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今日で終わる旅
しおりを挟む孤児院から死角となる木の影で、ラルは大きく深呼吸をした。
サァっと風が集まる、風と共にラルの体に様々な色が取り込まれていく。大きく息を吐くと、色達がふっと消えた。
ラルは満足そうに目を開けた。
「ご馳走様。って、見られてないよね?」
孤児院の中にいるフェールを気にして何度か振り返る。
「王、ご安心ください。誰にも見られておりません」
空中を舞っていたマークが降りて、木の枝に止まる。
「フェールも台所にいます。この場所はみえません」
散歩をするとフェールに伝えたセルジオは、彼女がこちらに来ないよう気にしつつ、ラルの真横を旋回して報告をする。
ラルは回りを見渡して、首を傾げ、セルジオに問いかけた。
「気になってたんだけど、街から外れたこんな場所に、少女が一人で住んでいるのって、何か訳あり? 孤児院って言ってたけど、彼女以外誰もいないみたいだし。セルジオは何か知ってる?」
セルジオは恭しく頭をたれる。
「その件について、私から折り入ってお願いがございます」
「唐突に何を言っているのですかセルジオ。人間界と王をあまり関わらせてはいけないのですよ? 貴方は本当に自覚が」
「ちょっと黙ってマーク。セルジオ、言ってみて?」
お説教が始まりそうなマークをラルは手で制して、セルジオに話の続きを促す。
「はい、あの少女は」
セルジオはフェールから聞いた身の上話をそのままラルに伝えた。
「と、いうのでございます。なんとも健気で。私は助けていただいた恩をフェールに返したいのです。どうか、王の御力で嘆き岩とやらを何とかしていただけないでしょうか?」
意を決して懇願するセルジオに、ラルはあっさりと承諾する。
「嘆き岩が原因? それなら、今夜じゅうにカタをつける気だったよ?」
「なんと!? それはまたどうして!?」
本気で驚くセルジオにマークは半眼で近くの茂みに座り込んだ。
「セルジオ。……貴方はこの辺りの違和感に気づかなかったのですか?」
「違和感? ……そういえば、なにやらやけに落ち着く。まるで懐かしき故郷を思い出させ」
「気づいてなかったんですか!!」
マークの様子にセルジオは「?」と浮かべる。同僚の鈍感さに、マークは呆れを通り越して憐れむように涙ぐみ、首を力なく左右に振る。
「全く、情けない……」
「な、なんでお主に哀れみを受けなきゃならないんだ!?」
情けないと呟く鳥と、訳が分からないといった様子の魚を、ラルは呆れるどころか愛しそうに微笑みを浮かべていた。
やや間を空けて気づいていないセルジオに説明をする。
「セルジオ、あの岩にはね、最後の秘宝があるんだ」
セルジオは驚き、そしてすぐに喜びへと変わる。
「そ、それでは!!」
「ああ、今日で僕達の旅は終わりだ」
ラルは笑顔で答えると、この旅の始まりを思い出した。
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