雨、痣と隣人。

宮川 涙雨

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22、約束

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大学と真逆の位置にある彼女の学校はなかなか距離がある。
急いだ甲斐あってぎりぎり彼女に追いついたけれど、本当もう少しで校門の中に入ってしまうところだった。
まぁ、彼女のことだ。きちんとコンビニでパンを購入していたのだけれど。
…そう言えば昨日俺は彼女のクラスメイトにあれだけ見られても何も感じなかった。焦りも恐怖も特に何も無くて、今だってそうだ。特に何も気にならない。
姉が言うように本当に俺は成長しているらしい。
少し浮かれたのもつかの間、後日俺は風邪をひくことになった。



あの風邪騒動から半月が経つ。ここ数日は割と涼しい。
彼女は今、自分の家に帰っている。
今日はこれから遊園地に行くのだ。
日曜の遊園地は異常なまでに人が多いため正直あまり乗り気ではないけだけれど…いつも彼女が遊園地のポスターを眺めているのを知っているから断るわけには行かなかった。
そろそろ準備は終わったろうか?
にしても遅いな…。
…なんとなく嫌な予感がした。
少し様子を見に行くか?いや、もう少し、もう少しだけ待ってみよう。
この考えが頭をよぎるのは既に二回目だった。
「…」
ドッ。
え…?何だ今の。
「ッ!」
ゾワリと鳥肌がたった。
何だ、なんの音だったんだ?この壁の向こうで何が起きてる?
俺は玄関の外まで走ってそっと隣の家のドアノブに手をかけた。ゆっくりと力を入れると鍵が開いていて、そっと中へと入った。



「っングッ!ンヴーーーーーッ」



は?



(黙ってろクソガキがッ)



何?



「ヤっ、ンーーッヴッグッ」



何してる。



(暴れんなクソッ!入んねぇだろうがよッ)








あぁ…キモチワルイ。








まるで階段から落ちかけた時のように血の気が引く感覚があった。
一瞬寒気に襲われて、指先にぴりっと電気が走ったような。
「何…してるんです?」
(あ?)
押さえ付けられていた手の力が緩んだらしい、隙をついて彼女は男を蹴り飛ばすと俺の横を走って逃げていった。
もう何が何だかよくわからない。
その瞬間だった。
「…ぇっ、ヴッ」
男に思い切り殴られた。
痛い。頭がグラグラと揺れる感覚がして吐き気がこみ上げる。
思わず俺はその場に座り込んでしまった。男はそのまま何も言わず玄関へと向かっていく。
彼女の元へ行くのだろう。
止めなくちゃ。なのに…なぜだか体に上手く力が入らない。
早く、早く行かないと。
壁をつたってゆっくりと外へ出たあたりでやっと力が入るようになってきた。
きっと彼女は俺の家に入っていって、男はそれを追いかけたはずだ。そう思い自分の家のドアを開けるとやはり中から二人の声がした。
(最近帰ってこねぇと思ったら男の家に居たってか?さっすがあの女の血ぃひいてるだけあるなぁッ!!あの男絵描きか?これお前の絵だろ?よく出来た絵だ、なッ!!)
「いやァッ!ダメッ、やめてよぉッ!!」
俺の絵を破こうとする父を必死に止めようとする彼女の姿が目に入った。
(ってぇな、テメェ誰に口答えしてやがんだッ!)
男が彼女の顔を拳で殴りつける。
「きゃァァッ」
あぁ、彼女は女の子なのに。
「だめぇぇぇッ!!」
やめてくれよ。
うるさい。
頭が痛くなんだよ。
(テメェもだクソがッ!)
ゴッ。
痛い、また殴られた。



いたい、いたいよ本当に。



ゴッ。



痛いのは嫌いなんだ。なのに…痛いよ。










拳がさぁ。










気がつけば俺の拳は男の顔を思い切り殴り飛ばしていた。
一度殴ってしまうと止まらなくなって、二度三度と何度も殴りつけた。
「走ってッ!行きましょう、約束でしたから。先に行って待っていてください」
言葉の意味は通じただろうか。
数秒置いて彼女は走りだした。恐らく通じたのだろう。
「正当防衛ですよ」
俺はティッシュと絆創膏を出掛けるために準備していたバックへ突っ込んで彼女を追って家を出た。
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