丘の上の嘆き岩

森羅秋

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ちょっとした出来事

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 街道をしばらく歩くと、町に入るための巨大な門と囲いがあった。
 王族は住んでいないが、盗賊やモンスターから身を守れるくらい強固に作られている。
 商人や旅人を受け入れる為に大きく開かれた門から、たくさんの人達や馬車が出入りしていた。

 検問もなく、するりと中に入ると、その活気にラルは感心した。

 「うわぁ、活気がある。人々も笑顔だし、ここは良い町のようだ」

 立ち止まり、街並みを目に焼き付けるように眺める。

 そんなラルの姿は浮いていた。
 道行く人はチラチラと視界に止めたり、見つめたり、じっと凝視している。
 
 それもそのはず、真っ白な髪に漆黒のローブはよく目立つ。

 顔は愛らしい絶世の美形と表現してもおかしくない。少年と少女、どちらにも見える中性の顔立ちで、顔と体の比率のバランスも良いで更に目立つ。
 更に少年の羽織っているローブがこれまた珍しい材質で出来ている。質素な見た目ながら貴重な特殊素材で編みこまれ、簡素な装飾品も実は大変値打ちモノである。
 
 人混みの中にいても常に異彩を放っているラルに、行き交う人間の殆どが一瞬好奇な目を向ける。
 どこかの貴族のボンボンと思われているのは間違いない。
 人攫いがいれば格好の獲物だろう。

 元の姿に近づくにつれて不埒な輩が度々寄ってきたが、その都度、マークとセルジオが返り討ちにしてきた。それはもう、生まれた事を後悔させるほど徹底的に。

 マークの予想通り、この町は治安がしっかりしているので、不埒な輩の気配はない。

 本来ならば周囲の気配もしっかり探って、自分の身を護るくらいはしないといけないラルだったが

「宿屋も多い。商品も種類がある。人の往来が激しいな。発展している証拠だ! すごくいい!」

 町の活気にばかり心躍らせている。
 当の本人は好奇の視線には無関心で、あっちにふらふら、こっちにふらふらと、観光を楽しんでいた。
 それを上空から眺めているマークはいつも肝をヒヤヒヤさせている。

 「人間の作る物って地域や国によって違うけど、ここは色々混じってる! 楽しい!」

 すっかり観光メインになってしまったラルが、ニコニコしながら堪能していると、ドシンと何かが体にぶつかった。

 「しまった! 誰かとぶつかっちゃった! ごめんね! よそ見してた」

 慌てて謝りながら相手を見ると、ぶつかった相手と目が合った。
 
 古びた水色のワンピースを着た十代半ばの少女だ。金色の輝く髪をおさげに括り、バスケットを持っている。
 少女は何かに気づいて視線を地面に落とすと、すぐにしゃがんだ。

 「こ、こっちこそ、ごめん、なさい」

 そのままスッと、持った物をバスケットに入れる。
 少女は怯えた目をしたまますぐに逃げるように駆け出し、人並みの中に消えていった。

 「うーーーーん?」

 ラルはローブのポケットの上をポンと叩き、厚みを確認して悩むように上を見上げた。一応、地面から聞こえる少女の足音は追いかけている。
 
 数秒、迷った末

 「ま、いっか。困ってたようだし」

 あのくらいならあげよう。と決めた途端、頭上から怒りの声が響いた。

 「なにが、『ま、いっか』ですかぁぁぁぁ!!!」

 槍のように急降下したマークは一直線にラルへ降りてきた。

 「わぁ!?」

 大型の鳥が乱入すると、その風圧でラルの身体が少し浮き、トスンと尻餅を付く。
 その近くを歩いていた人達も同じような被害を受ける。

 「と、鳥?」

 「大きな赤い鳥だ!?」

 行き交う人々は何事かと目を真ん丸くして歩みを止めて、マークを示す。
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