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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
思い込みが強い想い
しおりを挟む前もって指示を受けた兵士五名がガリウォントを取り囲む。
武器を手放した時点で部下に確保を任せる手順を組んでいる。経験を積ませる目論見もあるが、大きな理由は一つ。計画の全容を明らかにさせるため生かして確保することだ。
瞬が絡むと少々冷静さが欠けてしまうと分かっているため、アルなりの予防線だった。
「なん、ゲホ、ふざけるな! こんな小物どもが束になってかかってきても」
まさか選手交代に、ガリウォントは目を白黒させながら急いで立ち上がった。突撃してきた兵士二人を殴ってノックアウトさせる。
しかし防衛班チームの連係に足をすくわれ、ガリウォントが転倒した瞬間に一斉に覆いかぶさる。
「確保完了っ」
「手錠をつけろっ」
「動くなっ」
「くそ! くそが! 放せ!」
ガリウォントは腕を抑え込まれ、顔を屋根に押し付けられた。顔半分が水に沈んでいるが、ミズナビトなので溺れる心配はない。ノックアウトから目覚めた一人が加勢すると、ガシャンと手首が拘束される。
「手錠完了っ」
ガリウォントは唇を強く噛みながら呻く。捕まえた相手が自分より遥かに格下なのも手伝って悔しさも一入だ。
「くっそおおおお!」
「何故、こんなことをしたんですか? 女神反逆なんてこと……。まだ信じられません。確かに日常的に色々な不平不満は多く耳にしましたが、それでも貴方はしっかり信念を持って任務をこなしていたはずです」
アルが不思議そうに問うと、ガリウォントは奥歯で歯軋りして怒鳴る。
「うるさい! 貴様に俺の何がわかる!」
またしても暴れ始める。兵士たちが全力で押さえるが、ガリウォントは肩で器用に押して跳ねのけた。兵士達がバランスを崩して体から離れると、持ち前の腹筋と背筋をフル活用して立ち上がる。
「俺を捉えるなんて百年早いっ」
そして強靭な足で兵士一人の膝頭を踏みつけた。ベギンと音がして兵士が悲鳴をあげる。
「ああくっそ。こんなやつらに」
手錠から強引に左手を引き抜く。皮膚と一部の筋肉がえぐられ鮮血が周囲に飛び散った。
「腹立たしいっ!」
ガリウォントは兜を脱ぎ捨てアルに投げつけるが、ひょいっとかわされた。的を外した兜は屋根の水にポチャンと音を立て波紋を広げる。
「動くな!」
兵士が三人がかりで拘束する。手錠だけではまた壊されると、一人が両手を後ろに組ませて、二人がそれぞれ肩と腕を掴む。ガリウォントは彼らを相手にせず、アルだけに激しい憎悪を向けた。
「シフォン! 俺は貴様の顔が嫌いだ! 貴様のすべてが癪に障る! 見ろ! 俺はこんなに醜いのに……」
ガリウォントの顔はお世辞にもカッコイイ顔とは言えない。寧ろ、ヒトの顔とも言いづらかった。
水色肌の顔全面積に苔色の鱗がびっしり生えており、瞼のないぎょろっとした目があり、それが異様に吊り上がっている。鼻ものっぺりとしていて高さがない。
顎と唇だけがヒトなのも、体つきがヒト寄りなのも、違和感が強く出る原因でもある。
ヒトが魚の被り物を被っている風貌に生える髪の毛は癖ッ毛でふわふわしている。
かつらをかぶっているように不格好だ。
顔の偏差値がリクビト寄りになっている現在、幼少時から苦労が堪えず、見た目で判断される日々を送る。
顔で判断する愚か者を見下すためだけに、ガリウォントは兵士になった。卑怯な手を使ってまでも上の地位を獲得した。適度に成果をあげれば認めてくれる職場に満足していた。
しかしアルが就任してから、羨望の視線を一気に奪われ、築き上げてきたものがゆっくりと崩れていく感覚に陥った。
辞めさせるためにあの手この手を使っても、全くびくともしない。
日増しにイライラが募り、それがやがて憎悪へと成長した。
「貴様はその見た目から、何をしても誰からも認められる! 不公平だ! 有能な俺が評価されず、どうして貴様ばかり! 貴様が俺を貶めているのは知ってるぞ! ああ、その目だ! その憐れむような目をやめろ! 目障りだ!」
アルは困惑する。
当の本人は普通に仕事をこなしているだけだ。要件を伝えて、情報交換をして、参考にしながら解決策を投じる。
その行動には同僚を貶めるつもりもなく、評価を落とそうとしたわけもなかった。
今も、困惑するだけで、憐れんでいるわけはない。
「貴様の責で、俺がどんなに惨めだったか……。挙句の果てにはその小娘を使って、計画の邪魔をした!」
話が噛み合う気がしない。
これは自分以外の誰かが話を聞いたほうがいいかもしれない。とアルは首を傾げながら思った。
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