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瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
親の心子知らず
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<その弐>
現在、学校の面談が終った日の夜、瞬は家にいた。父と母を交えて家族会議の真っ最中である。
リビングのテーブルに父親と母親が対面で座り瞬を見ている。眉間に皺を寄せて、成績表と彼女を交互に眺めて、深い深いため息を鼻からゆっくり吐きだした。
母親が難題に直面したかのような表情をしつつ、成績表を見つめる。全科目最優秀の5の数字が連なっている。担任のコメントにも『欠席が目立つが素行及び授業態度問題なし。成績優秀でこの度は学年二位』とまで書かれていた。あれだけ休みに休んで、出席日数ギリギリでこの成績である。瞬は地頭が良く、物覚えも良かった。だからこそ両親は成績に事では怒ったことは無い。成績を盾に生活習慣を見直しなさいと言えない。どうやって夜遅く帰るな、危険なことに首を突っ込むなと言い聞かせよう。父親も母親も頭を痛めていた。
瞬は親や姉思いの普通の女の子だ。興味本意で物事に首を突っ込む性格が災いしていろんなトラブルに巻き込まれる。つまり最大の長所が最大の欠点なので、にっちもさっちもいかない。そんな少女を育てている親がその身を案じるのは当然だった。
「ね。大丈夫だったでしょ!」
にこっと瞬が笑うと、二人はまたため息をついて肩を落とした。
「成績はなぁ……」
父親は右手で額を触り、唸った。
「父さんが言いたいのは、この夏休みの瞬の計画を聞きたいんだ」
「え? 普通通りに遊ぶよ?」
「遊ぶ……」
あっけらかんと言った瞬に対して、母親は呻くように言葉を反芻した。
「うん! 夏休み入ったから自由研究しまくるんだ! 新種も見つかったし、今年はカンゴウムシだよ!」
「それが危ないんだ!」
父親が嗜めるように注意すると、瞬は胸を張って答える。
「勿論! 危ないから注意してやるんだよ。敵を知れば対策も練れるからね!
「いや、そーいう意味じゃなくて」
「だって気になるんだもん。気になったら即行動って、お父さんいつも言ってるじゃん」
「そう、だけどなぁ……。瞬の帰りが遅くなるのは心配だ。働いている父よりも遅く帰るんだぞ! 心配するのは当然だろう!」
「ごめん! 時間を忘れる!」
「忘れないでくれ!」
父親が懇願するような声を上げた。年頃の若い娘深夜帰りなど言語道断であると考えている。その気持ちを十二分に汲み取った瞬は重々しく頷いて
「遅く帰る時は前もって連絡するから、これでいいよね!」
「……早く帰るという発言はないのか?」
瞬はまたにこっと笑った。
「時と場合によるかな! 大丈夫、全ては自由研究のためだもん」
「瞬のカンゴウムシ研究は専門の人達から絶賛されることもあったから凄いと父は思う。でも」
「怪我したり、するでしょ? 母さんは瞬に危ない目に遭ってほしくないの。分かるでしょ?」
「うん、わかる。安全第一で頑張るよ!」
瞬はドンと自分の胸を叩いた。すでにやる気満々で輝いた瞳している。もうこれは止まらないし止められないと、父親と母親は目を見合わせて同時に肩を落とした。
瞬は昔から興味あることには全力で突っ込んで行った。十二年前に伊東匠と知り合ってからは行動範囲が広くなり、大きな事件に関わったことだってある。それを年に一回から二回ほど繰り返すから、こちらは心臓がいくつあっても足りない。
「姉は普通の子なのに……」
母親が小さく口走ると、瞬は少しムッとしたように口を尖らせ冷静に言い返す。
「人よりもちょっと行動派なだけだよ」
「ちょっとか?」
瞬は頭の回転が速く姑息に動くことを好み、観察眼があり人や物の違和感にすぐ気づき、格闘技を身につけているため度胸があり土壇場に強い。ちょっとではなく変わった子供であることを、両親は誰よりも理解していた。
「やだなぁ。ちょっとだよー」
瞬は困ったように頭をぽりぽりと掻くが、すぐに自信満々な表情に変わる。
「でも悪いことはしない。それだけは信じてください」
悪事だけは絶対にしない。瞬が自信を持って言えることだった。
娘の様子をみて、はぁ……。と父親と母親はため息をついた。言いたいことは山ほどあるが、怒ったとしても堪えないし、諭そうとすれば逆にこちらが諭される。だからこう伝えるしかなかった。
「お願いだから、もう少し落ち着いて暮らしなさい」
「危険な事は絶対しないで、関わらないで」
両親の言葉に瞬は「はーい」と元気に頷いた。
「安心してよ。危険な事にならないように遊んでいるから」
これが危ないと親は知っている。危険な事にならないように、その意味は危険が迫っているから動いているという意味だと、最近気づいたからだ。
父親はまた額に手を当てて呻くように言葉を綴った。
「伊東さんに宜しく伝えてくれ」
「近々、また家に遊びに来てって伝えてね」
母親も顔を引きつらせながら声を絞り出す。
瞬が暴走しないように第二の保護者として認識されている匠に、二人は頼るしかなかった。
事件が起こるから悪い。親は同じ事を思い、瞬を見ながらため息をついた。
「うん? 伝えておくね」
突然でてきた匠の名前に、瞬は不思議そうに首を傾げながら頷いた。
現在、学校の面談が終った日の夜、瞬は家にいた。父と母を交えて家族会議の真っ最中である。
リビングのテーブルに父親と母親が対面で座り瞬を見ている。眉間に皺を寄せて、成績表と彼女を交互に眺めて、深い深いため息を鼻からゆっくり吐きだした。
母親が難題に直面したかのような表情をしつつ、成績表を見つめる。全科目最優秀の5の数字が連なっている。担任のコメントにも『欠席が目立つが素行及び授業態度問題なし。成績優秀でこの度は学年二位』とまで書かれていた。あれだけ休みに休んで、出席日数ギリギリでこの成績である。瞬は地頭が良く、物覚えも良かった。だからこそ両親は成績に事では怒ったことは無い。成績を盾に生活習慣を見直しなさいと言えない。どうやって夜遅く帰るな、危険なことに首を突っ込むなと言い聞かせよう。父親も母親も頭を痛めていた。
瞬は親や姉思いの普通の女の子だ。興味本意で物事に首を突っ込む性格が災いしていろんなトラブルに巻き込まれる。つまり最大の長所が最大の欠点なので、にっちもさっちもいかない。そんな少女を育てている親がその身を案じるのは当然だった。
「ね。大丈夫だったでしょ!」
にこっと瞬が笑うと、二人はまたため息をついて肩を落とした。
「成績はなぁ……」
父親は右手で額を触り、唸った。
「父さんが言いたいのは、この夏休みの瞬の計画を聞きたいんだ」
「え? 普通通りに遊ぶよ?」
「遊ぶ……」
あっけらかんと言った瞬に対して、母親は呻くように言葉を反芻した。
「うん! 夏休み入ったから自由研究しまくるんだ! 新種も見つかったし、今年はカンゴウムシだよ!」
「それが危ないんだ!」
父親が嗜めるように注意すると、瞬は胸を張って答える。
「勿論! 危ないから注意してやるんだよ。敵を知れば対策も練れるからね!
「いや、そーいう意味じゃなくて」
「だって気になるんだもん。気になったら即行動って、お父さんいつも言ってるじゃん」
「そう、だけどなぁ……。瞬の帰りが遅くなるのは心配だ。働いている父よりも遅く帰るんだぞ! 心配するのは当然だろう!」
「ごめん! 時間を忘れる!」
「忘れないでくれ!」
父親が懇願するような声を上げた。年頃の若い娘深夜帰りなど言語道断であると考えている。その気持ちを十二分に汲み取った瞬は重々しく頷いて
「遅く帰る時は前もって連絡するから、これでいいよね!」
「……早く帰るという発言はないのか?」
瞬はまたにこっと笑った。
「時と場合によるかな! 大丈夫、全ては自由研究のためだもん」
「瞬のカンゴウムシ研究は専門の人達から絶賛されることもあったから凄いと父は思う。でも」
「怪我したり、するでしょ? 母さんは瞬に危ない目に遭ってほしくないの。分かるでしょ?」
「うん、わかる。安全第一で頑張るよ!」
瞬はドンと自分の胸を叩いた。すでにやる気満々で輝いた瞳している。もうこれは止まらないし止められないと、父親と母親は目を見合わせて同時に肩を落とした。
瞬は昔から興味あることには全力で突っ込んで行った。十二年前に伊東匠と知り合ってからは行動範囲が広くなり、大きな事件に関わったことだってある。それを年に一回から二回ほど繰り返すから、こちらは心臓がいくつあっても足りない。
「姉は普通の子なのに……」
母親が小さく口走ると、瞬は少しムッとしたように口を尖らせ冷静に言い返す。
「人よりもちょっと行動派なだけだよ」
「ちょっとか?」
瞬は頭の回転が速く姑息に動くことを好み、観察眼があり人や物の違和感にすぐ気づき、格闘技を身につけているため度胸があり土壇場に強い。ちょっとではなく変わった子供であることを、両親は誰よりも理解していた。
「やだなぁ。ちょっとだよー」
瞬は困ったように頭をぽりぽりと掻くが、すぐに自信満々な表情に変わる。
「でも悪いことはしない。それだけは信じてください」
悪事だけは絶対にしない。瞬が自信を持って言えることだった。
娘の様子をみて、はぁ……。と父親と母親はため息をついた。言いたいことは山ほどあるが、怒ったとしても堪えないし、諭そうとすれば逆にこちらが諭される。だからこう伝えるしかなかった。
「お願いだから、もう少し落ち着いて暮らしなさい」
「危険な事は絶対しないで、関わらないで」
両親の言葉に瞬は「はーい」と元気に頷いた。
「安心してよ。危険な事にならないように遊んでいるから」
これが危ないと親は知っている。危険な事にならないように、その意味は危険が迫っているから動いているという意味だと、最近気づいたからだ。
父親はまた額に手を当てて呻くように言葉を綴った。
「伊東さんに宜しく伝えてくれ」
「近々、また家に遊びに来てって伝えてね」
母親も顔を引きつらせながら声を絞り出す。
瞬が暴走しないように第二の保護者として認識されている匠に、二人は頼るしかなかった。
事件が起こるから悪い。親は同じ事を思い、瞬を見ながらため息をついた。
「うん? 伝えておくね」
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