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プロローグ 敵に託された少女
#02:今も続く昔話
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昔、大陸には二つの大国があった。
南の平原地帯を治めるアルドレアと、北の山岳地帯を治めるカルツヴェルンである。
アルドレアは民と分け隔てなく暮らす、温和な王国だった。王は民から寄せられたほんの些細な問題でも直ぐに解決したため、王は人望が厚く、とても民に親しまれていた。
一方、カルツヴェルンは男性以上に女性が力を握る軍事国家だ。女性は貴族として扱われ、男性は奴隷か召使いとして扱われていたので、結婚という風習はまるでなかった。
カルツヴェルンを治めている女王は、魔道では禁じられている不老不死の黒魔術を追い求め、宮中には数えきれない程の黒魔術師が控えていた。そのため、男の奴隷たちが反乱を起こそうとしても、軽くねじ伏せるぐらいの力を持ち合わせていた。
ある時、アルドレアの北の国境付近にある鉱山から黒魔術に使われる鉱石が採掘されたことを知ったカルツヴェルン女王は、アルドレア王にそれを譲り渡すようにと挑戦的な手紙を送った。アルドレア王は女王の狡猾さを知っていたので、条件を出してこのように返した。
──わざわざ争う必要などあるまい。黒魔術に使わないと誓えるのであれば、貿易協定を結ぼうではないか──
女王は鼻で笑うと、形式張った丁寧な書面を書き、アルドレア王と協定を結ぶことを約束した。
ところが、北の国境で行われた調印式の日、カルツヴェルンの女戦士達は油断していたアルドレア王の兵達を急襲した。
女王は、慌てふためく王を嘲笑し、こう言い放ったのだ。
「こんな子供騙しにまんまと引っかかるとは、莫迦正直なエセ君主よの。貴様のような矮小国家と仲良く手を組むとでも思ったか。密偵を送り込む手間もいらぬ。力付くでねじ伏せてやろうぞ!!」
ひとたび女王が合図の手を振るうと、一斉に色とりどりの魔法が飛びかった。
呆然とする国王の前に側近の騎士達が立ちふさがって応戦したが、爆風に吹き飛ばされ、動かなくなる者も大勢いた。
アルドレア王は僅かな兵と共に何とか逃げ果せたが、追撃の手は緩まなかった。
女王が通る道にある町や村は道を拓くかのように焼かれ、犠牲はついに民にも及んだ。
国王は怒りと哀しみに打ち震えた。我が子のように抱えている民が、次々と死んでいくのだ。
生き延びた民は口を揃えて言った。
「陛下はお優しい御方ですが、甘すぎます! このままあの悪女に殺されるぐらいなら、国を守るためにこの命、遠慮なく差し出しましょう! どうかご決断を!」
王は、自分の甘さを深く反省し、とうとう宣戦布告に応じた。
こうして、以後何百年にも渡って続く、二国間戦争が始まったのである。
南の平原地帯を治めるアルドレアと、北の山岳地帯を治めるカルツヴェルンである。
アルドレアは民と分け隔てなく暮らす、温和な王国だった。王は民から寄せられたほんの些細な問題でも直ぐに解決したため、王は人望が厚く、とても民に親しまれていた。
一方、カルツヴェルンは男性以上に女性が力を握る軍事国家だ。女性は貴族として扱われ、男性は奴隷か召使いとして扱われていたので、結婚という風習はまるでなかった。
カルツヴェルンを治めている女王は、魔道では禁じられている不老不死の黒魔術を追い求め、宮中には数えきれない程の黒魔術師が控えていた。そのため、男の奴隷たちが反乱を起こそうとしても、軽くねじ伏せるぐらいの力を持ち合わせていた。
ある時、アルドレアの北の国境付近にある鉱山から黒魔術に使われる鉱石が採掘されたことを知ったカルツヴェルン女王は、アルドレア王にそれを譲り渡すようにと挑戦的な手紙を送った。アルドレア王は女王の狡猾さを知っていたので、条件を出してこのように返した。
──わざわざ争う必要などあるまい。黒魔術に使わないと誓えるのであれば、貿易協定を結ぼうではないか──
女王は鼻で笑うと、形式張った丁寧な書面を書き、アルドレア王と協定を結ぶことを約束した。
ところが、北の国境で行われた調印式の日、カルツヴェルンの女戦士達は油断していたアルドレア王の兵達を急襲した。
女王は、慌てふためく王を嘲笑し、こう言い放ったのだ。
「こんな子供騙しにまんまと引っかかるとは、莫迦正直なエセ君主よの。貴様のような矮小国家と仲良く手を組むとでも思ったか。密偵を送り込む手間もいらぬ。力付くでねじ伏せてやろうぞ!!」
ひとたび女王が合図の手を振るうと、一斉に色とりどりの魔法が飛びかった。
呆然とする国王の前に側近の騎士達が立ちふさがって応戦したが、爆風に吹き飛ばされ、動かなくなる者も大勢いた。
アルドレア王は僅かな兵と共に何とか逃げ果せたが、追撃の手は緩まなかった。
女王が通る道にある町や村は道を拓くかのように焼かれ、犠牲はついに民にも及んだ。
国王は怒りと哀しみに打ち震えた。我が子のように抱えている民が、次々と死んでいくのだ。
生き延びた民は口を揃えて言った。
「陛下はお優しい御方ですが、甘すぎます! このままあの悪女に殺されるぐらいなら、国を守るためにこの命、遠慮なく差し出しましょう! どうかご決断を!」
王は、自分の甘さを深く反省し、とうとう宣戦布告に応じた。
こうして、以後何百年にも渡って続く、二国間戦争が始まったのである。
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