丘の上の嘆き岩

森羅秋

文字の大きさ
上 下
1 / 39

星の瞬く洞窟にて

しおりを挟む
 そこは満天の夜空の中だと錯覚させるような洞窟だった。
 
 巨大な空間が広がり小宇宙と称しても遜色ないほど、様々な色の光がいくつも瞬き、交差していた。
 満天の空を写したその洞窟の中央に、一人の青年が佇んでいた。
 年齢は20代後半。高身長で体つきがよく、顔が小さい。
 空色の魔術師ローブを纏い、腰まで届く銀色の長髪が水中にいるようにふわふわと揺れている。
 目が細く精悍な顔つきであるが、今は険しい表情を浮かべている。ぴんと体に力を入れて、両腕は常に前方にある直径20センチの球体の前に添えられていた。

 球体には赤、青、薄緑、茶色、黒、白、アクアブルー、深緑、金色、空色の10種類の色があり、混ざりあわず、オイルタイマーのようにゆっくりと浮遊を繰り返していた。
 風の流れに添うように規則正しい動きを行いながら、時折戯れに互いに混じり合い、離れを繰り返し、均等に己の色を示している。

 光が瞬くたびにグラスハープの音階が球体から奏でられ、洞窟に響き渡る。
 夜空の演奏会を模様している幻想的で優美な空間で、その場所に佇む青年はさながら指揮者のようでもあった。

 「ふぅ」

 相当な集中力を使うのだろう、額に小さな汗を浮かばせながら青年が小さく息をつく。
 ぐにゃ。と球体が少し歪んだ。
 グラスハープの音に不快なノイズが雷鳴のように鳴く。

 「くっ!」

 青年は反射的にすぐに力を注ぐ。
 歪んだ球体が元に戻り、綺麗な音が響き始めた。

 「……はぁ。はぁ。危なかった」

 青年は苦悶の表情を浮かべて、先ほどより増えた額の汗を袖で乱暴にぬぐう。
 少し肩の力を抜くだけで球体はすぐに形を変えてしまう厄介な物だ。
 全ての力を注がなければ形を均等に保てないため疲労は蓄積する一方。休憩する時間どころか、一息つく暇すら許されない。
 己の力量を否応なくみせつけられるようだ。

 「も、もう……くっ。しかし、耐えなければ……」

 青年は倒れそうになる体に鞭打ちながら頭を振った。ここで力尽きるわけにはいかない。
 球体を維持しなければ世界の理が崩れてしまう。
 身を削ろうが、命を削ろうが、役目を与えられた以上維持し続けなければならない。

 青年がそれを行える期間はおよそ一年。
 その間は寝ることも休むことも一切行わず、不眠不休で力を注いでいた。

 「くっう。力が……」

 その一年が近付いてきて、力の枯渇を感じ始めている。
 いつ意識を失うか分からない。

 「ううう……自分はもう、限界です」

 泣き言を言っても仕方ないと思いつつも、主の帰還を求める言葉を口にする。

 「早く……早くお戻りください………王よ」

 貴方の姿を見たい。笑顔を見たい。そして触れて話がしたい。
 そう強い願望を浮かべると、幾分か気分がマシになった。
 虚ろになっていた目に力強さが戻る。

 「弱音を吐くまい。今は王を信じて、耐えるのみ……っ!」

 青年は歯を食いしばる。強く噛み過ぎたせいで唇を噛み、一筋の血液がツゥっと顎下に伝わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...