丘の上の嘆き岩

森羅秋

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傷が治るまで一緒に

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 希望の光と言わんばかりに叫んだセルジオだが、すぐに正常の思考に戻る。

 「い、いや、待て。人の使う治療では、私の体の傷は治せない。それ以前に何かを要求する場合、全て代価が必要になるだろう? 生憎、私は金貨も交換する貴金属も、今は所持していないのだ」

 どよよんと暗くなるセルジオにフェールはドン! と自分の胸を叩いた。

 「大丈夫! 私が何とかするよ!」

 「気持はありがたい。しかし、人間の医者には治療は出来ない。そして、失礼ながら、お主も日々の生活を、やっとの事で暮らしている様子ではないか? そんな事は頼めぬぞ」

 「うん。そうだけど……。決めたの! 絶対セルジオさんをお医者様に見せてあげる! パンを売ったお金も少し貯まってるし! どんな方法でもなんでもする!」

 「少女よ。気持ちは有難く受け取る」

 セルジオは嬉しくて、涙腺が崩壊しそうになるのをぐっと堪えた。

 「しかし、何故、そこまでしてくれるのだ? 見ず知らずの奇妙な魚に、どうしてそこまで?」

 フェールは少し顔を赤らめながら、そっと魚をクッションに戻す。
 セルジオのつるつる鱗の頭部を撫でながら、愛おしそうに微笑んだ。

 「だって今夜は一人じゃないんだもん。それが凄く嬉しくて。それに、困っている人には手を差し伸べないとダメだっておかあさん……シスターが言ってたわ。私だってシスターが手を差し伸べてくれたから生きていけたの。だから私も魚さんのために何かしてあげなきゃ」

 魚は感動した様に目が輝いた。

 「なんと。素晴らしい」

 「ほら。誰かのために何か出来ることがあるって、すごく素敵な事だと思うの。だからセルジオさんの為に何が出来るか。って考えたら、お医者様かなぁと」

 笑顔を浮かべる少女に、魚はもう一度、深々と礼を言った。

 「優しい少女よ、その気持ちだけで十分だ。お主に保護された私は大変運がよかった。私の怪我は時間が経過すればある程度は治る。だから、こうやって愚痴を言って発散しているが、気にしないで欲しい。マークが傍についているから、王は私がいなくても大丈夫だ」

 「そんなことないよ! オーさんもセルジオさんを待ってるわ!」

 ぶわっと魚から涙があふれる。
 体中の水分が出ていかないといいけど。と一抹の不安をよぎらせて、フェールはポンと自分の胸を叩いた。

 「私はフェール。傷が治るまではここに居るといいわセルジオさん」

 「それは有難い。しばらく世話にならせてもらう。私を食べそうな輩が来なければ、ここら辺に投げてもらって構わない」

 「ふふふ。大丈夫。動物もあまり来ないから」

 「それなら大丈夫か」

 ホッとした様に胸をなでおろすセルジオ。
 フェールはヒレをちょこんと触った。握手のつもりだ。

 「よろしくね。セルジオさん」

 「よろしく頼むフェール」

 「ところでセルジオさんって、何を食べるの?

 魚は何を食べるのか、池の水をもってくるべきか、虫を取ってくるべきか質問したら、普通の人間の食事で良いと言われた。

 クズ野菜や川を煮込んだ簡素なスープと、焼くのに失敗した硬いパンを用意すると、セルジオはとても喜んだ。

 「うむ。限られた材料で美味しく出来ている! フェールは料理上手だな!」

 お世辞でも美味しいと言えない味付けの料理を、口を突っ込んで全部食べてくれたセルジオに、フェールは胸が暖かくなる。

 寝る時間になるとフェールはセルジオを抱き上げて同じベッドに連れてきた。
 嫌がったセルジオだったが、枕の傍にクッションを置きそこに置くとしぶしぶ大人しくなった。

 「これで大丈夫。寝がえりをしても潰れないわ!」

 「それよりも、若い少女が私みたいな魚と一緒に寝るのは今後止めておいた方がいい。貞操観念の問題がある」

 「?????」

 何言ってるんだろうこの魚さん。とフェールは生暖かい目を向けると、魚は今の自分の姿を思い出し、場違いな事を言ってしまった、と黙った。

 「おやすみなさいセルジオさん」

 「おやすみフェール」

 返事が返ってきて、フェールは目頭が熱くなるのを感じた。
 いつのなら不安に感じるうめき声も、今夜は全く気にならずスヤスヤと眠りにつくことができた。
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