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身を削って調べたこと
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「すいません前置きが変に長くなっちゃって」
と先に謝ってから、
「依頼はフールティバ製法の完全消去です」
眞白は請け負ってほしい依頼を説明する。
「この町に舘上狗の医薬品会社があるのはご存知ですか?」
『西守区番だ。ここから西に下った先にある西十守製薬会社が製造している。そこと連携を取っているのが静眞尾総合病院だ。東病棟三階と四階に入院した患者を使い、新薬の人体実験を行っていると噂が流れている』
なんですぐに分かるのだろうかと眞白は驚愕な表情を浮かべた。すでに別の依頼を請け負っているのかもしれないと焦りが生まれたが、表面は平静を取り繕う。
「その通りです。そこでフールティバを投与する実験を行いハイマヒデ病の症状を緩和できました。それにより特効薬として認定された経緯があります。しかし、フールティバは病気を治す薬ではありません。特定の遺伝子を傷つけるナノマシンです」
ハイマヒデ病は奇病である。
のどの痛みと咳から始まり二日後に四十度を超える高熱がでる。そのまま数日経過すると二つの肺に水と膿が溜まり呼吸困難を引き起こす。殆どが一時間から二時間の間で急激に溜まるため、処置ができる施設にいなければ溺死してしまう病気であった。
風邪によく似ているため初期症状から判別できず、経過をみている最中、急激に症状が悪化して死亡するケースが殆どであった。
フールティバはハイマヒデ病に効く成分が組み合わせてできた薬、ナノマシンである。画期的な薬として注目されて風邪の症状が出たら処方するようにソラギワから通達されている。
いつしか風に効くとされる総合薬よりもフールティバを服用する人が増えてきた。
そんな中、新薬服用に伴って一部の人間に強い副作用が認められた。それは脳神経に異常を起こし意識の混濁が起こり、急性腎不全を起して飲食が行えなくなり、ショック症状を起こして死亡するというものであった。
体質に合わないならば副作用があっても当然。それならば『よくあること』として看過されていたが、眞白はそこに引っかかりを覚えた。
「副作用が出る人は貧困民ばかりです。薬が効かないと訴えると量を調節するために入院を勧められます。貧困民は入院を拒みますが、その時だけは入院費を無料にすると言われると、彼らは喜んで入院します。しかし入院した人たちが生きて帰ってきたという証言はありませんでした。しかし入院を拒んでも数週間後には死亡します。僕も沢山見送りました」
眞白はギュッとこぶしを握った。
ハイマヒデ病にかかった数人の知人達は、医師の態度や薬の効果に疑問を覚えて、途中で病院から脱走した。病により働けなくなった知人達は皆、眞白を頼り、何が行われていたかを語った。
薬を投与した途端に不整脈が起こったとか。一日中薬品を点滴されたとか。入院していた者は腕をとられたとか。手術され腎臓を取られたとか。他の薬を投与されてのた打ち回っていたとか。
耳を塞ぎたくなることばかりであった。
「知人の一人が、『フールティバは薬じゃない、グロウルーナを使ったときと同じ感覚がする』と言いました。グロウルーナは貧困民で流行している危険ドラックです。それとよく似ていると言われて、僕は一部分けてもらい『何でも屋』へ名を伏せて検査依頼をしました」
フールティバを服用すれば急死を免れるが治るわけではない。溺れるような痛みと息苦しさに耐え切れず、強い痛覚遮断の効果があるグロウルーナが裏で出回っていた。
服用すれば一時的に痛みと息苦しさが消える気がするが、すぐに効果が切れる。切れたら服用するため悪循環から抜け出せない。グロウルーナを手に入れるために裏の組織に足を突っ込み消えた知人もいる。
「フールティバは知人から受け取りました。売れば金になるからと言われたので受け取りました。それも別の『何でも屋』に名を伏せて検査依頼を出しました」
世話になった代金と言いながらフールティバを出した知人は、それが最後の言葉になった。
眞白は苦笑を浮かべる。
「残念なことにフールティバもグロウルーナもほぼ同じ成分でした。この場合、それに気づいた知人が凄いんですけど、あいつもういないから、凄いって言ってやれない」
眞白は一呼吸おいてから、それで、と続ける。
「ハイマヒデ病についてもっと情報が欲しかったので、静眞尾総合病院の臨時掃除の募集に行ってきました。掃除という名の死体処理や危険物処理でしたが……危険物処理の中にシュレッターにかけられた書類などをこっそり持ち帰って復元しました。被験者の経過観察です。不要というスタンプがあったので特に用がなかったんでしょうけど。その中に一部ですが、ハイマヒデ病ウィルスの人工合成技術について手書きで書かれた物がありました」
はあ、と眞白は小さく息を吐く。感情的になってはならないと怒りを鎮めてから、続ける。
「あの病気は人間が作ったものです。そしてフールティバはウィルスを活性化させて、異能遺伝子配列を変異させるため。この病は異能者を生み出す手段の一つです」
貧困民を使った人体実験という結論にいきついたが、真実を広めて注意を促すことはできなかった。一発であの世に連れていかれては困るからだ。
「この人体実験についてソラギワは容認しているはずです。つまり、舘上狗と繋がっていると考えられます。実験体に貧困民を選んでいるのは、彼らが何もできないからという理由でしょう。上級や下級階級、一般市民は病院を訴える権利を買えますから」
『長い話、ご苦労様』
子供が労うような声色を出した。
『話を元に戻すけど、フールティバとグロウルーナが同一であり、ハイマヒデ病治療にかこつけて人体実験を行っているから、諸悪の根源である薬を叩く、っていう内容であってる?』
熱を込めて話した内容であったが、こうやって短くまとめられてしまうと、長々とした事が無駄な気がして眞白は苦笑を浮かべた。
「はい。死の恐怖を感じている人たちにやっていいことじゃない。だからフールティバの精製方法を記した物を全て消去したいんです」
『ドラックの製造方法。そこだけにあるとは限らないけど?』
「フールティバはあの製薬会社でしか作られていません。舘上狗が関与している製薬会社は二つあります。もう一つの方は製造方法を知りません。あれはあくまでも西十守製薬会社に任されたもので、ほかの製薬会社には教えていないようです」
『まぁ。ソラギワのほとんどの製薬会社は裏社会と繋がっている。舘上狗の傘下がほかの組織に情報を提供することはない。提供すれば死ぬからね』
「でも所詮、傘下なので、賄賂を多めに渡せばちょっとだけ組織の情報をくれます。俺からすれば良い取っ掛りで助かってます」
眞白がきっぱり言ったら子供が黙った。
沈黙から重苦しい空気が漂っていると感じて、眞白は口を一文字に閉じる。しかし断られてもいいから調べた事を全て陸侑に伝えようと覚悟を決めた。
「フールティバの原薬は二マモリ原料企業から仕入れています。アトアノソウの葉から作られているみたいです。西守区番の北に二マモリ原料会社が管理している広いビニールハウスがあるんですが、そこで栽培しています」
『あー先月だったな。そこで不審火……タバコの火でビニールハウスが半数以上燃えたって、ニュースに出てたやつ。もしかしてあんたが燃やしたの?』
呆れたような子供の声を聞いて、眞白はギクリと体をこわばらせると左手で頭を掻いた。間接的な原因は作ったためバツが悪そうに視線を右往左往させる。
「燃やす気はなかったんですけど……。深夜に様子を見に行ったら警備員さんに捕まりそうになって。振り払ったときに、警備員さんの咥えていたタバコが……その、落ちて、火を起こしちゃったんじゃないかなと……」
『ふぅ~ん?』
疑っている子供の声色を聞いて罪悪感が募り、眞白はインターホンから顔をそむけた。
「アトアノソウの葉っぱを一枚拝借したかっただけで火事にするつもりはなかったんです」
報道をみてびっくりした。スプリンクラーから水が出ず消化の初動動作が遅れてしまい五棟あったビニールハウスのうち三棟全焼。残り二棟は温度により品質が悪化したため、薬の在庫に影響が出ると伝えられていた。
逃げるときにうっかりスプリンクラーの水道管を踏んで壊してしまったなんて、口が裂けても言えない。
言ってしまえば、火事にしたのはお前だと指される。
尚、一週間後に様子を見に行くと、あの時の警備員の姿はなかった。気になったので調べてみると無断欠勤ののち退職扱いになっていた。
『では眞白さんの依頼を確認しよう。フールティバのレシピ完全消去。そのためには静眞尾総合病院にある薬。西十守製薬会社と原料企業の製造方法。ビニールハウス内の材料。ほかにも出回っていれば消去ってことでいいんだね?』
と先に謝ってから、
「依頼はフールティバ製法の完全消去です」
眞白は請け負ってほしい依頼を説明する。
「この町に舘上狗の医薬品会社があるのはご存知ですか?」
『西守区番だ。ここから西に下った先にある西十守製薬会社が製造している。そこと連携を取っているのが静眞尾総合病院だ。東病棟三階と四階に入院した患者を使い、新薬の人体実験を行っていると噂が流れている』
なんですぐに分かるのだろうかと眞白は驚愕な表情を浮かべた。すでに別の依頼を請け負っているのかもしれないと焦りが生まれたが、表面は平静を取り繕う。
「その通りです。そこでフールティバを投与する実験を行いハイマヒデ病の症状を緩和できました。それにより特効薬として認定された経緯があります。しかし、フールティバは病気を治す薬ではありません。特定の遺伝子を傷つけるナノマシンです」
ハイマヒデ病は奇病である。
のどの痛みと咳から始まり二日後に四十度を超える高熱がでる。そのまま数日経過すると二つの肺に水と膿が溜まり呼吸困難を引き起こす。殆どが一時間から二時間の間で急激に溜まるため、処置ができる施設にいなければ溺死してしまう病気であった。
風邪によく似ているため初期症状から判別できず、経過をみている最中、急激に症状が悪化して死亡するケースが殆どであった。
フールティバはハイマヒデ病に効く成分が組み合わせてできた薬、ナノマシンである。画期的な薬として注目されて風邪の症状が出たら処方するようにソラギワから通達されている。
いつしか風に効くとされる総合薬よりもフールティバを服用する人が増えてきた。
そんな中、新薬服用に伴って一部の人間に強い副作用が認められた。それは脳神経に異常を起こし意識の混濁が起こり、急性腎不全を起して飲食が行えなくなり、ショック症状を起こして死亡するというものであった。
体質に合わないならば副作用があっても当然。それならば『よくあること』として看過されていたが、眞白はそこに引っかかりを覚えた。
「副作用が出る人は貧困民ばかりです。薬が効かないと訴えると量を調節するために入院を勧められます。貧困民は入院を拒みますが、その時だけは入院費を無料にすると言われると、彼らは喜んで入院します。しかし入院した人たちが生きて帰ってきたという証言はありませんでした。しかし入院を拒んでも数週間後には死亡します。僕も沢山見送りました」
眞白はギュッとこぶしを握った。
ハイマヒデ病にかかった数人の知人達は、医師の態度や薬の効果に疑問を覚えて、途中で病院から脱走した。病により働けなくなった知人達は皆、眞白を頼り、何が行われていたかを語った。
薬を投与した途端に不整脈が起こったとか。一日中薬品を点滴されたとか。入院していた者は腕をとられたとか。手術され腎臓を取られたとか。他の薬を投与されてのた打ち回っていたとか。
耳を塞ぎたくなることばかりであった。
「知人の一人が、『フールティバは薬じゃない、グロウルーナを使ったときと同じ感覚がする』と言いました。グロウルーナは貧困民で流行している危険ドラックです。それとよく似ていると言われて、僕は一部分けてもらい『何でも屋』へ名を伏せて検査依頼をしました」
フールティバを服用すれば急死を免れるが治るわけではない。溺れるような痛みと息苦しさに耐え切れず、強い痛覚遮断の効果があるグロウルーナが裏で出回っていた。
服用すれば一時的に痛みと息苦しさが消える気がするが、すぐに効果が切れる。切れたら服用するため悪循環から抜け出せない。グロウルーナを手に入れるために裏の組織に足を突っ込み消えた知人もいる。
「フールティバは知人から受け取りました。売れば金になるからと言われたので受け取りました。それも別の『何でも屋』に名を伏せて検査依頼を出しました」
世話になった代金と言いながらフールティバを出した知人は、それが最後の言葉になった。
眞白は苦笑を浮かべる。
「残念なことにフールティバもグロウルーナもほぼ同じ成分でした。この場合、それに気づいた知人が凄いんですけど、あいつもういないから、凄いって言ってやれない」
眞白は一呼吸おいてから、それで、と続ける。
「ハイマヒデ病についてもっと情報が欲しかったので、静眞尾総合病院の臨時掃除の募集に行ってきました。掃除という名の死体処理や危険物処理でしたが……危険物処理の中にシュレッターにかけられた書類などをこっそり持ち帰って復元しました。被験者の経過観察です。不要というスタンプがあったので特に用がなかったんでしょうけど。その中に一部ですが、ハイマヒデ病ウィルスの人工合成技術について手書きで書かれた物がありました」
はあ、と眞白は小さく息を吐く。感情的になってはならないと怒りを鎮めてから、続ける。
「あの病気は人間が作ったものです。そしてフールティバはウィルスを活性化させて、異能遺伝子配列を変異させるため。この病は異能者を生み出す手段の一つです」
貧困民を使った人体実験という結論にいきついたが、真実を広めて注意を促すことはできなかった。一発であの世に連れていかれては困るからだ。
「この人体実験についてソラギワは容認しているはずです。つまり、舘上狗と繋がっていると考えられます。実験体に貧困民を選んでいるのは、彼らが何もできないからという理由でしょう。上級や下級階級、一般市民は病院を訴える権利を買えますから」
『長い話、ご苦労様』
子供が労うような声色を出した。
『話を元に戻すけど、フールティバとグロウルーナが同一であり、ハイマヒデ病治療にかこつけて人体実験を行っているから、諸悪の根源である薬を叩く、っていう内容であってる?』
熱を込めて話した内容であったが、こうやって短くまとめられてしまうと、長々とした事が無駄な気がして眞白は苦笑を浮かべた。
「はい。死の恐怖を感じている人たちにやっていいことじゃない。だからフールティバの精製方法を記した物を全て消去したいんです」
『ドラックの製造方法。そこだけにあるとは限らないけど?』
「フールティバはあの製薬会社でしか作られていません。舘上狗が関与している製薬会社は二つあります。もう一つの方は製造方法を知りません。あれはあくまでも西十守製薬会社に任されたもので、ほかの製薬会社には教えていないようです」
『まぁ。ソラギワのほとんどの製薬会社は裏社会と繋がっている。舘上狗の傘下がほかの組織に情報を提供することはない。提供すれば死ぬからね』
「でも所詮、傘下なので、賄賂を多めに渡せばちょっとだけ組織の情報をくれます。俺からすれば良い取っ掛りで助かってます」
眞白がきっぱり言ったら子供が黙った。
沈黙から重苦しい空気が漂っていると感じて、眞白は口を一文字に閉じる。しかし断られてもいいから調べた事を全て陸侑に伝えようと覚悟を決めた。
「フールティバの原薬は二マモリ原料企業から仕入れています。アトアノソウの葉から作られているみたいです。西守区番の北に二マモリ原料会社が管理している広いビニールハウスがあるんですが、そこで栽培しています」
『あー先月だったな。そこで不審火……タバコの火でビニールハウスが半数以上燃えたって、ニュースに出てたやつ。もしかしてあんたが燃やしたの?』
呆れたような子供の声を聞いて、眞白はギクリと体をこわばらせると左手で頭を掻いた。間接的な原因は作ったためバツが悪そうに視線を右往左往させる。
「燃やす気はなかったんですけど……。深夜に様子を見に行ったら警備員さんに捕まりそうになって。振り払ったときに、警備員さんの咥えていたタバコが……その、落ちて、火を起こしちゃったんじゃないかなと……」
『ふぅ~ん?』
疑っている子供の声色を聞いて罪悪感が募り、眞白はインターホンから顔をそむけた。
「アトアノソウの葉っぱを一枚拝借したかっただけで火事にするつもりはなかったんです」
報道をみてびっくりした。スプリンクラーから水が出ず消化の初動動作が遅れてしまい五棟あったビニールハウスのうち三棟全焼。残り二棟は温度により品質が悪化したため、薬の在庫に影響が出ると伝えられていた。
逃げるときにうっかりスプリンクラーの水道管を踏んで壊してしまったなんて、口が裂けても言えない。
言ってしまえば、火事にしたのはお前だと指される。
尚、一週間後に様子を見に行くと、あの時の警備員の姿はなかった。気になったので調べてみると無断欠勤ののち退職扱いになっていた。
『では眞白さんの依頼を確認しよう。フールティバのレシピ完全消去。そのためには静眞尾総合病院にある薬。西十守製薬会社と原料企業の製造方法。ビニールハウス内の材料。ほかにも出回っていれば消去ってことでいいんだね?』
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