水面下ならば潜ろうか

森羅秋

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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み

頼んだ!

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 ギオは何故そんな表情をするのか分からなかったので首を傾げたが、

「心配してくれてたんだぁ~~~?」

 この瞬の言葉にギオはしまったと体を強張らせた。そして後悔する。ちょっとでも心配するような言葉をかけると大いにからかわれ、恥ずかしい気持ちになり痛い目を見る。

「で? お前、こんな所でなにやってんだ?」

 自分の失言を消すかのごとく、ギオがすぐに本題に入ると、瞬はもう少し遊んで弄りたかったようで「ちぇ」っと小さく舌打ちが聞こえた。危なかった……とギオは額に汗を浮かべる。そんなギオの心情に気づかない瞬は普通に戻る。

「これだよ。アルに貢物をしにきたんだけど留守だったんだ」

 瞬は紙袋を抱き上げて見せるとギオはジロジロ眺める。

「貢物……ってこれか?」
「そうそう。少しくらいは聞いてるんじゃない? それとも全然聞いてない? 聞いてても忘れてたとか?」
「まぁ多少は聞いてる……って、アルに怒られるから忘れるわけねぇ!」

 ギオは声を荒げながら瞬に突っかかってくる。瞬はそれを笑いながらかわし「はいはい」と手をヒラヒラさせた。

「分かってる分かってる。シフォンくんとは何度も一緒に調査したことあるし、信用してるって。ってことで、本題。私の代わりに貢物をアルに渡してくれる?」

 瞬はハートマークの紙袋を指差した。

「べつにいいけど」

 受け取りながら、ギオはじっとハートマークの紙袋を凝視した。何しろ、瞬がこのような可愛らしい包みを持つこと自体、悪寒を感じる。中身が異様に気になった。どんなグロテスクな物を入れているのだろうと興味が沸く。

「中、見てもいいか?」

 結局、気になって聞いてみると、瞬は「良いよ」と首を縦に振る。ギオは紙袋を開け中を覗いて一瞬固まった。黄土色の赤いリボンをした、四十センチ大の熊の縫いぐるみ、少々歪な形をしているが、つぶらな瞳がとってもラブリーな手作りのテディベアだ。

「これは?」

 まともだと衝撃を受けて固まっているギオをよそに、瞬は質問に答える。

「手作りの縫いぐるみ」
「んなこと、見て判る!」
「目に力を入れて、猫目にしてみました! 可愛いデショ」
「んなこと、聞いてない!」
「ギオをモデルにしてみました~! だからちょっといたずらっ子風に」
「だから聞いてないだろ! っていうか俺をモデルって嫌な単語つけるな馬鹿!」

 今度は噛み付かんばかりに言い放ったが、瞬はノリノリだ。シャイな年下男子と戯れを楽しんでいる。

「くまを初めて縫ってみたけど、いい仕上がりになったと思うんだよね。シフォンくんクマ」
「……あー……マジで手作りなのかー。無駄に器用だなぁ」

 ギオは反発をやめた。もっと文句を言いたかったが、どの言葉を言っても言い返されて負ける。仕方ないので怒りを消化することにした。かなり胃にもたれそうだと胃を押さえる。

「分かった。自宅に持って帰ってアルに渡すから、さっさと帰れ」

 ギオは紙袋に縫いぐるみを元通りに入れ直す。疲れ果てたギオを見つめながら、瞬はすこし含みのある言い方をした。

「アル以外に渡したら駄目だよ」
「はいはい。お前からの貢物をアル以外の誰かに渡すなんて考えただけでもゾッとする」
「ねーえ、シフォンくーん? 分かってないよーなので付け加えるんだけどー?」

 瞬はギオに顔を両手で掴んでぐいっと向かせた。途端、ギオは「げ」と息を飲んだ。瞬は視線を鋭くさせながら、ニコリと重圧のある笑みを浮かべて真面目に告げた。

「結果ありだから頼んだよ」
「っ!?」

 この一言で、ギオは縫いぐるみの意味を悟った。だからプレゼントとは言わず貢物と言ったのだと気づく。瞬は証拠をまとめたデータをテディベアの中に入れているのだ。

「分かった。絶対に渡しておく」

 ギオは意志の灯った鋭い視線で頷いた。責任重大だ。絶対にアル以外に渡せないと抱きしめる紙袋に深いしわが寄っていく。

「よろしくね」

 その様子をみた瞬は安心する。彼も信用できるヒトだ。アルと直接やり取り出来ない時で急を要する時は問答無用で協力してもらう貴重な人材である。

「さてと。私は帰ろっと。あー、そうだ! シフォンくん、一緒にアクアソフィーまで行かない?」
「やだ」

 軽い口調で誘ったがギオに速攻で断られてしまった。
「残念」
 と苦笑しながら、瞬は公園を後にした。

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