或る騎士たちの初体験事情

shino

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或る騎士たちの恋愛事情(完結)

12話

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次にリカルドが目を覚ましたのは野戦病院だった。

 ここはどこだ?
 ぼんやりとした頭でリカルドは考える。
 周りが騒がしい。あらゆるところからうめき声や悲鳴が聞こえる。
 横を見てみると包帯でぐるぐる巻きにされた男が寝ていた。その包帯も血で真っ赤に染まっている。
 奥の方では衛生兵がバタバタと忙しそうにしていたのを見て、ここが野戦病院だという事が分かった。 
 簡易的な小さなベットに乗せられている様で寝返りを打ったら落ちてしまいそうだ。
 それにしても先ほどから左側の視界が真っ暗だ。それにひどく左目が痛い。熱もあるのか頭がぼんやりとして息苦しい。体を起こすのもつらかったのでしばらくぼんやりと天井を眺めていた。

 すると顔の前に長い金髪が落ちてくる。
 
「リカルド!気が付いたか!」

 嬉しそうな、泣きそうな表情をしたノクスが覗き込んできた。
 その顔は随分やつれて見えた。せっかくの美貌が台無しだなあとリカルドはぼんやりと思った。
 
「ああ、ノクス、無事だったか……戦闘は……?早く戻って戦わねえと……」
「馬鹿!怪我人が何を言っている。それに昨日、敵は撤退していった。しばらくは大丈夫だろう」
「昨日……?俺、結構寝てた?」
「3日眠りっぱなしだった。高熱を出して大変だったんだからな!」

 こっちの心配も知らずに暢気に言うリカルドにノクスは怒りを覚えつつも、ちゃんと受け答えができるようでホッと安堵の息を吐く。
 
 
「そうか……。俺の左目、どうなった?」

 目覚めてからずっと気になっていたことをリカルドが尋ねると、ノクスが言いにくそうに視線を落とす。
 
「………矢は眼球まで届いていて……摘出したそうだ……」
「…………そっか…………。まあ、命があるだけよかったよ」
「良くない‼全然良くない‼」

 リカルドが安心させようと無理に笑うと必死の形相でノクスが怒鳴る。
 ノクスのこんな大きな声は初めてでリカルドが目を見開く。
 ノクスはぐっと表情をゆがめると下唇を噛んで絞り出すように話す。
 
「何で……何で庇ったんだ……」
「…………何でって言われてもね…………オレもよく分かんねえんだよな。気が付いたら体が動いてたっていうか……」

 へらりと笑うリカルドにノクスが再び大声を出す。
 
「馬鹿!おまえ、当たり所が悪かったら死んでいたんだぞ!それに左目だって失って……騎士なのに……これからどうするんだ……」

 ノクスが泣きそうな顔をしているので、リカルドは何とかして慰めてやりたいと思った。
 初めて会った時もそうだったがリカルドは何故だかノクスの泣き顔に弱かった。

「俺が勝手にやってヘマしたんだ。お前が気にする必要はねえよ」
「気にするに決まっているだろう!馬鹿者!」
「馬鹿馬鹿言うなよ……一応けが人なんですけど……」
「うるさい、馬鹿!」

 そういうと感情が高ぶってきて勝手に涙が出てくる。そんな顔を見られたくなくてノクスはベットの布団に顔を押し付けて声を殺して泣く。
 リカルドはなんだか虐めている気分になって来て、子供にするように頭をポンポンと軽くたたく。
 もうこれは泣き止むのを待つしかない。
 しばらくするとノクスが鼻をすすりながら頭を上げる。涙の跡で顔がぐしゃぐしゃで鼻の頭も赤い。ノクスのこんな顔を見たのもはじめてだ。

「あ~、とりあえず、生きてっから。な。これからのことは追々考えるよ。生きてりゃ何とかなるって。だからあんまり心配するな」

 そういってノクスの涙の跡を手でぬぐう。
 ノクスはその手を取りぎゅっと両手で握ると真剣な眼差しでリカルドを見つめる。
 
「…………私が、お前の左目の代わりになる」
「いや……気持ちは嬉しいけど、さすがにそれは……」
「では他に何か、私にできることはないか?」
 
 苦笑いするリカルドにノクスはそう言うので精一杯だった。

「う~ん、そうだな。じゃあとりあえず、水飲みたい、かな」
「分かった」

 ノクスは立ち上がると水を貰いに給水所に向かう。その姿を見送りながら、リカルドはこれからのことを考えた。

 とりあえず手足は無事だ。まだ騎士として戦える。
 元々楽観主義なので、生きてれば何とかなるだろうと思った。あまり先のことを考えても仕方がない。取り合えず目の前のことを一つ一つクリアしていけばいい。
 今一番クリアしないといけないのはあの状態のノクスの扱いだった。

 どうしたもんかね……。
 
 そう考えると、またずきりと左目が痛み、リカルドは目を閉じた。


 戦闘は一時休戦状態となり、二日後に第四騎士団は一度パレシアへ帰還することになった。
 負傷兵たちもすぐ動けるものは一緒に帰還し、動けないものは動ける状態になってから帰還せよ、との命令が出た。
 軍医が言うにはリカルドはまだ免疫力が低下しているので、今動かすのは危険だから体力が回復次第帰還させる、とのことだった。
 ノクスはリカルドに付いていたかったが、そうもいかず、一足先にパレシアに帰還することになり、出立の前に野戦病院のリカルドを見舞った。

「おお、もう行くのか?」
 
 リカルドは体をベットから起こしていて、顔色も随分よくなっていた。
 リカルドの強靭な生命力にノクスは心から感謝していた。

「ああ、できればお前についてやってやりたかったが……」
「気にすんなって、ここには医者もいるし。すぐ元気になって追いつくさ」
「ああ、パレシアで待っているぞ」

 そういって名残惜しそうにリカルドの手を握るとノクスはパレシアへと帰還していった。

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