丘の上の嘆き岩

森羅秋

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さよならの合図

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 疑問が色々残る。
 まず、タイミングよく霧が現れたこと。

 この丘は滅多に霧なんて発生しない。しかも単なる霧ではなく、光が全く感じられなかった闇の霧だ。こんなの自然に発生するとは思えない。

 フェールは一つの結論を導き出した。

 ヤミガメの孵化が可能になる環境を整えたのはラルだと。

 「さっきの黒い霧、オーさんがやったんだよね?」

 ラルは普通に笑顔を浮かべているが、横にいる魚と鳥は「「そ、それは!?」」と慌てふためいている。

 「どうしてそう思うの?」

 ラルに聞かれたのでフェールは力説する。

 「だって、オーさんの姿が全然違うもん! 何て言うか、こう、神々しいって感じがするもん!! 杖も浮かんでるし。貴族じゃなくて、魔術師様だったんだよね!? そうなんだよね!!」

 鳥と魚はどうしたものかとアイコンタクトを送り合う。

 「魔術師じゃないけど」

 ラルは軽く否定しながら、「実はね」と言葉を続けようとして。

 「僕は」

 「王!!!!」

 マークが慌てながらラルの正面に羽ばたき言葉をかき消す。

 「王! ささ! もう行きましょう! グラン様がお待ちかねでございます!! 絶対首を長くしております!! 力尽きる寸前だと思いますので早く戻りましょう!」

 「そ、そうだけど。もう少し」

 「ダメで御座います! 寄り道はしません!」

 「ちょっとだけ。ね?」

 「だーめーでーす!!!」

 マークは顔色を変えながら一方的にラルを急がせた。
 実際にグランの力は枯渇しつつあるし、さっさと戻らないと行けないのは間違いない。

 「な、何事?」

 マークの慌て様をみて、フェールが呆気に取られて眺めていると、セルジオがこちらに泳ぎながら優しく声をかけた。

 「フェール。私たちはもう行かねばならない。この二日間、世話になった」

 「あ。そう、なんだ。でも。まだ夜が……」

 明けてないといいかけるが、セルジオは首を左右に振る。

 「私たちの旅は終わったのだ。これからすぐに戻らねばならない」

 「セルジオさん」

 「これからも辛いことがあると思うが、挫けずに元気で暮らせよ」

 セルジオはヒレでフェールの頭をゆっくりと撫でる。
 するとフェールは目じりに涙を浮かべながら、泣くのを耐えるように声を絞り出した。

 「セルジオさんと、もう会えないのかな?」

 魚は黙った。
 海の中で暮らすセルジオが、山の中に住むフェールと会う機会がない。おそらく、もう二度と逢えないだろう。

 「家族が、一日でも早く孤児院に帰ってくることを祈っている」

 セルジオがそう口にすると、もう二度と逢えないと理解したフェールは、自分の手で涙を拭きながら頷き、魚に笑顔を浮かべる。

 「うん、ありがとう。セルジオさんも元気でね」

 少女の笑顔をみてセルジオは少年と鳥の元へ戻った。

 「だから今すぐ帰らないと行けないのですよお分かりですか王よ!!」

 マークはまだお説教モードから抜けていなかった。

 「マーク……」とセルジオは呆れながら首を左右に振った。正論なので止めるに止められない。

 「あー。はいはい。分かった」

 説教に飽きてきたラルが、すっと片手で鳥の嘴を塞いた。
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