2 / 27
プロローグ 敵に託された少女
#02:今も続く昔話
しおりを挟む
昔、大陸には二つの大国があった。
南の平原地帯を治めるアルドレアと、北の山岳地帯を治めるカルツヴェルンである。
アルドレアは民と分け隔てなく暮らす、温和な王国だった。王は民から寄せられたほんの些細な問題でも直ぐに解決したため、王は人望が厚く、とても民に親しまれていた。
一方、カルツヴェルンは男性以上に女性が力を握る軍事国家だ。女性は貴族として扱われ、男性は奴隷か召使いとして扱われていたので、結婚という風習はまるでなかった。
カルツヴェルンを治めている女王は、魔道では禁じられている不老不死の黒魔術を追い求め、宮中には数えきれない程の黒魔術師が控えていた。そのため、男の奴隷たちが反乱を起こそうとしても、軽くねじ伏せるぐらいの力を持ち合わせていた。
ある時、アルドレアの北の国境付近にある鉱山から黒魔術に使われる鉱石が採掘されたことを知ったカルツヴェルン女王は、アルドレア王にそれを譲り渡すようにと挑戦的な手紙を送った。アルドレア王は女王の狡猾さを知っていたので、条件を出してこのように返した。
──わざわざ争う必要などあるまい。黒魔術に使わないと誓えるのであれば、貿易協定を結ぼうではないか──
女王は鼻で笑うと、形式張った丁寧な書面を書き、アルドレア王と協定を結ぶことを約束した。
ところが、北の国境で行われた調印式の日、カルツヴェルンの女戦士達は油断していたアルドレア王の兵達を急襲した。
女王は、慌てふためく王を嘲笑し、こう言い放ったのだ。
「こんな子供騙しにまんまと引っかかるとは、莫迦正直なエセ君主よの。貴様のような矮小国家と仲良く手を組むとでも思ったか。密偵を送り込む手間もいらぬ。力付くでねじ伏せてやろうぞ!!」
ひとたび女王が合図の手を振るうと、一斉に色とりどりの魔法が飛びかった。
呆然とする国王の前に側近の騎士達が立ちふさがって応戦したが、爆風に吹き飛ばされ、動かなくなる者も大勢いた。
アルドレア王は僅かな兵と共に何とか逃げ果せたが、追撃の手は緩まなかった。
女王が通る道にある町や村は道を拓くかのように焼かれ、犠牲はついに民にも及んだ。
国王は怒りと哀しみに打ち震えた。我が子のように抱えている民が、次々と死んでいくのだ。
生き延びた民は口を揃えて言った。
「陛下はお優しい御方ですが、甘すぎます! このままあの悪女に殺されるぐらいなら、国を守るためにこの命、遠慮なく差し出しましょう! どうかご決断を!」
王は、自分の甘さを深く反省し、とうとう宣戦布告に応じた。
こうして、以後何百年にも渡って続く、二国間戦争が始まったのである。
南の平原地帯を治めるアルドレアと、北の山岳地帯を治めるカルツヴェルンである。
アルドレアは民と分け隔てなく暮らす、温和な王国だった。王は民から寄せられたほんの些細な問題でも直ぐに解決したため、王は人望が厚く、とても民に親しまれていた。
一方、カルツヴェルンは男性以上に女性が力を握る軍事国家だ。女性は貴族として扱われ、男性は奴隷か召使いとして扱われていたので、結婚という風習はまるでなかった。
カルツヴェルンを治めている女王は、魔道では禁じられている不老不死の黒魔術を追い求め、宮中には数えきれない程の黒魔術師が控えていた。そのため、男の奴隷たちが反乱を起こそうとしても、軽くねじ伏せるぐらいの力を持ち合わせていた。
ある時、アルドレアの北の国境付近にある鉱山から黒魔術に使われる鉱石が採掘されたことを知ったカルツヴェルン女王は、アルドレア王にそれを譲り渡すようにと挑戦的な手紙を送った。アルドレア王は女王の狡猾さを知っていたので、条件を出してこのように返した。
──わざわざ争う必要などあるまい。黒魔術に使わないと誓えるのであれば、貿易協定を結ぼうではないか──
女王は鼻で笑うと、形式張った丁寧な書面を書き、アルドレア王と協定を結ぶことを約束した。
ところが、北の国境で行われた調印式の日、カルツヴェルンの女戦士達は油断していたアルドレア王の兵達を急襲した。
女王は、慌てふためく王を嘲笑し、こう言い放ったのだ。
「こんな子供騙しにまんまと引っかかるとは、莫迦正直なエセ君主よの。貴様のような矮小国家と仲良く手を組むとでも思ったか。密偵を送り込む手間もいらぬ。力付くでねじ伏せてやろうぞ!!」
ひとたび女王が合図の手を振るうと、一斉に色とりどりの魔法が飛びかった。
呆然とする国王の前に側近の騎士達が立ちふさがって応戦したが、爆風に吹き飛ばされ、動かなくなる者も大勢いた。
アルドレア王は僅かな兵と共に何とか逃げ果せたが、追撃の手は緩まなかった。
女王が通る道にある町や村は道を拓くかのように焼かれ、犠牲はついに民にも及んだ。
国王は怒りと哀しみに打ち震えた。我が子のように抱えている民が、次々と死んでいくのだ。
生き延びた民は口を揃えて言った。
「陛下はお優しい御方ですが、甘すぎます! このままあの悪女に殺されるぐらいなら、国を守るためにこの命、遠慮なく差し出しましょう! どうかご決断を!」
王は、自分の甘さを深く反省し、とうとう宣戦布告に応じた。
こうして、以後何百年にも渡って続く、二国間戦争が始まったのである。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。
処刑された王女は隣国に転生して聖女となる
空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる
生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。
しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。
同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。
「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」
しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。
「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」
これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる