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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
物事が上手くいく
しおりを挟むメガトポリスの最上階にある会議室では、代表を含め様々な分野のトップが円形のテーブルに等間隔に座り、頭を悩ませていた。
泉都市で新たに見つかった改造カンゴウムシは一か月も経過しない内にその数を爆発的に増やし、森を浸食するばかりでは飽き足らず、町にまで溢れて人々に怪我をさせるほど、被害が増えてしまっていた。
解決策として浄化水を新たに作らせて対処するも、焼け石に水と言わんばかり。
致命打にはならず、侵攻を少し止める程度に留まっている。
ミズナビトの代表達と何度も会議を行い、人員を割いてもらい原因究明と解決策を論じているが、これまた時間だけが無情に過ぎていく結果になった。
そもそも誰が改造したか点から憶測が始まり、今はその段階じゃないと憶測が終了。
カンゴウムシを殲滅するにはライニディーネーしかないという結論に達するも、女神ミナは深淵都市の被れの木の倒木による水質汚染の中和に集中しているため、カンゴウムシの浄化を行う余裕はない。との返答だった。
八方ふさがりだ、と代表たちは頭を抱えていた。
「住民たちがそれぞれ対処できるようマニュアルを作れば」
「いやいや、カンゴウムシは老人や子供には対処できず」
「否! 毒もある! 素人は危険だ」
「しかし今は人手が足りない。時間が経てばたつほど、我々の力では対応できなくなる」
改造カンゴウムシは未だ進化の途中だと研究結果が出ている。一週間前にはアオダイショウサイズのムカデ型カンゴウムシ目撃があった。時間の経過とともにカンゴウムシの生態が大きく変わるだろう。従来よりも毒性が強く、群れを成してヒトを積極的に襲うはずだ。
早急に解決策を出し実行しなければならないが、ライ二ディーネー以外の案が出てこない。
時間がかかると判断し、人為的被害の拡大を防ぐ為に住民全員をメガトポリスに避難させた。その間に警備隊が総出でカンゴウムシを排除しているが、手が足りないのは火を見るより明らかである。
「女神様が決断をしてくれれば……」
「しかしそれによって女神様になにかあれば取り返しがつかない」
「被れの木の汚染が泉都市の水脈に混ざったら、それこそ未曽有の死者がでます」
「やはりカンゴウムシはこちらで対処するしか」
「改造カンゴウムシに効果のある浄化水の開発を進めていますが……いまだ時間が必要です」
堂々巡りの会議が続き、時間だけが刻々と進んでいく。
「会議中に失礼します!」
会議室のドアが勢いよく開き、ミズナビトの兵士が駆け込んできた。
代表たちは何事かと訝しげに視線を向ける。
「何事かな?」
「女神様からの緊急連絡があります!」
ザワっと室内が色めき立った。代表が目配せして兵士に話の続きを促す。
「カンゴウムシ改造の首謀者及び協力者判明。現在逃走を図っており追跡中です」
会議室にざわめきが起こる。
「女神ミナ様から通達。『一時間後にライニディーネーが発生します。リクビトは全員、メガトポリスへ避難するように誘導をお願いします』。なお、避難が間に合わない場合は屋根などの高い場所に待機してください。兵士が泉都市を巡回して救出活動を行います」
その場にいた全員が椅子から立ち上がる。その顔は驚きと喜びに満ちていた。
「なんと!? これは有難い!」
「ライニディーネ―が発動すればカンゴウムシを一掃できる!」
リクビト達が歓声の声を挙げる。代表が兵士に歩み寄ると、兵士は会釈をした。
「ありがとう! いい知らせを届けてくれて。しかし通信で知らせてくれてもよかったのではないか? 女神様はなぜ自らのお言葉を伝えなかったのですか?」
「申し訳ありません。私たちも会議中だったのです。今から20分前でしょうか。女神様から決行するとのお言葉がありました。通信をつなぎリアルタイムで一緒にお言葉を聞きたかったのですが」
兵士は表情をこわばらせた。
「現在、泉都市と深淵都市の通信機器に少々混乱が生じています。反逆者たちの仕業だと判明し、復旧作業を行っております。本来ならば代表がこの場へ赴き伝える内容ですが、多忙な故、僭越ながら護衛の自分が口頭にて伝えるために伺いました」
「報告は受けているが、やはり兵士から反逆者がでてしまったのか……」
代表が辛そうに顔をゆがめると、兵士が落胆して肩を落とした。
「お恥ずかしい限りです。それでは通信が回復次第、女神ミナ様からのお言葉があります。このままお待ちください」
「わかった」
「では失礼致します」
兵士はもう一度会釈をすると、ドアから出て行った。
代表が振り返ると部下たちは各部署に連絡を始めていた。
丁度、窓から光が差し込んでくる。日の出の時間が近づいてきた。
瞬達はメガトポリス敷地内の端っこにあるホープを抜けて泉都市に帰ってきた。
まだ夜が明けていないが暗闇が薄れている、夜明けは近い。
警護隊と兵士の姿がちらほら見える。ここにいる兵士はリクビトの避難を促すために活動しているが、三人はそれを知らない。兵士の対応が記憶に新しい三人はお互いに顔を見合わせ無言で頷き、兵士から隠れるようにこそこそと歩いた。
メガトポリスまでの道中、あちこちで改造カンゴウムシが溢れていたが、充実感で一杯の三人は気にしていない。
トミヤが大きく背伸びをした。
「一生分体験した気がする。ふわぁ眠い」
「五時前だからねぇ。徹夜って勉強しかやったことなくて……なんか急に寝むぅぅぅい」
腕時計を見ながら、芙美は目を擦りつつ大あくびをした。
瞬も大あくびをしながら、眠気を飛ばすように大きく背伸びをする。
「お疲れふぁまれしたぁ」
「避難所に着いたら話してくれよ」
トミヤの催促をうけ、瞬は苦笑する。
「なるべく人の少ない所で話したんだけどなぁ」
「えー」
「えーじゃない。内密なの。ヒトの多い場所では話できませーん」
「じゃぁ当分お預けかぁ」
ガッカリしたトミヤをみて、芙美はクスクスと声を殺して笑う。
「落ち着いたら話しようよ。あとで連絡先交換ね」
「あ……うん、交換する」
トミヤは頬を一気に赤くして何度も首を縦に振る。
瞬はにやにやしながら眺めて、ふと閃く。
「どうせしばらくメガトポリスの中だし、内密な話は出来ないけど、トミヤも一緒に遊ぼうよ」
「それいいね!」
芙美はすぐに賛成した。
「夏休みの宿題もあるから、トミヤも一緒に勉強会しよう! っていうか、同い年だっけ?」
「来月17歳」
「わぁ! 同い年だわ。私は6月に17歳になったばかりなの」
瞬が吃驚した声をあげた。
「え!? じゃぁ私が一番年下!?」
芙美とトミヤが瞬に注目する。
「瞬は何月なの?」
「12月」
「年下だー!」
「年下だったのねー!」
トミヤと芙美は楽しそうに声をあげて笑うと、自分たちより数か月年下だったなんて意外だ。と付け加える。
「いやいや。年内に同い年になるって! 年下じゃないって!」
瞬は心外とばかりに慌てて訂正する。その姿にツボり、徹夜のテンションも混ざって二人はケラケラ楽しそうに笑った。
「もー!」
瞬は非難の声をだすものの、すぐに二人に混じって大笑いをした。
そのまま楽しい気分でメガトポリスに行く。
到着したら避難所でそれぞれ家族のもとに戻って一度別れる。瞬は間違いなく説教を受けるだろう。
次の日に芙美とトミヤに会いに行って夏休みの宿題をやる。
アルと合流して、後日談をして、カンゴウムシ事件は一件落着。
めでたし、めでたし
――――と、そんな風には終わらなかった。
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