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予言
しおりを挟む寝床は絵画があった場所から更に真っ直ぐ進んだ、二つ目の角の突き当たりの部屋だった。
部屋の中はいつも掃除しているのか埃一つ落ちていない。
窓は東向きに二つあり、上に押し上げる形である。子供用のベッドが5つあるので、五人が一部屋で生活しているようだ。それ以外には何も置かれていない。
「綺麗だね。いつも掃除してるの?」
「うん! いつでも皆が帰ってきてもいい様に掃除してるわ!」
言いつつ、フェールがうな垂れたので、ラルは躊躇いがちに声をかけた。
「セルジオから聞いてる。嘆き岩のせいだって? 大変だね」
心配をかけていると感じたフェールは、勢いよく首を左右に振った。
「大丈夫! いつかきっと戻って来てくれるから! 嘆き岩から声がなくなれば、きっと!! きっと……戻ってくるわ」
フェールは自らに言い聞かせているかのように、戻ってくると何度も呟いた。
セルジオがフェールの頭を撫でると、彼女は魚を抱きしめた。
ラルは窓辺に近づいた。
ここからだと丘が小さく見える。
この孤児院のどこに居ても、嘆く声が強風のように木霊している。逃げ出すのは当然だ。
ここで生活することを選んだフェールは相当な覚悟と度胸が必要だっただろう。
「嘆き岩か。あれは今日なくなるんじゃないかな?」
ラルがぽそっと呟く。
「え!? なくなるって?」
フェールは顔をあげてラルを見つめると、少年は優しく微笑んでいた。
「ほら、突然現れたんだから、ある日突然消えるんじゃないかな? 明日には消えているよ」
笑顔で即答され、フェールは困惑する。
あれは壊すか他所にどけないかしないと解決しないのではと思っているからだ。
「き、消えるって?」
「フェ―ル。王は嘘を決してつきません。あの岩はきっとすぐに消えるでしょう」
マークが断言する。
「そうだぞ。王の言葉は真実だ。安心するといい」
セルジオはフェールの胸の中で優しく呼びかけた。
これ以上悲しまないように元気づけていると気づいたフェールは、優しさが嬉しくて、涙目になりながら微笑む。
「ありがと。オーさん、マークさん、セルジオさん。私を元気付けているんだね」
「うん」と返事をしながら、ラルはフェールに近づき頭を撫でる。
撫でられた瞬間に、フェールの中から沸き上がる不安や悲しい気持ちがゆっくり消えて、心が穏やかになるのを感じた。
「今日は岩の事忘れて、セルジオとのんびりしてよ。朝日が昇れば僕たちは帰るから」
「うん。ありがとうオーさん」
「じゃぁ。僕と約束してほしい事が一つある」
真剣な眼差しで言われ、「なに?」と聞き返しながら、フェールの背筋がピンと伸びた。
「僕は寝ている途中で起こされると、非常に機嫌が悪くなる。朝がくるまで部屋に来ないで欲しいんだ」
「へ?」
「何か異変があったら、途中でマークが起こしてくれる」
「そ、そうなの」
「そうなの。だからフェールはセルジオと一緒に部屋にいること。いいね?」
「分かったわ」
深く考えずフェールは快く頷いた。
「だったら、このドアを閉めたら、もう入らないほうが良い?」
「うん」
「わかったわ。それじゃ、おやすみなさい。オーさん、マークさん。また明日ね」
「うん、また明日」
「フェ―ルも良い夢を」
ドアへ向かうフェールにラルは手を振って挨拶をする。
「では王よ。また明日お迎えに伺います」
「セルジオ。くれぐれも、フェールから離れないようにね」
「……は?」
「うんまぁ。目を離しても大丈夫だと思うけど。一応」
ラルが苦笑を浮かべると、セルジオはきょとんとしながら、はい、と返事を返す。
そしてドアで待っているフェールの所へ泳いで向かうと、振り返って一礼をした。
「おやすみなさいませ」
「おやすみ」
バタンとドアが閉まり、フェールの足音が遠ざかる。
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