或る騎士たちの初体験事情

shino

文字の大きさ
上 下
28 / 31
或る騎士たちの結婚事情(完結)

4話

しおりを挟む
 それからしばらくは気まずい雰囲気が流れ、夜リカルドがノクス部屋を訪ねても「仕事で忙しい」と追い返される日々が続いていた。

 リカルドは自室のベットに仰向けになり考える。

 ノクスが結婚したくない理由は本当にあれだけだろうか?
 立場とかメリットがないとか、普段の個人主義のノクスだったら絶対気にしない気がしていた。
 だとしたらなぜ?
 頭に疑問が浮かぶ。
 
 俺の事は嫌いじゃないって言った。
 あの様子だと直接聞いたところで教えてくれそうもない。
 かといって、だれか知ってそうな友人がいるかというと、自分が知る限り思い当たる者はいない。
 それにノクスと一番長い間、親密な時間を過ごしているのは自分だという自負もある。

 だったら親兄弟とかか?
 そういえば長い付き合いになるがノクスの実家にはいったことはなかった。
 以前家族について聞いたことがあったが、ノクスは語りたがらなかったため、その後こちらから聞くことはなかった。あまりいい関係ではないのかもしれない。
  確か上に兄がいる、とだけは聞いたことがあった。
 
 ノクスと付き合い始めてから11年、毎年年明けには新年の挨拶しに帰省していたが、それ以外で帰省することはなかった。
 その里帰りも翌日にはパレシアに戻っており、よっぽど居心地が悪いのかと思っていた。
 一度ついていきたいと言ったこともあったが、不快な気分にさせるだけだと同行を拒否された。

 家族か……。
 自分には家族はいない。母は7歳の時に他界しているし、一応血縁上の父はまだ健在ではあるが、あれを父親だとは認めてはいない。戸籍にも入っていないから赤の他人同然だった。
 だから昔から家族というものに漠然と憧れを持っていた。
 ノクスと付き合う前までは、いつか嫁を貰って子供を作って、子供や孫に囲まれながら死ぬのかな、なんて妄想していた。
 今は家族になるならノクスしかいないと思っているし、ノクスがいてくれば子供も欲しいとは思わなかった。

 結婚なんて確かに紙切れの上の事だけなのかもしれない。
 同性、異性に限らず籍を入れなくたって同棲しているカップルもいるし、二人が愛し合っていれば結婚する必要はないだろう。
 でも、戸籍上は他人であり、それが少し寂しかった。
 
 しかし、結婚は本人たちだけの問題だけでなく、親族も関係してくるからその辺が問題なのだろうか。
 ノクスはオーエンベルクの貴族の出身だ。
 現在は軍の再編成に伴い貴族たちの力は弱まり、数十年前より身分を気にしなくなっていたが、やはり古くからの貴族は自分たちが上位だという意識が高い。
 リカルドの母親はザラ人だ。ザラはやせた土地で作物が育ちにくく、貴族の下働きや、農村に労働力として出稼ぎに出る者が多く、貧民としてのイメージが強かった。
 今では海を観光資源とした観光地化が進められていて、大分そのイメージも薄れてきたが、まだまだ高齢者の中には以前からのイメージで差別するものが多い。
 その上自分は私生児だから、ノクスの家とは天と地の差がある。
 だからなのだろうか。それで言い出しにくいのかもしれない。
 そもそも同性愛に理解がないのかもしれない。
 自分がノクスの両親を説得すれば、いいと言ってくれるのだろうか?

 どちらにせよ、今の気まずい状態が続くのは嫌だ。
 ノクスの本心を聞いて、それで納得できれば結婚の話はもうしないでおこう。
 リカルドはそう心に決めるとゆっくりと目を閉じた。
 


「すまない、今日も片付けたい仕事があるから……」

 次の日の夜、リカルドはノクスの部屋を訪ねると、ノクスは迷惑そうな顔でリカルドを追い返そうとする。 
閉じられかけたドアを慌ててリカルドがつかむ。

「話がしたいんだ。10分もあれば終わる。長居はしない」

 真剣な表情をしたリカルドは話を聞くまで帰りそうにない。観念したノクスはドアを開けて中に招き入れた。

「悪いな。忙しいのに。ただもう一回ちゃんと話をしたくてな」
「……この前の話か?」
「ああ、どうしても納得いかなくてな」
 
 ノクスがソファに腰掛けながら小さくため息を付く。
 
「言っただろう。今や私たちはデュラン騎士団の将軍で社会的な影響力も強い。男同士て結婚した所で大した恩恵は受けられない。メリットよりもデメリットの方が多い」
「……本当にそれだけか?」
 
 ノクスの表情が曇る。
 その変化を見逃さなかったリカルドは、ノクスの隣に座り、顔を覗き込む。

「俺が知りたいのはお前の本心だ。お前が本当に嫌だというならもう二度と結婚の話はしない」
「…………」
「お前の本当の気持ちを聞かせてくれ」

 懇願するように言うリカルドからノクスが目をそらす。
 いつもは饒舌なノクスが黙り込んでいる。よっぽど話したくないのかもしれない。

「……もしかして、俺の出生が問題なのか?ザラ人で庶民の出身で…………娼婦の息子だからか?」
 
 それを聞くとノクスが勢いよく乗り出し、必死に否定する。
 
「ちがう!!生まれなんて関係ない!お前は立派な人間だ。私はお前という人間を愛している!」
「じゃあ、問題なんだ?」
「…………」
 
 またノクスが口を噤む。
 長い間があった後、重い口を開く。
 
「……反対にお前は、なんでそんなに結婚したいんだ?」

 そう来るか。でも話を続けられるなら少し前進かもしれない。
 リカルドはほのかな光明を感じてその質問に答える。
 
「そりゃ、結婚したら今よりお前と一緒にいられるし、それに、もし俺に何かあった時……その、何かお前に残してやりたいんだ」
「……縁起でもないことを言うな」

 ノクスが悲しそうに目を伏せる。

「でも俺たちが騎士である以上、避けては通れないだろ?」
「それは、そうだが……」
「それに俺、昔から家族にあこがれていたんだ。暖かそうで、幸せそうで……」

 それを聞くとノクスの手に力が入り、絞り出したように声を出す。

 「……結婚したカップルが幸せだと限らないだろ……」
 
 ノクスが肩が頼りなく見えて、リカルドは励ますように力強く肩を掴む。
 
「そんなことはない、俺たちなら大丈夫だ。この11年間、喧嘩もしたけど、うまくやってこれたじゃないか。それはこれからも変わらないって確信している。結婚したって上手くやれるさ」

リカルドのまっすぐな目を見て、ノクスが苦し気に顔をゆがませる。
 
「……私は幸せそうじゃない夫婦を知っている。お互いを愛していないのに結婚という契約に縛られ、雁字搦めになっている夫婦を……」
「……それって……?」
「……私の両親だ。」

ノクスは再び目を伏せ、沈んだ声でポツポツと語り出す。
  
「私の両親は政略結婚で、母は父を愛することはなかった。兄と私を生んだが愛していない男の子供には興味がなかったらしい。母との思い出が私にはほとんどない。乳母が私の母親だったと言っても過言はないな。」
 
 リカルドが小さく息を呑む。

「……そうだったのか……初めて聞いたな……」
「ああ、両親の不仲など話して面白い話じゃないだろう」
「それで、実家にも帰ってなかったんだな……」
「あまり居心地がいいとは言えないからな」

 ノクスの膝の上の手がぎゅっと握られる。
 
 「母はいつも辛そうで、悲しそうで、私は愛してもらえるよう必死に良い息子になろうと努力した。……しかし無駄な努力だったけどな」
「……そうだったのか……それは辛かったな……」

 ノクスの手を優しく包み込むようにリカルドが手を重ねる。
 
「お前が不安になる理由は分かった。でも、俺たちは違うだろう?俺たちは愛し合っている」
「…………だが、もし気持ちが覚めたら?」
 
 ノクスがポツリとつぶやく。

「え?」
「いつかお前がやはり女がいい、子供が欲しいと思った時、結婚していたら別れるのも大変だろう。世間体だってよくないし……」

 それを聞くな否やリカルドの頭の中でプチンと何かが千切れた。
 
「はあ?なに、お前、11年も付き合ってんのに俺を気持ちを疑ってるのかよ?!」
 
 リカルドが怒りの表情で声を荒げる。
 
「違う!でも、人の気持ちなんて分からないだろ?」
「なんだよ、結局お前は俺の事を信用してないってことなんだな!」
「違う、そうじゃなくて……」

 怒りで頭に血が上ったリカルドが勢いよく立ち上がる。
 見上げるノクスの表情が不安に揺れる。
 
「違わないだろ!」
 
 今までリカルドとは何度も喧嘩してきたが、こんなに本気で怒っているリカルドは初めてでノクスは少しすくみ上る。
 もともと優しい男だ。こんなに怒るところを初めて見た。
 ノクスが何も反論できないでいるとリカルドははあ、と大きなため息をつく。
 
 「もういい……。ちょっと今は冷静に話せそうにない……頭冷やしてくるわ」

 そういうとリカルドは乱暴にドアを閉めて部屋を出て行った。
 
 悲しそうな顔だった。
 ノクスは先ほどのリカルドの顔を思い出す。
 いつも陽気なリカルドのあんな悲しそうな顔を見るのは初めてだった。
 見ているこちらまで胸が痛くなるような表情だった。
 そんな顔にしたのは自分だ。
 11年間喧嘩は数多してきたが、今回のような深刻な喧嘩は初めてだった。
 それに今までの喧嘩は、ほぼリカルドの方から折れて謝ってくれていた。ただ、今回はあちらから折れてくれることはないだろう。悪いのは自分だと分かっている。
 しかし、自分が謝れば解決する問題だろうか?
 だからこの話題を今まで避けてきたのだ。
 このままだと自分たちの仲は拗れてしまうかもしれない。
 それだけは嫌だった。
 今は頭に血が上っていて言い合いになってしまうだろう。
 明日、冷静になったところでもう一度ちゃんと話そう。
 ノクスは頭ではそう冷静考えていたが、体の震えが止まらない。
 もし、リカルドに嫌われて、別れようと言われたら……。
 自分はもう生きていけないかもしれない。
 それくらいリカルドの事を愛しすぎていた。
 絶望感に襲われ、その日の夜、ノクスは一睡もすることができなかった。


 なるべく早く話をした方がいいのはわかっていたが、最悪の事態を想像してしまい、ノクスはなかなかリカルドに声をかけることができなかった。
 今まで、どんな大群の敵にも臆したことはなかったが、たった一人の男が怖かった。
 
 その日の午後、城でリカルドを見つけて声をかけようとすると目をそらされた。今まではこちらが無視してもしつこく話しかけてくるくらいだったのに。
 こんなことは初めてで、ノクスは大きなショック受けた。
 このままでは本当に自分たちはダメになってしまうかもしれない。それだけは何とかして避けなければ。
 
 夕方、訓練終わりを狙って、ノクスは訓練場の外でリカルドを待っていた。
 訓練所から出てきた第四騎士団の兵士たちがノクスを見ると次々に挨拶をしてきたのでそれに軽く答えていると、開襟シャツ姿のリカルドが汗を拭きながら訓練場から出てきた。

「リカルド」
 
ノクスが声をかけるとリカルドが振り向く。
 
「……ノクス」
 
 リカルドが気まずそうに目線をそらす。
 ノクスの胸がずきりと痛む。
 逃がさないというようにリカルドに近づくと、むき出しの腕を掴む。 

「話がしたい。ちょっと時間をもらえないか?」
「……分かった」

 さすがに部下たちが見ている中で無視するわけにもいかず、リカルドが頷く。
 リカルドもいつまでも今の状態を続けるの不本意だった。
 ここでは人目につくと、ノクスはリカルドを城のはずれにある庭園に誘った。

 パレシア城の庭園は、城の者なら出入りが自由で、城で働く者たちの憩いの場にもなっていた。しかし、日が落ちてしまえば真っ暗になるので、この時間帯にはほぼ人がいないのは、何度もここで逢引きした経験上よく知っていた。
 ノクスの暗い気分をよそに、庭園内は白いマーガレットや紫のジギタリス、ピンクのゲラニウム、ブルーのセアノサスなど色とりどりの美しい春の野花で溢れていた。柔らかなオレンジ色の夕日を浴びて穏やかに咲いている。

「で、話ってのは?」

 いつもよりそっけないリカルドの声にまた少しノクスの弱気が顔を出す。ぎゅっと拳を握って自分を奮い立たせる。

「この前は、お前を傷つけて悪かった」
 
 勢いよくノクスが頭を下げる。
 ノクスが正面から謝ってくるのは初めてで少しリカルドが目を開く。

「お前の気持ちを疑っているわけではない。ただ、自分が怖いだけだ」
「お前が?」
「ああ……私がお前に捨てられるのが怖いだけなんだ」
「だから、なんで捨てる前提なんだよ」
 
 ノクスの弱弱しい様子に、リカルドの怒りはだいぶ収まっていた。できるだけ穏やかに問いかける。
 もともと怒るのは苦手で、怒りが長続きしない質だった。
 
「結婚してなければまだ、傷は浅いかもしれない。でも一度結婚して幸せを知ってしまったら……。私はみっともなくすがってしまうだろう。きっとお前を困らせる……」
「それってやっぱり俺の気持ちを信じられないってことだろう」
 
再びリカルドの眉間にしわが寄る。

 「違う、お前は何も悪くない。私の自信がないんだ。お前をつなぎとめておける自信が。お前はもともと異性愛者だ。……私はいつでも不安なんだ……」

 ノクスの表情が悲し気にゆがむ。
 泣きそうになっているノクスを見てリカルドの心が痛む。
 いつでも自信満々で不遜なノクスがこんなに弱っているところを初めて見た。
 こんな悲しい顔をさせたかったわけではない。
 もっとノクスの笑顔が見たいから結婚しようと言ったのだ。
 これでは元も子もない。
 頼りない子供のようなノクスの肩をリカルドが優しく抱きよせる。
 
「わかったよ、もういい。お前にそんな顔をさせたいわけじゃなかったんだ」
 
 ノクスは久しぶりに聞いたリカルドの優しい声と暖かさを感じてホッと体の力を抜く。顔を上げればリカルドが少し困ったように笑う。
 
「結婚しなくたって、お前といられれば俺は十分幸せだ」
「……でも……」
「お前を悲しませてまで、こだわることじゃない」
「…………すまない……本当に……」
 
 申し訳なさと、リカルドの優しさにノクスの目が潤む。

「じゃ、もうこの話は終わりだ。もう言わないから」

 軽い調子でそういうと、リカルドは安心させるように不安げなノクスの頭を撫でる。
涙がこぼれそうになって、ノクスはそれを隠すようにぎゅっとリカルドに抱き着く。

 「……結婚はできないけど、お前を幸せにできるように今以上に努力するから……」
 
 リカルドの胸に顔を埋めながらノクスが言う。

 「ん。俺も捨てられないよう努力する」
 
 リカルドがノクスの頭に軽くキスをするとノクスは顔を上げる。
 涙に潤んだ青い瞳が綺麗だ。
 久しぶりにノクスの顔をしっかり見た気がする。
 改めてやっぱりこいつが好きだな。とリカルドは思う。
 まだ不安げなノクスの顔を笑顔にしたくて額や頬にキスをする。
 すると少しずつノクスの表情がほぐれて来たので、唇に軽いキスを落とす。
 唇を離すとノクスは潤んだ目でリカルドをじっと見つめる。

 「好きだ、リカルド……」
 「うん、俺も好き」
 
 リカルドが笑顔で答えると、ノクスは花のような笑顔になり、リカルドの唇に深くキスをする。
 リカルドもそれに答えて久しぶりにノクスの唇を堪能する。
 
「そろそろ、寒くなる。部屋に戻るか」
「ん、そうだな……」
 
 ゆっくり唇を離してそう言うと、ノクスは少し名残惜しそうに体を離す。リカルドも離れがたくてノクスの手握る。
 
「回廊までな」
 
 ノクスは一瞬驚いた顔をしたが、うれしそうに体を寄せる。
 回廊まで行けば人がいる。それまでの短い時間だが、今は少しでも離れたくない。手から伝わる温もりに幸せを感じる。

「ああ、でも一緒の墓に入れないのは残念だな」

手をつなぎ、色とりどりの草花の道を歩きながら、リカルドが冗談交じりに言う。

「死んだあと、お前と別々なのは、ちょっと寂しいな」

 そう寂しそうに笑うリカルドの顔を見てノクスはハッと息をのむ。
 リカルドには家族と呼べるものがいない。
 そう思うと、急にこの男に家族を作ってやりたくなった。
 自分が捨てられるのを怖がっているだけじゃないか。
 それで、この男が家族を作る権利を奪っていいのか。
 リカルドに家族の温かさを教えてあげたい。それができるのは自分だけだ。他の者に譲りたくない。
 そう思うと居てもたってもいられなかった。

「リカルド」
「ん?なんだ?」

 急に立ち止まったノクスにリカルドが振り向く。

「結婚しよう」
 
真っすぐリカルドを見据えてノクスが言う。

「…………へ?」
 
 突然の事にリカルドの目が丸くなる。

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て!今なんて?もう一回言ってくれ」
 
リカルドが慌てて聞き返す。ノクスは今度はちゃんと聞き逃さないようハッキリと言う。
 
「結婚しようって言ったんだ」
「ま、マジで?本気か?」
「本当だ」

 さっきまであんなに嫌がっていたのに。どういう心境の変化だとリカルドは混乱する。
 
「俺に気を使ってるなら、それはもういいって……」
「気を使ってるわけじゃない、本当に結婚したいんだ」

もう一度リカルドの目を見て、ノクスが言う。

「お前と家族になりたい」

リカルドの目が大きく開かれる。
信じられなくてノクスの肩を掴む。

「ほ、ほんとに?ほんとにホントか?」
「くどいぞ。そんなに俺が信用できないか?」
「でも、さっきまで……」
「さっきはさっき、今は今だ。それ以上言うならやめるぞ」

 ノクスが少しイライラしてきたので、リカルドが慌てる。
 
「いやいやいやいや!やめないで!」

 このままだと様にならない。一世一代の大事な場面だ。
 リカルドは深呼吸して心を落ち着かせる。
 ノクスを真っすぐ見て、その両手をぎゅっと握る。
 
「俺と、家族になってください」

 リカルドが改まった顔でそういうと、ノクスが嬉しそうに笑う。
 
「はい」
 
 その笑顔はどんな花よりも華やかで美しかった。

「……やっ……たーーー!」

 リカルドはうれしさのあまりノクスを思いきり抱きしめる。

「う、く、苦しい……。もう少し加減しろ。この馬鹿力め……」
「ああ、すまんうれしくて」

 リカルドは腕の力を抜く。それでもノクスを離す気はない。

「約束だからな!絶対結婚するからな!」
「はいはい。分かった分かった。約束する」

 リカルドの必死な様子にノクスが笑いをこぼす。
 
「絶対だからな!あ、そうだ…!」

 そういうとリカルドはノクスを離し、近くの花壇に手を伸ばす。
そこに咲いていた白いマーガレットの花を1本手折る。
 
「すんません…!」
「おい、庭園の花を手折るのは禁止だぞ」
「今は緊急事態だ。あとで庭師に謝っておくよ」

 ノクスがたしなめるがリカルドはその茎を二つに割く。
 何をするんだろうかとノクスが見ていると、リカルドはノクスの左手を取って薬指にそれを巻き付ける。

「とりあえず、仮の婚約指輪ってことで。今度ちゃんとした奴を一緒に買いに行こう!」
 
リカルドはそう言ってからあっと思い出す。

 「あ、結婚指輪って女性に贈るものだっけ?別にお前を女扱いしてるわけじゃなくて、約束の証というか……予約というか……」

 リカルドがしどろもどろ言う。
 ノクスは左手に咲いたその花を眺めると幸せそうに微笑む。

「分かっている。花の指輪なんて子供か?まあ、お前らしいな」

 そう言ってノクスは愛し気にマーガレットの婚約指輪にキスをした。
しおりを挟む
もっとこの二人を見てみたい!と思っていただけたら、下記にオチャ様(@0_cha3)にリクエストボックスで描いていただいた、二人のイラストがありますので是非ご覧ください!めちゃくちゃ素晴らしいです!!最高です…!https://www.pixiv.net/artworks/105048584*https://www.pixiv.net/artworks/106772929また、匿名での感想などはこちらでも受け付けております!どうぞよろしくお願いいたします!https://marshmallow-qa.com/shinom773
感想 5

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...