18 / 39
合流
しおりを挟むフェールが部屋からいなくなり、気配が遠のいてからラルはセルジオの体に手を当てた。
最初に見た時よりも明らかに深い傷が増えており、体中傷だらけだ。全部マークの攻撃である。
「治すのが遅くなってごめん」
ラルの手から淡い光が浮かびセルジオへ広がる。
一瞬だけセルジオの体が光に包まれたが、すぐに溶けるように消えていった。
「うおおおお! 痛みがない!!!」
尾びれの痛みも、マークにつけられた散々な引っ掻き傷も全て消え、セルジオは軽く体をうねうね動かし終わると軽快に空を泳ぎ始めた。
「体が軽い! 感激です!!」
優雅にス~イスイと空中を泳ぐセルジオに、ラルは心配そうに見上げながら聞く。
「痛いところはある?」
「いいえ! 完治しております!」
軽く体の調子を確認し終えると、すぐに泳ぐのをやめ、ラルの座っている椅子の前で平伏する。
「誠に。この度は王のお手を煩わせていまい、申し訳御座いません」
ラルは椅子から立ち上がり、セルジオの前に片膝を立てながら苦笑いを浮かべる。
「そんなに大げさにしなくてもいいのに。怪我が大した事無くて良かったよ」
「はは! 王のお心使い、誠に感謝いたしまする!」
セルジオは平伏したまま感涙したように叫んだ。
彼は柔和で感情豊かで感激しやすい。このままだと自分への長い賛辞が始まってしまう。
ラルは困ったように大汗を浮かべて、顔を上げるように言うが、セルジオは顔を左右に振って平伏したままだ。
「あのさ。もう、顔上げて? セルジオ」
「私、王の懐の温かさに感動しております!!! お仕え出来て幸せです!」
「だから……」と困った様に呟くと、マークがピョンピョン歩いてセルジオの横に立ち、見下ろす。
「まぁ、しぶとさだけがセルジオの取り得みたいなものですから」
「……マーク」
感激中に横やりを入れられ、セルジオはムッとしたようにマークを睨んだ。
マークはセルジオを無視して窓辺に降り立つ。
陽が翳りだす時間になっており、淡い光の列が何十にも重なって空を染めていた。
「それよりも、王。そろそろ食事にでもいかれたらどうです? 丁度良い光加減ですぞ」
言われて窓辺を覗き込む。
「あ、そんな感じだね。ちょっと外へ出てこようかな?」
「お供いたします」とセルジオが平伏し、「ご一緒しましょう」とマークが恭しく頭を下げた。
「散歩をしてくるとフェールに伝えてきます」
「お願いね」
ラルは頷き外へ出る。
セルジオは台所にいるフェールに伝えにいくと、フェールは空中を泳ぐ魚を目的し、吃驚しすぎて包丁を落とした。
思わず目を疑ったが、間違いなく魚が空を泳いでいる。
慌ててセルジオに駆け寄った。
「す、すごい、空を泳いでる!」
「心配をかけたな。すっかり完治したぞ! フェールのお陰だ、感謝する」
長い背びれや尾びれがふわふわと広がりながら揺れ、ランプの灯に鱗が反射してキラキラ輝いている。優雅に泳ぐセルジオの姿に目を奪われ、しばらくじっくり眺め、ほう、と息をついた。
「セルジオさん、綺麗」
「そうか?」
「本当に空を飛ぶんだね」
「嘘じゃなかっただろう?」
ふふんと胸を張る魚に、少女はクスッと笑った。
「うんうん! すごいよ! 治ってよかったね! セルジオさん」
フェールは嬉しそうに魚を抱きしめた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる