水面下ならば潜ろうか

森羅秋

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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み

声をかけた者は

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「!?」
「ひやぁ!」

 ドキドキする心臓を落ち着かせながら、二人はキョロキョロと辺りを見渡す。

「そのまま動くな!」

 公園のフェンス越しに誰かいる。

「…………兵士?」

 瞬が訝しげに呟くと、三人の兵士が懐中電灯を向けて駆け足でやってくる。ふと、逃げないといけない気がした。ここで悪い事をしていないが、普段の行いが行いなので少々後ろめたい気分になる。

(避難していないから注意されるかもしれない)

 そう思った瞬だったが、いやまてよと首を捻る。
 ここは泉都市だ。避難勧告で市民避難誘導はリクビト警備隊である。兵士が誘導するのは妙だ。しかも只ならぬ雰囲気を感じる。

(泉都市に兵士が巡回パトロールするなんて、あんまり聞いたことないけど、それほど人手が足りてないのか、もしくは別件の事件が発生したのかな?)

「瞬、あれって……兵士だよね? おかしくない?」

 芙美も違和感に気づいて不安そうに眉を下げた。心細くて瞬の腕を掴む。

「うん、おかしいと思う。何かあったのかな?」

 瞬は同意しながら、芙美の手に手を添える。
 近づいてくる兵士は茶色の鎧だった。安全対策課のパトロールを担う兵士だ。カンゴウムシについて調査していたのかもしれない、と瞬は少しだけ緊張を解く。
 三人の兵士が二人を囲むような配置で立ち止まると、芙美は不安そうに兵士を見上げた。

「こんばんは。今から避難しますから大丈夫です……?」

 声掛けをしても兵士たちからの返事がなく、瞬を凝視している。そのうちの一人が何やら目配せをすると、残りが頷いた。

(なんなんだ?)

 訝しがっていると、兵士の一人が瞬の腕を乱暴に掴んだ。
 瞬は驚いて一歩下がる。

「え? 何?」
「人相の特徴にそっくりだ! こいつだな!」
「は!? ちょ、ちょっと?」

 ビックリして手を振り払おうとするが、背後に回り込んだ二人目の兵士が瞬の腕を掴む。すると、兵士に挟まれ連行される形になった。

「え? え? えー?」

 瞬は左右の兵士を見上げた。意図が分からず困惑してしまう。

「あのー。説明くらいしてくれますか?」

 静かに呼びかけると、掴んでいる兵士が見下ろしてきた。兜で表情が分からないから不気味である。

「来い!」

 と、一喝すると、兵士たちは瞬を無理矢理歩かせた。何処かへ連れて行こうとしているようだ。

 瞬は状況が理解できず
「あのー? 説明はー?」
 と聞くことしかできない。

「え!? え!? どーいうこと!?」

 芙美は何もされていないが、驚いて右往左往している。
 瞬だけ連れていかれるようだ。

(んーーー? 『人相の特徴にそっくりだ』って言ってたから、『探している人の特徴が私によく似ている』ってことかな? 女神さまに会いに行ってたのがバレちゃったのかなー?)

 原因がわからないので、とりあえず瞬は大人しく従った。
 公園を出たあたりで兵士に呼びかける。

「私、何かしたんですか?」

「しらじらしい!」
 と、兵士は軽蔑したような口調で言い放った。

「改造カンゴウムシを泉都市に放し、混乱に陥らせた一味だと知っているぞ!」
「なんでやねん」

 瞬は冷たい口調でツッコミした。

「単なる学生が出来るわけがない。人違いです」
「学生……?」

 右側の兵士に動揺の動きが出る。

「そうよ! 夏休みの自由研究でカンゴウムシを調べてたの!」

 芙美が後を追いかけて叫んだ。二人の兵士がぴたりと動きを止める。瞬に駆けよろうとして三人目の兵士に停められる。焦りを覚えた瞬だが、ここで抵抗しても印象は良くないと深呼吸をして落ち着き、優しく芙美に呼びかけた。

「芙美。私は大丈夫だから付いてきちゃダメ」

 芙美はパッと顔を上げた。悔しそうに眉間にしわが寄っている。
 それをみて瞬はハラハラした。正義感の強い彼女が暴走しないように祈る。
 祈るが……案の定。
 
 芙美は三人目の兵士を振り払って、連行する兵士の前に立ちふさがる。瞬は渋い表情になり額を押さえた。

「自由研究で捕獲した後は、ちゃんと市販の浄化水を使って始末しました! だから自然に戻していません! 完全に人違いです! 瞬を放してください!」
 
 無実を訴えつつ、瞬を拘束する兵士の腕にしがみついて引きはがそうとする。
 正義感が強い怖い物知らずの行動を目の当たりにして、瞬は純粋に感心した。

「こ、こいつ!」
「ああああ! もおおおお! こいつも一緒に連れて行け!」

 よほど意外だったのか、兵士たちは芙美の勢いにたじろぐものの、仲間と判断して一緒に連行することにした。

「離してよ! 触らないでってばぁ! 冤罪よ!」

 連行されても萎れるどころか、彼女の勢いは止まらない。
 これには瞬も参ったように苦笑いをして兵士たちに、すいません。と謝っていた。

「芙美、落ち着こう。芙美~~~~」
「もっとよく調べてってばああああああ! おかしいでしょーーっ!」

 芙美の訴えも空しく、兵士たちは二人を車に乗せて、アクアソフィーの地下留置所へ向かった。




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