水面下ならば潜ろうか

森羅秋

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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み

自白した黒幕

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(認めたあああああ!? 勝手に自白したしなんだこいつ!?)

 誰が聞いているか分からない場所での発言に本気で驚いて、瞬はアンパン口をあけた。

「全てはシフォンに罪を着せる為に計画したことだ。今頃上層部が動いているだろう。ククク、いい気味だ」
「はあ!? 何がいい気味よ、ふざけないで!」

 瞬は怒りを覚え、反射的に噛みついた。

「人に罪を着せるのも問題だけど、アルのせいにするのは大問題よ!」
「何が大問題だ当然の報いだ!」

 カッと血が登ったガリウォントは即座に反論する。

「あいつは俺の出世を邪魔して! 邪魔しまくって! 手柄を独り占めする! 俺の言い分は全く通らないのにあいつの一言で方針が決まることが多い。あいつだけ上司に贔屓されているのが腹立たしい! 俺のような経験豊富な人材に人気なく、あいつみたいなカスに期待が集まるとはどういうことだ! 世の中、間違っている!」

 堰を切った様に怨言をつらつら綴り吠える姿をみて、瞬は怒りを通り越してスーッと血が降りてくる。アルの悪口を聞かされて、あっさりと我慢の限界を超えた。冷静に叱る様な口調で言い返す。

「いい加減にするのはそっちでしょ? 大人が何言ってるの! 逆恨みもいいとこじゃない!」
「逆恨み、だと? 何を根拠にーーっ」 
「あんたの噂聞いてるわよ! 人の手柄は自分の物にするわ。人助けしないで嫌がらせをするわ。それで何人の兵士が辞表を書いたと思ってんのよ!」
「なっ」

 瞬からの威圧に驚き、ガリウォントは一歩後退する。

「私ですら知ってるくらいなのよ! そんな陰険な人が信頼を得られるなんて無理でしょ! アルは人の役に立とうってむちゃくちゃ頑張ってんだよ! 人気に差が出るのは当たり前だし! あんたの口からアルの批判聞きたくないし、あんたがアルを語る権利は全くない!」
「クソガキの分際で儂を侮辱するか!」

 憤怒したガリウォントは鞘から勢いよく剣を抜いた。
 フーフーと荒い息遣いをして瞬を睨むが、彼女は肩をすくめて、ふふ。と笑った。

「と、こんなことを話してもしょうがない。どうせ理解できないもんね。理解出来たら犯罪をして罪を被せるなんて事、するわけないもんね。そーでしょ~~? お馬鹿さん」

 相手を小馬鹿にしながら、清々しい笑顔で言い放った。

「貴様ああああああ!」

 冷静さを失ったガリウォントは、剣を振り上げて鉄格子に切りつける。
 ガアアアアンンン。
 と、派手な音を立てて鉄格子が振動する。

「ひぃ……っっ」

 恐怖に震えあがった芙美が小さく悲鳴をあげた。身を小さくして耳を塞ぐ。
 一方、命の危険に晒されている瞬はとても冷静に観察している。

(挑発に乗りやすいなー。アルが鬼門っぽいけど)

 とはいえ、このまま何もしないでいると、中に入ってきて剣を振り回しそうである。ドアが開いたら逃げ出せそうだが、狭い室内で剣を振り回されたら逃げる前に血だらけになる。
 リスクを考え、正気に戻すことにした。
 あの手の輩はこちらの無知をアピールするか、遠回しに褒めると良い。

「それで? 改造したカンゴウムシを泉都市に放して、パニックを起こす責任を取らせようとしたの?」
「…………それもある」

 フーフーと呼吸を整え、ガリウォントは剣を構えるのを止めた。口調に落ち着きが出てきたので正気に戻ったようだ。

「だがそれだとまだ罪が軽い。死罪にするにはもっと思い罪でないと」

 そんな気がしたが、本人の口から聞くと重みが違う。
 瞬は今思いついたようなリアクションをした。

「え、まって、死罪が適応されるのって…………。女神反逆の罪……っ」
「そうだ。シフォンを反逆者に仕立て上げ殺害する。そのために大量の虫を作り、毒素を浄化させ女神を衰弱化させる。あわよくば女神の代替わりも進められる」

「な!?」
 とトミヤが声を上げ

「え!?」
 と芙美が驚いて声を上げる。

 女神にまで危害を加えると思っていない者からすれば当然の反応だ。

(ってことは、被れの木の倒木による水質汚染もガリがやった可能性がある)

 瞬は驚かず逆に納得する。

「やはり貴様は驚かない」

 ガリウォントが苦々しく呟いた。瞬が視線を戻すと、彼は鉄格子に兜が付くぐらい近づいていたので驚く。
 部屋の中央にいるので外から手は届かないが、音もなく急に接近されると心臓に悪い。

「いやいや。驚いてる。驚きすぎて声が出ないだけ」

 瞬がそう否定すると、ガリウォントが舌打ちをする。

「どこまで把握しているのか知らないが、忌々しい」

 瞬は意志が強くこもった眼差しを向ける。

「つまりは、被れの木の倒木汚染はあんたがやったってことよね?」

 と、言った途端、スッと剣の切っ先が視界に入って、瞬の鼻先四センチほどの間隔を空けてピタリと止まる。
 眉間めがけて剣を突いたが届かなかったようだ。
 脅しなのか本気なのかはこの際置いといて、鉄格子からかなり離れてて良かったと安堵する。でなければ額を切られていたか、頭を貫かれていたに違いない。

(早業。太刀筋見えなかったー。サシでの勝負は私が負けちゃうなぁ)

 瞬はガリウォントを見つめながら不敵に笑う。

「大正解ってことかな?」

 ガリウォントが盛大な舌打ちをした。
 驚くことも、泣くことも、混乱することもなく平然と立っている瞬に苛立った。それと同時に、確実に何かの情報が洩れていると推測する。

「驚きもしないか。クソガキが」
「驚いたわよ」

 と瞬は肩をすくめた。

「カンゴウムシ改造だけじゃなくて、被れの木の汚染までやってるなんて。他にも何かやってんじゃないの?」
「汚染なら被れの木とカンゴウムシで十分だ。証拠が出るようにしないといけなかったからな」
「罪が明らかになりやすいように?」

「そうだ」
 と、ガリウォントが頷く。

 瞬は腕を組んで頭を傾げる。

「ついでに確認するんだけど、私も殺される手筈になってる?」

 なんだかんだで色々教えてくれている。これは冥土の土産というやつではないだろうか。

「手筈? ははは!」

 ガリウォントは鉄格子から剣を引き抜き、鞘に納めながら鼻で笑う。

「当然、最初からそのつもりだ」
「最初から?」
 
 と聞き返しながら、瞬は眉間にしわを寄せる。
 ガリウォントは階段方向へ体を向けた。

 「貴様が惨たらしく死んだら、シフォンの精神にダメージを負わせらえる。絶望の中で死刑宣告を受ける姿を見るのが楽しみだ」
「んー? 今殺さないの?」
「その必要はないだろう。貴様は『泉都市で洪水の最中にトラブルがあって死んでしまう』のだから。儂が手を下すまでもない」

「なるほどねー」
 と、頷いて
「あ!」
 と慌ててガリウォントを呼び止める。

「まって! 私以外はどうするの!?」
「一緒に死ぬんだろう。哀れだな」
「あーーーーーっっ!」

 やらかしたーーー! と言わんばかりに瞬は叫んだ。
 ガリウォントは清々したとばかりに、軽やかな足取りでその場から去っていった。

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