水面下ならば潜ろうか

森羅秋

文字の大きさ
上 下
62 / 69
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み

思い込みが強い想い

しおりを挟む

 前もって指示を受けた兵士五名がガリウォントを取り囲む。
 武器を手放した時点で部下に確保を任せる手順を組んでいる。経験を積ませる目論見もあるが、大きな理由は一つ。計画の全容を明らかにさせるため生かして確保することだ。

 瞬が絡むと少々冷静さが欠けてしまうと分かっているため、アルなりの予防線だった。

「なん、ゲホ、ふざけるな! こんな小物どもが束になってかかってきても」

 まさか選手交代に、ガリウォントは目を白黒させながら急いで立ち上がった。突撃してきた兵士二人を殴ってノックアウトさせる。
 しかし防衛班チームの連係に足をすくわれ、ガリウォントが転倒した瞬間に一斉に覆いかぶさる。

「確保完了っ」
「手錠をつけろっ」
「動くなっ」
「くそ! くそが! 放せ!」

 ガリウォントは腕を抑え込まれ、顔を屋根に押し付けられた。顔半分が水に沈んでいるが、ミズナビトなので溺れる心配はない。ノックアウトから目覚めた一人が加勢すると、ガシャンと手首が拘束される。

「手錠完了っ」

 ガリウォントは唇を強く噛みながら呻く。捕まえた相手が自分より遥かに格下なのも手伝って悔しさも一入だ。

「くっそおおおお!」
「何故、こんなことをしたんですか? 女神反逆なんてこと……。まだ信じられません。確かに日常的に色々な不平不満は多く耳にしましたが、それでも貴方はしっかり信念を持って任務をこなしていたはずです」

 アルが不思議そうに問うと、ガリウォントは奥歯で歯軋りして怒鳴る。

「うるさい! 貴様に俺の何がわかる!」

 またしても暴れ始める。兵士たちが全力で押さえるが、ガリウォントは肩で器用に押して跳ねのけた。兵士達がバランスを崩して体から離れると、持ち前の腹筋と背筋をフル活用して立ち上がる。

「俺を捉えるなんて百年早いっ」

 そして強靭な足で兵士一人の膝頭を踏みつけた。ベギンと音がして兵士が悲鳴をあげる。

「ああくっそ。こんなやつらに」

 手錠から強引に左手を引き抜く。皮膚と一部の筋肉がえぐられ鮮血が周囲に飛び散った。

「腹立たしいっ!」

 ガリウォントは兜を脱ぎ捨てアルに投げつけるが、ひょいっとかわされた。的を外した兜は屋根の水にポチャンと音を立て波紋を広げる。

「動くな!」

 兵士が三人がかりで拘束する。手錠だけではまた壊されると、一人が両手を後ろに組ませて、二人がそれぞれ肩と腕を掴む。ガリウォントは彼らを相手にせず、アルだけに激しい憎悪を向けた。

「シフォン! 俺は貴様の顔が嫌いだ! 貴様のすべてが癪に障る! 見ろ! 俺はこんなに醜いのに……」

 ガリウォントの顔はお世辞にもカッコイイ顔とは言えない。寧ろ、ヒトの顔とも言いづらかった。

 水色肌の顔全面積に苔色の鱗がびっしり生えており、瞼のないぎょろっとした目があり、それが異様に吊り上がっている。鼻ものっぺりとしていて高さがない。
 顎と唇だけがヒトなのも、体つきがヒト寄りなのも、違和感が強く出る原因でもある。
 ヒトが魚の被り物を被っている風貌に生える髪の毛は癖ッ毛でふわふわしている。
 かつらをかぶっているように不格好だ。

 顔の偏差値がリクビト寄りになっている現在、幼少時から苦労が堪えず、見た目で判断される日々を送る。
 顔で判断する愚か者を見下すためだけに、ガリウォントは兵士になった。卑怯な手を使ってまでも上の地位を獲得した。適度に成果をあげれば認めてくれる職場に満足していた。
 しかしアルが就任してから、羨望の視線を一気に奪われ、築き上げてきたものがゆっくりと崩れていく感覚に陥った。
 辞めさせるためにあの手この手を使っても、全くびくともしない。
 日増しにイライラが募り、それがやがて憎悪へと成長した。

「貴様はその見た目から、何をしても誰からも認められる! 不公平だ! 有能な俺が評価されず、どうして貴様ばかり! 貴様が俺を貶めているのは知ってるぞ! ああ、その目だ! その憐れむような目をやめろ! 目障りだ!」

 アルは困惑する。
 当の本人は普通に仕事をこなしているだけだ。要件を伝えて、情報交換をして、参考にしながら解決策を投じる。
 その行動には同僚を貶めるつもりもなく、評価を落とそうとしたわけもなかった。
 今も、困惑するだけで、憐れんでいるわけはない。

「貴様の責で、俺がどんなに惨めだったか……。挙句の果てにはその小娘を使って、計画の邪魔をした!」

 話が噛み合う気がしない。
 これは自分以外の誰かが話を聞いたほうがいいかもしれない。とアルは首を傾げながら思った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

《なんで私だけ?》調査会

織賀光希
ミステリー
なんで私だけ?を調査する会。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

処理中です...