやすとそんなバケモンいるわけがない。」

 アルマジロの異形はやれっこないと高をくくっているようである。
 
「お前と話している時間はないが、答えれば見逃してやろう。お前の主は誰だ。誰の命令でここに来たんだ?」
「そんなお前たちがもうわかっていることを聞くのか?古の神々だよ、まぁここから退く気はないがな。」

 古の神という言葉に、田村丸たちは反応していた。やはりといった面持ちでその丸まった異形を見ている。

「ではもう一つ、お前たちの目的は何だったんだ?」

アルマジロの異形はそう聞かれると急に言葉を閉ざした。

「一つ教えておいてやる…、コキュートスは罪人やお前たち禁忌の者たちのために作られている…。つまり捨て駒としてここに来させられたんだよ…。」

コキュートスは罪人の罪を洗い流す…、それは禁忌の者も同様である…。

かろうじて動物との結合でこの環境にも耐えられたのかもしれないが、長時間この環境にいた場合、アストラル体の損傷はすさまじいものになるであろう。

「主様たちの復活のため…俺は命を懸けているんだよ。俺が消えようが、消えまいが関係ない。お前たちにはわかるはずがないだろ!」
 「そうか…。良い情報ありがとう。」

 田村丸は静かにアルマジロの異形から離れ、私たちの方へ歩みだしてきた。

 「千暁殿…、申し訳ないが、力を貸してもらえますか?」
 「私で良ければ…。」

 はたから田村丸たちの雄姿を見ていた私たちにそんな話が来るとは思っておらず、千暁も何をすればよいかわからないといった表情で私と日出の方を見ていた。

「難しいことは何もないです。目の前にあるこの巨大なボールをその大斧で退けてください。」

 田村丸はにこやかに微笑みながら千暁の持つ大斧でアルマジロの異形を切り伏せてくれとお願いしてきた。

「わ…わかりました。」

千暁は言われるがまま、大斧を掲げスイカを割るようにその大斧の側面で叩きつけた。

その威力はすさまじく、絶対防御といっていたアルマジロの異形から苦痛の声が漏れ出た。

 「千暁殿、説明が悪かったですね。その大斧で両断してください。お前もこれが最後だぞ…、先の威力でわかっただろう…。」
 「こっちにも…プライドがあるので…ね。さっさと…やれ!!!」
 
 アルマジロの異形は息も絶え絶えの様子で、最後の声を振り絞り上げた…。

 「ごめんなさい!!」

 千暁のその謝罪の声とともに、大斧は振り下ろされ絶対防御のその禁忌の者はこの世界に還っていった…。
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