4 / 39
草の中にいたモノ
しおりを挟む食事を終えたフェールは、前まで大好きだった小高い丘の上に向かう。
時刻は夕方。外に出るギリギリの時間だ。
林を抜けると目の前に広大な草原が広がっていた。草原の中に黒い岩が一つ佇んでおり、岩の周囲に浅く広がる池があった。真っ赤な夕日に照らされ、茜色に染まる岩や池は幻想的で素敵な風景であった。
柔らかく吹き抜ける風から独特な匂いを感じ取りながら、フェールは全ての原因である岩を涙目で睨んだ。
「また、池が大きくなっている」
以前はここに池は存在していなかった。
だだっ広い草原は季節によって色々な花を咲かせてきた大きな花畑だった。
黒い岩が現れた一週間後くらいから、徐々に水が溜まり始め、あっという間に花畑が枯れていった。
池は半径2メートルほど広がり、足首ほどの水深がある。
夕日が沈んで黄昏になると、
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
岩から泣き声が轟いた。
心臓にダイレクトに伝わり、耳を塞ぎたくなるほど大音響だ。
フェールの心臓が早鐘のように鳴り響く。不安が、孤独が、悲しみが沸き起こる。
この岩が怖い。今すぐにでも逃げ出したいほどに。
だけどそれ以上に、岩が許せなかった。
この岩が、『家族』をバラバラにした張本人。
フェールは岩を睨んだ。
「私は絶対、負けないから!!!」
ここにずっと居続けているのも、岩に対してささやかな抵抗だった。
これが抵抗になるのか定かではないが、フェールの中では居続けることが岩に屈しないという意思表示でもあった。
いつかこの岩が無くなる日が来るまで、意地でも孤児院に居続ける。
毎日そう決意しているが、
「でも、現実は何もできてないわ。祟りがあったらいけないからって町の人も放置してるし。はーあ。気が重い」
フェールはガックリと肩を落とす。
そろそろ耳が痛くなったので両手で塞ぐ。相変わらず頭に響く金切り声だ。
今頃、町の端っこまで鐘のように響いているだろうと、眼下に見える町を眺める。ぽつぽつと明かりが灯り、町の形が浮かんでいた。
「あーあ。私が怪力だったら岩転がしてどこかに運ぶんだけど。無理だよねー。はー。帰って寝よう」
達観した様子を見せながら、フェールは岩に背を向けて来た道を戻り始めた。
岩が手のひらサイズくらいになって、若干、嘆く声が小さくなって耳を塞ぐのを止める。
「でも少しずつ大きさが小さくなってるから、いつか泣かなくなるかも」
そんな淡い希望を願いつつ、ゆるい坂道を下って行った。
その途中で、草葉の影が揺らいだ気がして、そっちに目を向ける。
「……やれやれ、とんでもない目にあった」
やけに近くから若い男の声がして、フェールは反射的にピタリと立ち止まった。
辺りを見回してみるが誰も居ない。
「あれ? 今……男の人の声がしたような?」
気のせいかな? と思い直しつつ、視線を元に戻そうとして、草むらが異様に動いている事に気づく。
兎でもいるのかも。捕まえられたらお肉食べれる!?と打算する。
育ち盛りなので肉には飢えている。フェールは目を輝かせながらコソコソと草むらに近づき、そっと覗いてみる。
そこに居た予想外のモノに、フェールは目を真ん丸くした。
それは兎ではなかった。
がさごそと動く正体は。全長30センチほどの青紫の
「…………サカナ?」
尾びれが長く扇状に広がり、澄んだ青紫色合いをしたベタ・スプレンデンスのような姿の魚だった。
全長は50センチほどでとても大きい。
それが草の中に絡まるようにモゴモゴと蠢いている。
どこから来たのだろうか? まさか嘆き岩の池にいる魚なのだろうか?
「!?」
呟きを拾って、魚が驚いたようにフェールを見上げた。
食い入るように見つめているフェールと視線が合って、魚はビクっと体を震わせながら目を真ん丸くして凝視する。
目と目が合い、見つめ合う。
驚愕しているのがよく分かるほど、魚の癖に表情が豊かだった。
ゆっくりとフェールは座り込み、そ~っと手を伸ばす。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる