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セルジオの不幸
しおりを挟むふと、窓に鳥の羽たく音が聞こえ、セルジオにとって聞き慣れた声が響く。
「なるほど、全ての差し金は貴方だったのですね」
第三者の声に、ぴたっとセルジオとフェールの動きが止まる。
セルジオは急いで窓の方へ顔を向ける。
「その声は、マー……ぐッはぁ!」
猛スピードで窓から室内に入ったマークはセルジオへ突進し、魚の背中に鋭い大きなツメを食いこませると、渾身の力を籠めた。
「ぎゃーーーー!!」
セルジオは背中に走る激痛に悲鳴をあげる。マークは魚の背中を掴んで、フェールの腕から乱暴に引き抜く。
「マーク! 痛い! 痛いぞ!!」
半泣きで叫ぶと、頭上のマークから怒涛の声が響いた。
「黙れ! 怪我を治すためにいたいけな少女を使って盗みをさせるとは、地に落ちたなセルジオ!!」
「ちが、ちがう!! あああ! 本当に血が出る血が出るぅぅぅ!!! 加減してくれ、マァァァァク」
「手加減するかこのクズめ!! まったく情けない、情けない! このド腐れ外道雑魚!!!」
ドスの効いた罵声をセルジオに浴びせながら、マークは口から火を放ち暖炉に火をつける。
「このまま投げ入れて暖炉の火で焼いてやろうか!!」
「誤解だ! 誤解だぁぁぁぁ!!! 頼むから弁解ぐらいはぁぁぁさせてぇぇぇぇ!!」
「問答無用! 同期のよしみで死に方を選ばせてやる! 刺身がいいか、焼き魚がいいか、塩茹でがいいか、モズのはやにえがいいか。さぁ選べ!!」
「どれも嫌だぁぁぁっぁぁぁ!!!」
フェールは目の前で繰り広げられる鳥と魚の攻守光景に唖然とする。
本気で戦っているのか、じゃれ合っているのか判断がつかない。
とりあえず止めたほうが良いのではと思ったところで、
「まぁまぁまぁ。落ち着いて二人とも」
苦笑いを浮かべたラルが、勝手に部屋の中へ入ってきて、仲裁をするため二人に割って入った。
慣れたようにマークとセルジオの間に入り和解させる。
というか、もっぱら、マークの怒りを鎮める。
「ほらほら、マークもそのくらいにしておいて。セルジオがそんな事をするような人じゃないって一番理解しているのは君だろう?」
「………」
マークはセルジオへの罵声を止め、静止する。しかしその目はギラギラ怒りが灯され、セルジオを見下ろしていた。
一方、背中が傷だらけになり出血しているマークは、「王」と涙ながらに呟き、ぺこぺこと頭を下げる。
マークは「チッ」と軽く舌打ちしながらセルジオを床に落とし、ぴくぴくしている彼の横へ降り立ち頭を垂れる。
「王、いえ、ラル様がおっしゃるなら、致し方ありません。こいつの処罰は後回しにします」
床に叩き付けられてセルジオは、一瞬白目をむけてピク、ピクと痙攣したが、すぐに持ち直し、ラルを見上げる。目じりに涙を浮かべながら姿勢を正すと、深々と頭を下げる。
「王よ、再会できて嬉しく思います。同時に、私の不甲斐ない姿をさらしてお目汚ししてしまい、申し訳ありません」
「気にしなくていいよ」
ラルはゆっくりとセルジオの頭を撫でながら、無事な事を心から喜ぶ。
セルジオは涙粒を零しながらお辞儀を何度も繰り返す。
「セルジオが無事でよかった。良い人に助けてもらったようだね」
「はい。そこに居るフェ―ルに助けていただき、こうして王との再会を果たせる事が叶いました。うぐは!?」
喋っていると突然、マークから蹴りが尾びれに当たった。折れているので激痛が走る。
体を丸めて呻く事1分。そろそろ怒りが灯ってきたセルジオは口を大きくあけてマークを威嚇する。
「尾びれ折れてるの知っててやってるだろうマーク!!! 気絶するほど痛いんだぞ!! うっかり蹴ったわけじゃないよな!! 酷いだろうが!!!」
「馬鹿セルジオめ! 迂闊にもほどがあるだろう!!」
すると、マークは明らかにフェールを気にしたようにチラチラ見ながら、小声でそっと耳打ちする。
「人の前でラル様を『王』と呼んではいけないということを忘れたのか?」
「はぅわ!」
そうであった! というリアクションのセルジオに、マークはこれ以上ないほどの白い眼を向けて、顔を引きつらせる。怒りではなく、完全にあきれ果てた表情だった。
「所詮は魚。魚頭というべきか」
「それを言うなら鳥頭だろうが! ああああすまぬ。おもいっきり王と言ってしまった」
「うっかり過ぎるわこの阿呆。痴呆。脳みそ腐り落ちたか? それともウジでも湧いたか魚頭? もう干物化してしまったか?」
「うぐぐぐぐ」
最初から口で勝てないセルジオは、言い返したいけど言い返せない悔しさからギリギリ奥歯を噛みしめる。
ラルはひそひそ話をする仲良しの二人を放っておいて、フェールに向かって笑みを浮かべた。
「やあ。君は先ほど道で会ったよね?」
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