タイムカプセル

森羅秋

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怪我の功名

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「良かったな。で、どうだ? あったか?」

「ちょっと待ってね」

凛は少しだけ体を伸ばして幹の窪みを覗き込む。そして指を数本入れて中から缶を取り出した。
今までと同じおもちゃの缶だ。

「あったみたい」

にかっと笑う凛の顔は昔のままだった。

「おおお! やったな!」

俺が両手でメガホンを作りながら言うと、凛はピースをしておもちゃの缶を振って「?」と浮かべる。

「どうした?」

「感触がちょっと…開けてみるね」

言いながら凛は缶を開ける。
中からおもちゃの南京錠の鍵が一つ出てきた。
凛はそれをみながら、一緒に入っていた紙を丁寧に広げる。

「あれ?ねぇ、北斗」

「どうした?」

「鍵だけで、メモがないのよ…どうしよう…」

「え!?……うーん」

鍵だけでメモがない。つまり…

「つまり、最初の四行は鍵についての暗号で、最後の言葉は宝箱の位置って事かだよな」

「最後の言葉ってなんだったっけ?」

「かぎはめいけんのしたに、たからばこをあける」

「めいけんのした…めいけんねぇ?」

考え事を口に出しながら凛が幹から降りようとしている。
まぁ、あいつの背丈だったら、降りる時もなんとかなるだろう。

なんとかなる……。

なんとなーく、若干の不安を覚えたので、俺は木の下に立ってじっと見ていた。


断じて、パンツ目当てではない。

もう一度言うぞ、パンツ目当てではない。


「めいけんって犬、だよっっっ…ねぇ!?」

考え事をしていた凛は手を滑らせて落ちてきた。

不安的中!

「うっそおおおおお!?」

「凛!!」

俺が用心していたので、凛を受け止める………には筋力が足りず、受け止めながら踏ん張り切れずそのまま凛のクッションになり、背中が地面に激突する。

人一人分プラス重力+地面へ倒れ込んで一瞬息が詰まった。

背中から寝ころんだので自然に空を見上げる形になる。
景色がやけにスローモーションの中、木の木漏れ日が見た瞬間、デジャヴに陥った。


あれ?
俺、前にもこんな痛みと景色を体験したような…?

ぐるぐる景色が回り、幻聴が聞こえる。 

『りんちゃん、危ないよ!』

『ほくとちゃんがしっかり支えておけばいいでしょ!?…きゃぁ!?』

『りんちゃん!』

そうだ、確か、あの時に同じように凛が落下してきたよな。

俺がクッションになって、そして…

『わん! わん!』

ああ、犬の声がする。
 
『ぅわぁぁぁぁぁん!』

凜が泣いていた。

『ほくとちゃん! ほくとちゃん! ごめんね! ごめんね!!』


あの時はなんで、凜はここの木に登っていたんだ?


えーと、その後は、痛みで泣いている俺と責任を感じて泣いている凛を、親が迎えに来て。
ええと、迎えに来たのは、どう言ってたっけな?
父さんが確か…


考えると呼び水を得たように次々と思い出してきた。

親を呼びに行ったのはレッシーだ。

そうだ!

タイムカプセルを埋める場所を探している最中で、俺は凛の提案で木に登っておもちゃの缶を置いたんだ。
降りる途中で足を滑らせて落ちたんだ!

その後は……
 
『やっぱレッシーが一番頼りになるよね』

庭の犬小屋をのけて、その下にカプセルを埋めることにして…

『じゃ、ここにしよう!』

『そだね』

『レッシーがまもってくれるよ!』


パッと目の前がクリアになった。
 
同時に、凜の叫び声が俺の腹から聞こえる。

「きゃーーー!! 北斗! 大丈夫!? 大丈夫!?」

凛が慌てふためいた表情をしながら俺の上からどくと、すぐに俺の手を引いて起こした。
俺は背中の痛さにうめきながら、老人のように前かがみなって背中を手でさする。

「大丈夫に、見えるか!? ぐぅお! いってぇ」

「ごめん! 大丈夫?大丈夫?」

心配そうに俺を覗き込みオロオロしている。

いやまぁ、怪我の功名というか、お陰で色々思い出せたけど。

この痛みはお前が原因だからしっかり反省してもらうからな! 

「もう大丈夫」

「ほんと!? 無理してない?」

「凛の重さ程度じゃ大丈夫。それより、思い出したぞ! タイムカプセルのこと!」

「え!? ほんと?」

「ああ、全て思い出せた」

「頭打ったから!? 怪我の功名ね!」

ううむ、同じ事思ったから何も言えない。

「で、どこにあるの?」

「タイムカプセルは俺の家の庭にある。レッシーが居た犬小屋の下だ」

「じゃ、鍵も手に入ったし、さっそく開けにいこう!」

うきうきしながら鍵を手に取る凛、
俺は無意識に、ジト~~と恨めしそうに鍵を見てしまう。
そう、この鍵の事もしっかり思い出していた。

おのれ昔の自分たちめ…そう苦々しく噛みしめる。

「その鍵は必要ない」

「え? 鍵が必要ないって!?」

驚愕の表情の凛。
原因の黒幕の癖に、何一つ覚えてないのか。

「思い出さないか凛。お前の提案なんだぜ?」

凛は少し考えて、思い出せないといったように首を捻った。

俺は立ち上がり「はぁ」とため息を吐いた。

「まぁいいさ。多分、昔の俺がタイムカプセルにその理由を書いてるはずだ。全く。ホント遠回りだったぜ」

愚痴りながら自宅へと帰り始める俺。

「ちょ、ちょっと北斗? あんた1人で何納得してんの? 私にも教えなさいよ!」

先に歩く俺の腕を凛が掴む。
機嫌が少々悪そうな彼女に言ってやった。

「怨むんなら、昔の自分にしろよ?」
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