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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
ファインプレー
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パッと目をあけると、ガリウォントの姿が消えていた。
今のうちに、と瞬はもたつきながらも水面を目指す。二メートルほど移動したときに、誰かに体を持ち上げられ、急浮上した。あれ、と気づいたときには水面に顔を出していた。
「ぶはぁ!」
水面から顔を出し新鮮な空気をむさぼると、瞬は手が届いた屋根に腹ばいで上った。全身が水中から出たところで、そのまま寝転がる。肩で息をしながら数回せき込んだ。
「はー。はー。ほんっとうに死ぬかと思った」
すぐに呼吸を整えて起き上がると、腹ばいで屋根に上がった恩人に頭を下げた。
「ありがとトミヤ。助かったよ」
「どーいたしまして」
心底疲れた表情のトミヤは水辺から少し遠ざかると、そのまま座り込んだ。多少擦り傷があるが大怪我はしていない。深く大きく深呼吸をして、だるそうに目を瞑った。
「やっとの事で逃げ切ったら水に流されるだろ? 死ぬかと思った」
「無事で良かったよ。芙美には会った?」
トミヤは頷く。
「泳いでたら屋根の上で泣いている芙美を見つけたんだ。怪我したのかと吃驚したけど、瞬がアレに襲われて水中に引きずり込まれたって聞いたから追いかけたんだ。間に合ってよかった」
「よかった! 芙美は無事だったんだ。はああああ、良かったあああああ。ゲマインに何かされてないといいなって心配したよ」
瞬は心の底から安堵した。そしてトミヤを見る。
「よく私の位置がわかったね」
「建物の位置による水の流れを把握してたから、時間と距離を大まかに計算して位置を予想したんだ」
「わぁ。凄い」
瞬が手を叩いて褒めると、トミヤは首を左右に振った。
「水面を見るだけで水流れの強さを把握しないとダメだって言われてる」
瞬が首を傾げると、トミヤはもう一度首を左右に振った。
「内輪ネタだから気にすんな。それにしても、瞬は泳ぎ下手だったんだな。水が流れるって知ってるんだから、もっと早く言ってくれよ」
「うぐっっ」
と瞬は変な声を出し、思わず視線をそらす。
「やっぱ、分かった?」
「浮上してるのか、溺れているのか悩んだ」
両手ばたつかせたへたっぴな泳ぎを見られて、バツが悪そうに苦笑いしてから、瞬は話題を変える。
「トミヤは、泳ぎ得意なんだね」
「得意中の得意」
「助かりました」
と、瞬はぺこりとお辞儀をすると、
「いえいえ」
と、トミヤもぺこりとお辞儀した。
「それと、どうやってガリをやっつけたの?」
「んー……。大したことしてないけど」
トミヤは頭をかりかり掻くと、髪の水滴がぱらぱらと散った。
「あいつの頭や体に当たるように看板とか、重い物を二つ流したら全て命中したんだ。その隙をついて体当たりして流れの強いところに飛ばした」
数秒沈黙して、瞬は爆笑した。
「あはははは! それ凄いね!」
「だろー! あんなに見事に当たるとは思わなかった!」
トミヤも爆笑して、一分後、二人は我に返る。
「いや、笑ってる場合じゃないわ」
「そうだった」
まだ危険な状況である。呑気に笑っている場合ではない。
「よし、移動するか。……って」
立ち上がったトミヤは瞬をの足を見て目を丸くする。水中では全然気づかなかったが、左ふともものズボンが破けて、そこからの出血が屋根を濡らしていた。
「その血どうした!? 怪我してるじゃないか!? 大丈夫か!? いや大丈夫じゃないよな!?」
「ばれちゃった」
「めちゃくちゃ出血してるよな!? 動けるのか!?」
「えーと」
立とうとすると激痛が走った。ので座り込む。
「立ちたくない」
「怪我の具合は?」
瞬は血に染まっているズボンの切れ端を捲る。パックリと肉が切れ血がだらだらと流れていた。大量ではないが少量でもなさそうだ。見ていると余計に痛くなりそうなので、そっと隠し、苦々しく眉を潜める。
「結構、深い」
「そうだよな! 止血、止血、…………ハンカチも何も持ってない!」
放っても自然に止まるような傷ではなかったと、軽くパニックになりトミヤが声を上げた。瞬は苦笑いしながら落ち着くように促す。
「気にしないでいいよ。私も……おやつしかポケットに入ってない」
「おやつかよ」
怪我をしている本人が気楽に答えるので、トミヤは脱力しながらツッコミを入れた。瞬はぷぅっと頬を膨らます。
「おやつ大事。いざと言うときに命を救ってくれるはずだから」
そうか。とトミヤは呆れながら返事をした。痛がっている様子はないので大丈夫かなと思い始める。
そう思わせるのが瞬の狙いだ。
傷は深く範囲も広いうえ、水中で沢山出血していて足に力が入らない。じっとしていても、ズキンズキンと激しい痛みがある。
怪我の具合を正直に伝えたらトミヤに負担がかかる。彼も大概正義感が強い。大怪我だと分かれば瞬を見捨てることができないはずだ。
(逃げてくれないと困るんだよねぇ。痛い目をするのは私だけでいいんだから)
おそらくガリウォントはここに来る。トミヤだけでも早く逃がさなければならない。
瞬は極力明るい口調で呼びかけた。
「私はもう少しここに居るから、トミヤは芙美の所に戻って私の無事を伝えてよ」
瞬の怪我を気にして躊躇うような素振りをみせたが、トミヤは、わかった。と頷く。
ここに居ても何もできないから、芙美と一緒に助けを呼ぼうと考えた。
「芙美と一緒に警護隊か兵士探してくるから、ここで待ってろよ」
助けを呼びに行くのか、と瞬は目をぱちくりとさせる。嬉しくて泣きそうな気持になりながら、ゆっくりと苦笑した。
「ほんと、トミヤって面倒見がいいね」
「人として当然だろ」
さらっと言われた。カッコイイ奴だなぁと瞬は感心する。
「ありがとー! 気を付け……」
バシャ!
ペト、ペト……
反射的に二人は音が聞こえた方向に振り返った。
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