丘の上の嘆き岩

森羅秋

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役目、なので

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 神々の涙。
 そう呼ばれている広大な滝がある熱林の中を、幼い少年が風に乗って駆けていた。
 
 神々しい銀色のローブを纏い、自分の背丈の二倍ほどある杖を持ち、前を走っている、燃える色の四足の幻獣を追いかけていた。

 その幻獣は顔が鳥で、尻尾が三つで、背中にはトンボの羽が備わっていたが、獣の交じりが少ないほうだった。
 
 すでに何十時間にもわたり追いかけっこをしているが、一行に埒があかない。
 ラルは仕方なく、獣の足を止めるために、自らの力を振るった。
 杖に意識を集中させると、手のひらのような形をしている5つの切っ先が、丸みを帯びながら伸びていく。先端の窪みから、薄緑の縦横三センチの大きさの水晶形の秘宝が姿を現し、燦々と輝いた。

 ザザザ!

 蔓が鞭のようにしなやかに伸び始め、走っていた獣の足に絡まる。
 獣は立ち止まり、嘴で蔓を引きちぎるが、後から後から伸びえてきて振りほどくのに時間がかかった。
 その隙にラルは獣のすぐ傍に到着する。

 「やっと止まってくれた。ねぇ、本当にこのままだと影響が大きくなってしまうんだ。僕は」

 「黙れ!」

 「わぁ!?」

 獣は羽を震わせ真空の刃をラルに飛ばす。
 規模と威力に驚きながらも軽々回避するが、周りの木々が切り刻まれ、薙ぎ倒された。
 あちゃ~と汗を浮かべ、心の中で木々に謝るが、

 「我は我のままで存在(い)る!それが何故いけないのだ!!」

 すぐに唸り声をあげる獣に集中する。

 「君の力は大きすぎる上、どの属性にも交わる事が出来ない。よって処分及び輪廻に送り届ける」

 「黙れ!!」

 獣は恫喝し、蔓を全て引き千切る。
 
 今度は逃げずに猛スピードで接近しラルに体当たりをするが、ラルはあっさりと回避する。
 ズザザザと砂煙をあげながら、方向転換をしてまた突進する。
 ラルは避ける。

 獣は射殺すほど睨みながら、叫んだ。

 「我の属性は我が決めれば良い!」

 「それじゃダメなんだ! 十と交わらない大きな力を放っておくと、均衡が崩れる!」

 最後の抵抗とばかりに、獣は攻撃を繰り返す。それを紙一重でかわしていき、相手の隙を伺うラル。

 「そうやって均衡ばかりに目を奪われ、十だけの力のみ注意を払っているが、それ以外の力があっても気にもしないではないか! 我以外にも、この世界に交わらない力が星の数ほどあろう!」

 「そうだけど。でも、遥かに小さくて微弱で、すぐに消えてしまうものだから。放置しても問題はない」

 獣が腕を振り降ろすのをかわして、ラルは見上げた。
 大きくて立派な幻獣だと、惚れ惚れする。

 「でも君の場合は、影響が大きくて、存在すれば確実に均衡に影響を及ぼす」

 「我とて、我とて己として存在したい」

 獣は怒りと絶望に沈む瞳をしていた。

 「それの何がいけないのだ!」

 「消そうとは思っていない。ただ、力を小さくして、別の何かに……」

 獣は怒りで吼えた。

 「『別の何か』では、もうそれは我ではない!!」

 獣はその鋭いつめや鋭い嘴、さらには羽を震わせて真空の刃を生み出し、全方向へ向けて放った。

 「僕だって、君に君として存在して欲しいとは思う」

 ラルはすっと獣を見据えると、杖先を獣に向けた。
 集中すると、十の力が杖に輝き、複雑に絡み合い、術式を現す。

 「ウォォォォォ!!!!」

 獣は鋭いつめをラルの頭上へ下ろした。

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