丘の上の嘆き岩

森羅秋

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丘の異変

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 セルジオとフェールはベッドの上で楽しく談話していた。

 「で、ね……。う……」

 突然、フェールの目から涙が溢れてくる。
 嗚咽を鳴らしながら泣き始めたフェールに吃驚して、セルジオは思わず飛びあがった。

 「ど、どどどどどうしたのだ!?」

 「ぅっく。ごめん。セルジオさんともうお別れなんだと思ったら。ま、また明日か、ら、一人ぼっちだと思うと、っく、悲しくて」

 「す、すまぬ!! 私も事情があって、その、一緒に居られないのだ」

 セルジオはヒレを使い、フェールの頬を伝う涙を拭き取る。

 「分かってるわ。これは私の我侭だもの。泣くのはダメだって、分かってるんだけど。勝手に涙が」

 両手で顔を覆いながら泣く少女に、魚はただオロオロするばかり。

 「あああ、すまぬ、すまぬ!!」

 神界へ戻り使命を果たさなければならないセルジオは、フェールと同じ時間を生きていくことが出来ない。
 
 それを説明できるはずもなく、どうすればフェールの悲しみを最小限に出来るのか。
 考えてもいい案が思い浮かばず、セルジオは結局オロオロするしかなかった。

 困り果て困惑する魚の姿をみて、フェールは泣きながら笑い出す。

 「セ、セルジオさん! そんなに、困らないでよ。な、泣きたいのに、おかしくて、あはははは!」

 「お、おかしい?」

 真剣に対応しようとしていたセルジオはショックを受ける。
 笑わせようとしていなかったが、フェールが笑ったので結果オーライと思い直し、ショックから立ち直る。

 涙が止まり、笑っていたフェールは大きく深呼吸した。

 「ごめんね。泣いちゃって」

 笑顔を浮かべた少女に、セルジオは安堵の表情を浮かべる。

 「構わんよ。私こそ、何も出来なくてすまない」

 フェールは首を左右に振った。

 「そんなことない。少しの間でも一緒に居てくれただけで嬉しかった。本当にありがとう!」

 「私の方こそ。助けてもらった恩を返せないのが申し訳ない」

 しょんぼりするセルジオをみて、フェールはガッツポーズをする。

 「大丈夫だよ! 私は頑張ってこの孤児院で」


 ウゴゴググオゴ!!


 「きゃ!?」
 「今の声は!?」

 少女の言葉を遮るように一際大きな嘆く声が耳に響いた。
 フェールは怯え、セルジオは警戒した。

 「嘆き? いやあれは?」

 セルジオは今まで聞こえていた声の質に違和感を覚え、フェールはベッドの上で立ち上がった。

 「な、嘆き岩だけど、なにか変だわ!? と、とりあえず行ってみましょう!」

 萎縮していたが、いつもと違う声だと気づいて反射的に体が動いた。
 もし異変があり危険なら非難しなければならない。そのため、岩がどうなっているのか確認しに向かうのだ。

 「あ! おい! フェ―ル!」

 止める間もなく駆け出すフェール。
 セルジオも彼女の後に続いて外へ飛び出した。

 「なに、これ!?」

 そんなフェールの目に飛び込んできたのは一際黒い靄みたいなものが丘の上を覆っている光景だった。
 思わず立ち止まる。こんな現象は今まで見た事がない。

 声を失くして立ち止まるフェールに追いついたセルジオは、同じ景色をみてハッと気づいた。

 この現象はラルが作りだしたものと咄嗟に理解したが、何のために行っているのかは知らない。そのため、少女とは違う意味で魚も困惑した。

 セルジオは王の言葉を思い出す。

 「フェール。部屋の中へ入れ。私が様子を見てくる!」

 そう声をかけるのだが、

 「何が、起こっているの?」
 
 フェールは目の前の光景に釘づけてセルジオの声が届いていない。

 恐怖を感じたが、岩に何が起こっているのか知りたくなった。彼女の中で葛藤が始まる。
 恐怖より好奇心が勝った時、フェールは丘の方へ駆け出していた。

 「フェ……フェール!?」

 予想に反してフェールが霧の中に突っ込んでしまった。
 魚の姿で制止をかけようとしても弾かれてしまい、くるくると空を舞う。

 「魚では、やはり難しい!!」

 本来の姿に戻りたいが、今はその条件に該当しないため戻れない。
 魚は空中で体勢を整えると、猛スピードで泳ぎだしフェールの後を追いかけた。
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