裏路地の道

第一話

　密集する住宅街に夕日の日差しが差し込み、うっすらと黄金色に染まり始める秋の夕暮れ。
　
　今年八歳になった少年は、近所のスーパーマーケットの自動ドアから外へ飛び出すと、慣れた足取りで自宅へ戻る。
　
　長袖のシャツに膝下の七部ズボンの姿、黒と黄色のスニーカーでアスファルトを踏みつけながらズンズン歩いていく。

　少年は買った食材を入れたエコバックを、小さな体と手で大事そうに抱えていた。
　一人でやってやったぞ！！　と言わんばかりにその表情は誇らしい。

　いわゆる、初めてのお使いだ。

　夕食準備に追われていた母親が、少年のリクエストの料理を作ろうとして、一つの食材がない事に気づく。
　
　慌てて買い物に出かけようとしたら、機嫌を損ねた妹が泣きわめいて、中々外へ出られない。
　早く食べたいのにと少年はやきもきしていた最中、ふと妙案が浮かんだ。

　「おかあさん！　僕がいく！」

　１人で買ってくると自信満々に提案した。
　
　母親は目を丸くして反対したが、少年は『もう八歳で読み書きも出来るし、計算も出来る。いつも一緒について行っているスーパーなら大丈夫』と説き伏せたら、買い出しの許可が下りた。

　最後まで心配をしていた母親の期待に応え、少年は見事に食材を買う事が出来た。

　一人で全部出来た。という事に、心の底から満足している少年は、足取り軽やかに帰路へ急ぐが、子供の足では少し遠い距離だった。
　
　自宅が見える前に腹の虫が盛大になり響き、少年は音を止めるように少し体を前屈させる。おやつを食べずに出たのは失敗だった。

　「お腹空いたー。はやく帰らなきゃー」

　そしてふと、ビルと住居の間の隙間、裏路地に目を留めた。
　そこから上を見上げると、自宅が見えた……気がした。