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フェールの謝罪
しおりを挟む「……あ!!!」
フェールは少年を見て顔色を変えた。
怒涛の展開に思考を持っていかれたが、この少年のお金を盗った事を思い出す。
「ご、ごめんなさい。その……」
震える手のまま金貨の袋をラルに差し出した。
「わ、わたし……」
「ありがとう」
フェールは「え?」と声を上げてラルをみた。
ラルはまだ続いているマークとセルジオの小競り合いを、愛おしそうに目を細めながら眺めていた。
「セルジオを助けてくれて、本当にありがとう」
視線をフェールに戻すと、彼女は涙目になった。
「わ、私、財布を……盗んで」
「落ちたのを拾ったんだよね?」
「うん。貴方が落としたって知ってた。拾って返そうとしたんだけど、そのまま、持って帰ってしまって。ご、ごめんなさい!!!」
ラルに財布を返すため頭を下げながら銭袋を持っている両手を伸ばす。
「わかった」
ラルが両手を包み込むように握り返した。
少しひんやりとして気持ちの良い手だった。
「それは君にあげる」
「え!?」
吃驚して見上げると、ラルは笑顔を浮かべていた。
「セルジオを保護してくれたお礼」
フェールは吃驚して瞬きを繰り返す。一瞬、手を引っ込めようとして、止めた。
セルジオを助けたのはお金目的ではない。
ただ単に助けたかっただけだ。
お金を受け取れば、お金を貰うために助けたという事になってしまう。
「ダ、ダメなんです! これは、返さなきゃダメなんです!」
「そうなの?」とラルが不思議そうに首を傾げる。
フェールは真剣な面持ちで首を左右に振る。
「貴方から盗んだものを受け取る資格はありません。謝らせてください。本当にごめんなさい。もうしません。絶対にしません! だから、許してください!!!」
フェールが銭袋をラルの胸に押し出す。
ラルは目を軽く見開きつつ少し考えて、強く頷き返してもらった。
「……そうか。わかった、じゃぁ。返してもらうよ」
銭袋をポーチの中に入れると、その手をフェールの頭へ伸ばした。フェールはビクッと反応するも、軽く頭を撫でられているだけだと解ると、恐る恐るラルを見る。
彼は慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた。
それを見ているとフェールの恐怖や後悔が少しずつ溶けて消えていく。
なんだろう、心がほわっと暖かくなった。と、フェールがぼんやりしていると、ラルはすっと手を離した。
「怖かっただろう? もうやらないようにね」
「うん、怖かった。もうやらない。貴方が優しい人で良かった」
そう言って、安堵した笑みを浮かべた。
「でも、少しだけやって良かったって思ってしまうわ。偶然だけど、セルジオさんがオーさんと出会えたキッカケになったんだもの。きっと神の御導きだわ」
ピクッとラルの口元が笑みのまま引きつった。
フェールの声が聞こえたようで、マークが睨みつつセルジオを渾身の力で蹴り上げ、セルジオが「ぐはぁぁ」と悲鳴をあげて宙を舞った。
少し間を開けたものの、ラルはにこりと笑みを浮かべながら頷く。
「そういえば、自己紹介をしてなかったね。僕はオー・ラル。鳥はマーク」
「私はフェ―ル。お詫びといってはなんだけど、もう陽がくれるでしょ? ここに泊まって行かない? 質素だけ
ど食事くらいは出す、わ……」
そこまで言ってラルの身なりに気づき、自ら出した提案に後悔した。
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