丘の上の嘆き岩

森羅秋

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少年の探しもの

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 ラルは家々の間にある細い道を駆け上り、丘を上がり始めると、困ったように苦笑を浮かべた。

 「やっぱ、人の世も、もっと勉強しなきゃならないって事が実感できたよ」

 マークはラルの横を飛びながら首を左右に振る。

 「いいえ、王には関係の無い事でございます」

 「けど僕は」

 「王に小さき生き物を構う暇はございませぬ。移り行く膨大な力の中、そのような小さき事は邪魔にしかならぬでしょう?」

 「邪魔、かぁ」

 ラルはふと、消滅したモノの姿を思い浮かべた。

 大きな力ばかり目を向けていると、点ほどの力しかない者達まで目が行き届かない。
 『それでいいのか』と、遺言のようにそう問われた。

 その日からずっと疑問に囚われているが、答えはまだ見つかっていない。

 「確かに、小さきものまで目が届かない。だけど、それで本当に良いのかな? 僕はいつも、どうしたら皆に平等な恵みを与えられるか模索していた。模索しても、答えなんて出てこない。…………あれ?」

 ラルの感覚になにか引っかかった。
 思わず周囲を見渡す。

 「出てくるはずなぞございません。そもそも大きな力に立ち向かっていくことが、小さき者の定めでもあります。王が思っているほど、彼らは弱くはなく、寧ろ試練が大きいほど強くなります、それが」

 マークがラルに視線を向けると、ラルは眉を潜めながら、何かを探すように慎重に周囲を探っていた。
 マークは進むのをやめ、ラルの肩に停まる。

 「王よ、どうなされた?」

 「あ、えっと、何か違和感が。風の中に……」

 立ち止まって匂いをかいでいる。

 この場所に強く感じる違和感。

 木々を吹き抜ける風の中に、何が違うものが含まれている。
 それがラルの感覚に引っかかった。
 マークも近くの出っ張った岩に止まり、匂いを嗅ぐと同じように首を捻る。

 「匂い。ううむ。これは確かに、妙な感じが……場違いというか、そんな感じがしますな」

 「こっちからだ」

 ラルが駆けだす。

 細く狭い林を抜けると広い空間が出てきた。
 正面に教会らしき建物があり、その後に林に囲まれた小高い丘が小さく見る。
 ラルは前方に建っている教会に目を止めて、驚いた様子を浮かべ、すぐに安心したように微笑んだ。

 「よかった」

 「よかった??」

 マークは首を傾げながら聞き返すが、ラルは答えず、この代わりに、小高い丘の上に向けて駆け出した。
 マークは「あ!」と声をあげ、慌てて後を追う。

 「お、王よ。何処へいかれる? 何故そんなにお喜びなのでしょうか?」

 ラルは満面の笑みを浮かべて丘を駆け上がった。

 「違和感の理由が分かった!! あの丘の上から潮の香りがする!」

 鳥は目を見開いた。言われてみれば確かに、潮水の、海の香りだ。

 「なんと!? それでは!!!」

 「ああ、そうだ。海の周りを探しても見つからないはずだよ!!! こんな。海とは無縁の山の中に落ちていたんだから!」

 大喜びしながら力の強い方向へ向かうと、黒い岩がぽつんと立っていた。その周りに透明な池が風の流れで波打っている。
 水が地面から物凄い速度で湧き出ていた。池は水深50センチくらいで広さは10メートルを超えるだろう。

 ラルは池のすぐ近くまで行き、指先に水をつけて軽く舐める。

 「やっぱり! 海水だ!」

 「この池は小さな海、ということですか?」

 マークは水を覗きこみながら質問する。

 「ああ。ここは小さな海だ。僕が来たことで停滞していた力が活発になったみたい! 凄いぞマーク!」

 「その通りです! 最後の秘宝を発見できるなんて素晴らしい!」

 そしてマークは少しがっかりした様に「セルジオはどこに」とため息をついた。

 「本当! 僕たちはついている。同時二つの探し物が見つかったんだから!!」

 「二つ?」

 怪訝そうに聞き返すと、ラルは満面の笑みを浮かべて立ち上がった。

 「そう。まずは教会へ行こう。財布を持って行った少女はあそこにいる」

 岩を背にすると、マークが不思議そうに尋ねた。

 「こちらは後回しでも宜しいのですか?」

 ラルは「うん」と頷く。

 「あれは夜じゃないとムリだ。まだ陽も高い。向こうを先にしよう」

 「分かりました」

 納得はしていないが指示に従うマークと共に、丘を降りて教会へと向かった。
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