ゾンビパウダー

ろぶすた

文字の大きさ
上 下
14 / 54
第一部 神殺しの陰謀 第二章 氷の国の王

常世の幽世

しおりを挟む
 自室に戻り、インターホンからコンシェルジュを呼び出す。そのボタンを押す指は震えており、自身が興奮状態にあることが伺えた。

 インターホンで呼び出すと呼び出されることをわかっていたようにコンシェルジュはすぐに私の部屋にあがってきてくれた。

 「コンシェルジュさん、あの部屋はどういう仕組みなんですか!」

 私から発せられた第一声はそれであった。他にも聞きたいことは山ほどあったのだが、研究者として、この世の理を逸脱するあの光景に対してまずは仕組みを理解したいという思いが勝ったのだ。

 「東雲様、内見されたようですね。私などが語れる代物ではございません…、大変申し訳ございません。お答えすることができるとすれば、あの部屋は古きご主人様のご友人の部屋でございました。」
 「コンシェルジュさん、その方を紹介してもらえることはできるか?」
 「そうですね…、その方はもう帰られたようでして…。お取次ぎできるかは少々確認してみますが、急にお帰りになられたということから察するにただならぬ事態に巻き込まれている可能性もございます。」

 帰られたなどという言葉から前住人は国外の方なのかもしれないと想像した。しかし、死後の世界を現世に再現可能な人材となると有名な研究者であることは推測できる。
そのため、コンシェルジュさんも守秘義務やいろいろ守らなければならないことがあるのであろうと思い、自分の好奇心のままに尋ねるのはやめた。

 「質問ばかりで申し訳ない…。」
 「いえいえ、お気になさらず。東雲様のことはよく存じ上げておりますので。」
 「コンシェルジュさん、こっちも一つだけ質問させてもらってもいいですか?」
 「日出様、答えられる範囲であれば何なりと。」

 日出からの話も予測していたように、にこやかに微笑みかけながら日出の話をしっかりと傾聴しようと背筋を正して立っている。

 「あの部屋に滞在し続けることで、私たちの体に何らかの反応がおこったりはしないと断言できますか?」
 「日出様、鋭いご質問ですね。私たちの人体には何ら影響はございません。それだけは断言いたします。」

 コンシェルジュさんは何かを隠しているようである…。しかし、今の私たちには理解できかねることなのかもしれない。

 「コンシェルジュさん、すまないが、あの部屋を買った身としてそのあたりしっかりと理解しておきたい。」
 「そうですね…、かいつまんで説明いたしますと…。あの部屋は幽世のある一部の場所を常世につなげ保持しております…。言わば…ポータルのようなものです…。」

  やはりコンシェルジュさんは私たちの想像を超えた何かを知っている…、常世の理、幽世の理、双方への理解…を持っているそんな気がしてならない。

 私はさらなる質問をしようとしたとき、コンシェルジュの持つ何かの着信音が鳴り響いた。

 「少々、失礼いたします。」
 そういうとコンシェルジュは携帯電話のようなものを取り出し、誰かと話し始めた。

 コンシェルジュの発する声は、どこか私たちに少しの浮遊感を与えているように心地が良い。

 「東雲様、お買い上げいただきましたお部屋の前の主様が会ってもよいというご連絡がまいりました。一方で、やはり問題ごとに巻き込まれているようでして…。」
 「私たちで力になれることなのか?」
 「さすがは東雲様、そう仰っていただけると思っておりました。人手が足りないようでして…、そして相応危険も伴うとのことで…。」

 コンシェルジュは申し訳なさそうな顔でこちらの様子をうかがっている。

 「相応の危険とはいったい…?」
 「はい、大変申し上げにくいのですが。攻撃を受けているということでして…。」
 「攻撃?紛争地帯に住んでいるのとでもいうのですか!?」
 「そのような場所になってしまったといった方がよいかもしれませんね。」

 コンシェルジュさんは妙にはぐらかす。ど真ん中の話はせず、どこか私たちに察してほしいとの意図を感じるその奇妙な物言いが引っ掛かる。

 「もし、お会いになられるのであれば、必要なものはこちらで手配しておきますので、お申し付けください。早くても3日後の出発になります。」

 私は日出と千暁の顔を見た、危険が伴うのだ…、この2人は連れていけない。日出はともかく、千暁を危険にさらすことはできない。
 
 「日出、千暁さん、今回は私ひと…。」
 「東雲さん、一人で行くなんてなしですよ、研究者としての欲求がもうビンビンですよ!」
 「そうですよ、チームなんですから、もう一緒に住んでいるので家族といってもいいかもしれませんね!一人で行こうなんて許しません。」

 そうだ、この2人はこういう人間性なのだ、子どものようにどこまで欲に忠実な日出、どこまでも家族思いである千暁、わかっている、わかっていたのだ…こうなることは。そして、それを望んでいた私もそこにはいた。

 「コンシェルジュさん、3人分の手配を頼む。あとなるべく、こいつらをしっかりと守りたいんだそれなりの装備も準備できるか?」
 「東雲様、日出様、千暁様、お任せください。」

 コンシェルジュはそういうと、再び携帯電話のようなものを手に取り、話し始めた。
 おぼろげに聞こえる内容では、3人で…をお願いします、もてなしの食事は不要などという言葉が聞こえてきた。
 話からするとかなりの位の高い人物なのであろう、位が高く、優秀な研究者かつ紛争地帯で生活しているとなると、おおよそ調べれば出てくるであろうと高を括っていた。

 「東雲様、日出様、千暁様、では3日後またお迎えにあがります。それまでは少々お時間いただけますと幸いです。それと、幽世に千暁様は慣れておくことをお勧めしておきます。千暁様の力は大きい分、制御も難しいのではないかと思っております。」
 「コンシェルジュさん、ありがとうございます。東雲さん、今日から3日しかないですが、お願いしますね!」
 「あ、お前たち、パスポートは持っているか?期限は大丈夫だろうな?」

 久々の海外旅行であり、自分のパスポートが切れていないか内心どぎまぎしながら、皆にはそれを悟られるように大人ぶった自分が少し滑稽であった。

 「東雲様、問題ございません、すべてこちらで対応いたしますので。」
 「コンシェルジュさん、本当にいつも何から何まで申し訳ない。よろしく頼みます。」
 「いえいえ、これが私の仕事ですので。」
 
 コンシェルジュを見送り、海外旅行だと浮ついている日出と千暁を見ていると、コンシェルジュが言っていた問題ごとに巻き込まれているという言葉も忘れそうになる…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

処理中です...