水面下ならば潜ろうか

森羅秋

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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み

友達の友達は友達

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 いつしか出逢いについての話題になった。切り出したのは芙美。日常会話からさり気なく誘導した。

「シフォンさんって瞬といつ知り合ったんですか?」

 二人の関係性に興味津々なので、ここぞとばかり切り込んでくる。好奇心丸出しの芙美に対し、落ちついた雰囲気で対応するアル。

「うーん。確か幼少時だったから、俺が八歳くらいかな?」
「へぇー! 結構長い付き合いなんですねー!」
「そうだね。これからもずっと続いていければいいなって思うよ」

 言いながらアルはちらっと瞬を見ると、彼女もウンウンと頷いていた。嬉しくて口元が緩みそうなのを手で隠す。それをしっかり観察している芙美は目を輝かせ、トミヤは分かりやすいなぁと苦笑する。

「えーと。加田さんとさんは」

 ハイ。と芙美は軽く挙手した。

「加田の人一杯いるから、芙美って呼んでくれたら嬉しいです」

 おずおずとトミヤも挙手する。

「えーと。俺はどっちでもいいんですけど、……トミヤって呼んで貰えれば、いいかな」

 どっちの呼び方をしてもらうか若干迷ったような仕草を見せる。
 アルは人懐っこい笑みを浮かべる。瞬の友達だから仲良くして本当に害意がないか様子を見るつもりだ。

「分かった。じゃあ。俺もアルって呼ん……」
「私はシフォンさんと呼びますね!」
「俺はシフォンさんと呼びます。目上の人に気安く名前を呼べません」

 相手の親近感を得ようとして、二人同時に拒否られた。
 呆気にとられるアルを見て瞬は笑う。

「名前呼び拒否られてるー!」

 芙美は
「だって」
 と口を尖らせる。

「畏れ多いもの。年上を名前で呼ぶのって」

 トミヤは首を左右に振る。

「偉い立場の人を名前呼びできねーって」
「アルはそーいうの気にしないけど?」

 ギオが物珍しそうな視線を送る。アルにお近づきになりたいヒトばかり見てきたので、二人の一歩ひいた態度が新鮮だった。

「俺が気にするの」

 トミヤが眉間にシワを寄せるとギオは苦笑してトミヤに近づき握手を求めた。

「俺はギオ。まだ新米だけど兵士。何かあったら愚痴くらい聞いてやる」
「本音をいえば何もないといいんだけど。よろしく」

 トミヤは立ち上がり握手を返した。ギオはアル達が談話に集中した瞬間に、トミヤだけに聞こえるようこっそりと伝える。

「あいつと関わったらたまーに何かあるぞ。彼女共々覚悟しとけ」
「ま、まだカノジョじゃ、ねーし」

 顔を赤くしたトミヤがそう否定するとギオは呆れた。そこじゃない。とツッコミたい。

「えー? なになに?」

 芙美がひょこっとトミヤの方に顔を向けたので、トミヤはビクッと体を揺らしてギオの手を離し、椅子に座りなおす。ギオも元の席に戻った。

「なんでもない」
「何話してたの?」
「芙美こそ」

 その問いかけには瞬が答えた。

「アルがね。いつ頃私達が友達になったのか知りたいんだって」

 アルは苦笑いして頷く。

「凄く仲良しだからいつからなんだろうと思って」

 はい。と芙美が手を上げる。

「私はクラスメートです。今年の夏頃、多分三週間前に友達になりました!」
「ん?」

 パチクリと目を丸くするアルの視界に写るよう、トミヤも小さく手をあげる。アルがこっちを向いたタイミングで、ちょっと申し訳なさそうに言う。

「俺は留置場で友達に。一日ぐらいです」
「ブハッ」

 ギオが吹き出し声を殺して笑い出した。

「マジかよ。ウケる」

 ギオの感想に瞬は大きく頷く。

「凄いよね。芙美もだけど、トミヤには感謝してもしきれないわ。出会ってたった数時間で命かけてくれたんだもの芙美のために」
「だーーーーっ! 待て瞬! なんでそこ、それを知って」

 トミヤが顔を赤くしながら慌てると、瞬は半眼でにんまりと表情を緩める。

「わかるって」
「え? なになに? 私何かトミヤに恩を売ることした?」

 芙美が不思議そうに瞬とトミヤを交互に見る。

「あのねー」
「あっっ! なんでもないなんでもない!」

 瞬のコトバを遮って首を激しく左右に振るトミヤ。

「そのうち教えるってさー」

 瞬が漠然と伝えると、芙美はトミヤをみつめる。大変期待のこもった眼差しだ。トミヤの顔が真っ赤に染まる。

「なんだろうサプライズかな? 楽しみにしてるね!」
「いつ、いつかに!」

 二人のやりとりをみて、瞬はケタケタと楽しそうに笑った。
 蚊帳の外にだされたアルは呆然としながら三人のやりとりを眺める。

「え? まって!? 本当につい最近仲良くなったのか!?」

「そうだよ」
 と頷く瞬。

「勇気を出して話しかけたら凄く話しやすくて」
 と苦笑する芙美。

「男友達と話している感じでなんか?」
 と首を傾げるトミヤ。

 三人を眺めたアルはちょっと疲れたように額に手を当てた。

「……凄く親しそうだったから数年くらい経ってるのかと」
「違うんだなぁこれが」

 ケタケタ笑っていると、アルが優しい目で見つめてきた。

「そっか。よかったな瞬」

 カンゴウムシ調査で変わり者だとみなされ、友人が出来なかった瞬の過去を知っている。やっと友人ができたみたいだと、アルが心から喜ぶと。

「うん! 久々に友達できたよ」

 瞬は満面の笑みを浮かべた。


 
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