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彼女の願い
しおりを挟むラルはフェールに視線を向け笑顔を浮かべる。
「それじゃ、まだ夜が明けてないけど、僕たちはもう行くね。泊まらせてくれてありがとう」
「私のほうこそ、迷惑かけてごめんなさい! 皆、お元気で」
「世話になりました。どうかお元気で」
「げ、元気、でな……」
凛とするマークとは逆に、大粒の涙を流しながらか弱く声をだすセルジオ。
つられてフェールも涙を流す。
「も、もぉ! セルジオさんたら、折角頑張って笑顔にしたのに! 泣いちゃったじゃいの!」
「す、すまない」
「さようなら! 出会えてよかったわセルジオさん!」
元気良く手を振るフェールを見ながら、セルジオはまた涙をこぼす。
マークはため息を吐き、嘴で最中の背中を突く。
「女々しい」
「突くな!! 痛い!!」
「ふふふ。じゃぁ。行こうか」
ラルは浮かんでいた杖を掴み、フェールにもう少し下がるように指示する。彼女が指示通り下がり、影響がない場所に立っている事を確認すると、大きな声でフェールに呼びかけた。
「旅の終わりは最高に面白かったよフェール! 気分がすごく良いから、君の願いを一つ叶えてあげよう! 何が良い?」
「願い事?」
フェールがきょとんとして呟く。
同時に、ラル達を中心として風が、大地が、光りが動いた。
闇に染まった景色が眩しく輝き始めると、少年達の姿が徐々に消えていく。
「さぁ! 君の願いはなぁに?」
ラルの声を聞いて、弾かれたようにフェールは叫んだ。
「孤児院に、家族が、戻ってきてほしい!! また、みんなで一緒に暮らしたい!」
「承った!」
光で目がくらみそうになるのを必死で耐えながら、フェールはラルを見つめる。
彼は子供や孫や自身の子孫の幸せを願う年配者のような、優しい瞳をしていた。
「目の前であれだけしっかり信仰されたら、なるほど、小さき君を愛おしく感じてしまうね」
少年の慈しむ笑顔が脳裏に焼き付いた瞬間に、フェールは眩しさに瞼をぎゅっと閉じた。
数秒後、光が消える。
目を開けると、そこは誰もいなかった。
「オーさん? セルジオさん? マークさん?」
返事はない。
フェールは丘の上で、一人、立っていた。
今さっき見た出来事が信じられないでいる。もしかして夢でも見ているのではないかと、頬をつねってみるが
「イタ!」
痛みはあるので夢ではない。
「一体、なんだったんだろう?」
彼らがどこへ行ったのか、探す手立てはない。
フェールは呆然としたまま、丘の上から朝日が昇るのをぼんやりと眺めた。
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