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過去の凛から未来の凛へ
しおりを挟む「……っ」
手に取った瞬間、凛の顔が少しだけこわばった。
手紙のタイトルは『大人になったりんへ、一番の宝物だよ』
「凛?」
俺が呼びかけると、凛は意を決したように可愛いシールの張られた口を丁寧にあけた。
中には二枚の手紙と一枚の写真。
否応に写真を真っ先に見て、凛は固まった。
食い入るように写真を見つめ、そして一筋の涙を流した。
「どうした?写真に何が?」
突然涙を落としたので俺は吃驚して横から覗き込むと、写真には昔の凛が写っていた。
凛の父親が彼女を抱きしめるように写っており、母親が凛をしっかり抱きしめ、凛は母親の頬に自分の頬をくっつけながら満面の笑みで写っていた。
仲の良い、家族写真だった。
「これは……」
「な、んだ。私、お母さんと仲、いーじゃん」
鼻声になりながら、凛は笑うように呟く。
「宝物、これ、家族写真。今の私じゃ、ありえないよ」
腕の袖で目をこすりながら、耐えきれなかったのか大粒の涙を流し始めた。
「離婚の原因はあの人なのに、嫌いってずっと思ってたのに」
嗚咽交じりの声にかける言葉がなく、俺はただ黙って見ていることしか出来なかった。
いやまて、前に聞いた時に凜は『いつの間にか嫌いになった』って言ってたよな?
離婚の原因はおばさん? ってことは、原因を知っているのか?
っていう聞く雰囲気ではないので、俺はぐっと言葉を堪えた。
「私、本当は大好きだったのね」
写真を食い入るように見つめながら、凛は鼻をすすった。
多分、凜は本当はおばさんの事が好きだったのだろう、その涙が証拠だ。
二人の間に何があったのか、俺は知らない。
だから慰める事が出来ないが、せめてもと、凛の背中をさすって落ち着かせる。
「凛」
「ごめんね北斗、もうちょっとだけ、泣かせてね」
今、お菓子とか持って母親がやってきたら、俺は絶対に怒鳴られるだろうな。
声かけずに上がって正解だった。
たっぷり泣いて落ち着いたように鼻をかみはじめた凜に話しかける。
「大丈夫か?」
「うん……」
「そんなに泣くなんて吃驚したぞ。手紙になんて書いてあったんだ?」
「あのね」
俺に手紙を渡さず、凛は軽く鼻をススって朗読し始めた。
『未来のわたしへ
りん、私の宝物は家族です
この間、おじいちゃんが死んだの
会えなくなるってぱぱいってた
だけど、おじいちゃん、写真嫌いだからほとんど残ってないって言ってた
写真って大切な思い出なんだって
タイムカプセルにピッタリだよね!
写真にしよう!って決めて、私、考えたんだ
ぱぱとままとりんでとった写真を埋めようって!
宝物にしよーって思ったんだ
だから、バレたら怒られるけど、こっそり写真とってきちゃった
本当のぱぱとまま入れたらあえなくなるから写真で我慢したの
ぱぱはね、とーってもやさしいんだよ。大人のりんにもやさしいかな?
ままはね、料理がとってもおいしいの。
いつも残さず食べると偉いねぇっていってくれるのよ
それでね、いつか私もままに料理をつくってあげるって約束したの
ちゃんと果たせたかな?
きっとりんは料理上手になってるの
そしてままとぱぱに振舞うの
結婚もして、もう子供いるかも
そしたら見せるんだ、これ
きっと楽しいよね
じゃ、大人のりん。この写真、あげるね』
「って書いてあったわ」
鼻を再度すする。充血して腫れぼったい目からうっすら涙が浮かんでいた。
俺は凛が読み終わるまで、手紙を覗くこともせず、ただ彼女の表情を眺めていた。
時折止まったり、まぶたにじんわり涙が溜まり始めたり、それを指で拭き取ったり…その仕草をずっと見ていた。
まるで魅入られたみたいに。
泣き顔って、女でも男でも割とグチャグチャに見えるものだ。
顔が赤くなり鼻は真っ赤、目は充血、鼻水が鼻の穴から出てくる情けない姿というイメージしかなかった。
だけど、凛は違う。
とても綺麗なんだ。
泣いているのに、まるでドラマの女優のように、どこかのワンシーンのように、とても綺麗に泣いていて目が離せなかった。
俺がジッと見つめていたことに気づいたか、凜が少しはにかみながら笑ってきて
「ごめんね、もう、大丈夫だよ」
そう言って、もう一度ハンカチで目じりを押さえた。
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