33 / 69
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
頼んだ!
しおりを挟むギオは何故そんな表情をするのか分からなかったので首を傾げたが、
「心配してくれてたんだぁ~~~?」
この瞬の言葉にギオはしまったと体を強張らせた。そして後悔する。ちょっとでも心配するような言葉をかけると大いにからかわれ、恥ずかしい気持ちになり痛い目を見る。
「で? お前、こんな所でなにやってんだ?」
自分の失言を消すかのごとく、ギオがすぐに本題に入ると、瞬はもう少し遊んで弄りたかったようで「ちぇ」っと小さく舌打ちが聞こえた。危なかった……とギオは額に汗を浮かべる。そんなギオの心情に気づかない瞬は普通に戻る。
「これだよ。アルに貢物をしにきたんだけど留守だったんだ」
瞬は紙袋を抱き上げて見せるとギオはジロジロ眺める。
「貢物……ってこれか?」
「そうそう。少しくらいは聞いてるんじゃない? それとも全然聞いてない? 聞いてても忘れてたとか?」
「まぁ多少は聞いてる……って、アルに怒られるから忘れるわけねぇ!」
ギオは声を荒げながら瞬に突っかかってくる。瞬はそれを笑いながらかわし「はいはい」と手をヒラヒラさせた。
「分かってる分かってる。シフォンくんとは何度も一緒に調査したことあるし、信用してるって。ってことで、本題。私の代わりに貢物をアルに渡してくれる?」
瞬はハートマークの紙袋を指差した。
「べつにいいけど」
受け取りながら、ギオはじっとハートマークの紙袋を凝視した。何しろ、瞬がこのような可愛らしい包みを持つこと自体、悪寒を感じる。中身が異様に気になった。どんなグロテスクな物を入れているのだろうと興味が沸く。
「中、見てもいいか?」
結局、気になって聞いてみると、瞬は「良いよ」と首を縦に振る。ギオは紙袋を開け中を覗いて一瞬固まった。黄土色の赤いリボンをした、四十センチ大の熊の縫いぐるみ、少々歪な形をしているが、つぶらな瞳がとってもラブリーな手作りのテディベアだ。
「これは?」
まともだと衝撃を受けて固まっているギオをよそに、瞬は質問に答える。
「手作りの縫いぐるみ」
「んなこと、見て判る!」
「目に力を入れて、猫目にしてみました! 可愛いデショ」
「んなこと、聞いてない!」
「ギオをモデルにしてみました~! だからちょっといたずらっ子風に」
「だから聞いてないだろ! っていうか俺をモデルって嫌な単語つけるな馬鹿!」
今度は噛み付かんばかりに言い放ったが、瞬はノリノリだ。シャイな年下男子と戯れを楽しんでいる。
「くまを初めて縫ってみたけど、いい仕上がりになったと思うんだよね。シフォンくんクマ」
「……あー……マジで手作りなのかー。無駄に器用だなぁ」
ギオは反発をやめた。もっと文句を言いたかったが、どの言葉を言っても言い返されて負ける。仕方ないので怒りを消化することにした。かなり胃にもたれそうだと胃を押さえる。
「分かった。自宅に持って帰ってアルに渡すから、さっさと帰れ」
ギオは紙袋に縫いぐるみを元通りに入れ直す。疲れ果てたギオを見つめながら、瞬はすこし含みのある言い方をした。
「アル以外に渡したら駄目だよ」
「はいはい。お前からの貢物をアル以外の誰かに渡すなんて考えただけでもゾッとする」
「ねーえ、シフォンくーん? 分かってないよーなので付け加えるんだけどー?」
瞬はギオに顔を両手で掴んでぐいっと向かせた。途端、ギオは「げ」と息を飲んだ。瞬は視線を鋭くさせながら、ニコリと重圧のある笑みを浮かべて真面目に告げた。
「結果ありだから頼んだよ」
「っ!?」
この一言で、ギオは縫いぐるみの意味を悟った。だからプレゼントとは言わず貢物と言ったのだと気づく。瞬は証拠をまとめたデータをテディベアの中に入れているのだ。
「分かった。絶対に渡しておく」
ギオは意志の灯った鋭い視線で頷いた。責任重大だ。絶対にアル以外に渡せないと抱きしめる紙袋に深いしわが寄っていく。
「よろしくね」
その様子をみた瞬は安心する。彼も信用できるヒトだ。アルと直接やり取り出来ない時で急を要する時は問答無用で協力してもらう貴重な人材である。
「さてと。私は帰ろっと。あー、そうだ! シフォンくん、一緒にアクアソフィーまで行かない?」
「やだ」
軽い口調で誘ったがギオに速攻で断られてしまった。
「残念」
と苦笑しながら、瞬は公園を後にした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。
異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~
黒鴉宙ニ
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」
自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。
全然関係ない第三者がおこなっていく復讐?
そこまでざまぁ要素は強くないです。
最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。
目覚めたら猫耳⁉ ~神隠しで別宇宙のアイドル級猫耳メイド魔法使い⁉に大変身!~
INASAKU6
ファンタジー
自称、猫好き陽キャ系オタク女子高生 稲垣 梨々香 は、アニメとダンスと猫をこよなく愛する17歳!ある日バイト先で保護猫チャチャと一緒に神隠しに遭い、別宇宙の小惑星に飛ばされてしまう。目覚めると猫耳が生えたメイド姿で別宇宙の小惑星ラテスにいた。そこは猫と魔法と剣が支配するファンタジーの星。猫の国エルフェリア王国で、リリカは「猫耳メイド魔法使い」という特殊な職業に就かされ、さらに人々からアイドルのように崇められる存在に。最初は戸惑いながらも、リリカはエルフェリア王国での新しい生活に順応していく。
リリカの前に現れるのは、頼れる騎士見習いで護衛のレオン、そして意地悪だけどどこか憎めないライバルアイドルのステラ。マネージャー兼世話役の魔法使いメルヴィルに導かれながら、リリカはアイドル活動を通じて魔法を学び、次第に成長していく。しかし、表舞台の華やかさとは裏腹に、暗い陰謀が渦巻いていた。謎の魔導師ゼイガスの存在が、リリカたちの平和を脅かそうとする。
果たして、リリカは自分のアイドル活動を成功させるだけでなく、この世界を救うことができるのか?友情とライバル関係の中で揺れ動くリリカの心、そして自分の力を信じて前に進む彼女の成長が描かれる、アイドル級猫耳メイド魔法使いの奮闘記!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる