水面下ならば潜ろうか

森羅秋

文字の大きさ
上 下
30 / 69
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み

張り込みのお使い

しおりを挟む

 
 ここ数日、瞬は匠と自宅とを往復する毎日だった。朝6時起きで匠の家に行き書類整理。昼、匠の家で宿題。その後書類整理。夜7時以降家に一回帰り、9時に抜け出しホープ周辺のカンゴウムシ調査及び、午前2時に家に帰って就寝。
 
 何しろ、証拠資料が膨大でそれを全部まとめてデータに保存しなければならない。匠と協力して行っているが、それでも時間はあっという間に過ぎていく。報告書の書き方に沿って、詳細内容の構成から入っていく。七割匠が引き受けても、残り三割は瞬が請負っている。見出し、小見出し、説明文に分けて、なるべく分かりやすいように書き込んでいく。

 幾度となく匠の報告書作成に付き合ってきたが、これほど膨大な量は殆ど経験がなかった。何度も匠にチェックしてもらうが、本当に終わるのかと思うくらいだ。途中からへばってきた瞬を見かねて、大筋を書き始めてそれを入力する作業に切り替えてもらった。

「まぁ、こーいうのは慣れだよな。社会に出てどっかの会社に入れば、こんなの毎日やらされるさ」

 小休憩中、濃いブラック珈琲を飲みながら、匠がへたれている瞬の頭を撫でる。
 連日、夜になるまで作業をしている瞬は
「うへーーー」
 と唸った。

「今の状況は、締め切り寸前の重要会議書類を作成中って感じだけどな」

 よくある、よくある、と続ける声を聞いて、瞬はもう一度
「うへー」
 と唸った。

「相変わらずこれ面倒くさいよぉ」
「でも読みかえると分かりやすいだろ?」
「そうだけど……」
「アルも忙しいし、俺の依頼人も忙しい。だから必要だよな」
「分かってるよおおおお!」

 泣きそうな声を出しつつ、ペンで書かれた内容をひたすら入力していく瞬。早く終わらせなければ次に進めないので、やるしかない。この場で整理するにはちゃんとした理由がある。証拠を整理して渡さなければ、すぐに上の人に目を通してもらえないばかりか、整理する時間のロスが発生し、黒幕に気づかれる危険性が高くなるのだ。

(ガリウォントが黒幕だった場合だと、アルの動きもある程度把握できるだろうから、気づかれる危険性が高い)

 それにもっと上の階級人が本当の黒幕だという事もありえる。

「ねぇ匠。頼んでたガリウォントの身辺調査ってどんな感じ?」
「あー? そうだなぁー。明後日あたりに密会があるらしいぞー。俺用事重なって行けないから、瞬頼んだー」
「そっかーわかったー……」

 カタカタカタと入力して生返事していた瞬は「はぁ!?」と声を荒げた。

「誰と密会!?」

 手を止めて振り返る。匠は頬杖をつきつつ紙にペンを走らせている。彼はこちらを見ることなく言葉を続ける。

「さーあなぁ。それを確かめるためにヨロシク。この前行ったコンクリートコテージの場所で、深夜一時頃に行われるらしいぞ」
「どうやって分かったの?」
「盗聴器」
「うわぁ」
「お前も通信は気を付けろよ。アクアソフィーの内線は結構盗聴されること多いぞー」

 盗聴した本人が言うのだ、間違いないだろう。

「プライバシーはあってないようなもの」
「そうだなぁ。あってないようなものだな」
「さぁて、どうやって行こうかなー」

 車で行くとタイヤの跡が付くので、密会の時は送迎が期待できない。瞬は移動手段を検索し始めた。バスから徒歩で調べて最短ルートで三時間半といったところだ。野宿する準備もしないといけない。

(登山の準備しよーっと)

 瞬は入力を止めた。

「じゃぁ、一端登山準備してくるから、家に帰るね。あ、そうそう、移動費のお小遣いもちょうだい!」

 経費として落としてもらう気満々で催促すると、匠は一笑してから財布から必要以上の移動費を出す。お釣りで色々買えそうだと目を輝かせる瞬。

「わぁい! お金持ちー!」

 嬉々として受け取って、高々と万札を掲げる。

 子供らしい仕草に匠は微笑ましい視線を向けつつ
「気を付けろよ」
 と言葉を続ける。

 瞬は札を掲げるのをやめて
「うん」
 と頷く。

「勿論、ヘマしないように気を付けるよ」

 瞬はにやりと笑った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

処理中です...