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鬼が嘲りし時優劣崩壊す
悪鬼と式鬼の死闘①
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事情を聴いていたので遅くなってしまったが、鷹尾と魄、雪絵と魁は悪鬼羅刹を追って、裏山の中腹にある艮の鬼門がある社へ向かった。
そこは社が立っているだけで何もない広い空間であるが、金神が通ると災いの影響を最小限に抑えるべく鬼門が現世にあらわれる。今年は山陰と近畿地方に鬼門が現れている時期なので、妖魔たちはここぞとばかりに鬼門を狙ってくる。
門が開いて淀みが解き放たれれば、些細なことで戦が起こり、病魔が猛威を振るう。人々の心を恐怖や不安や疑心で満たすことで世の秩序の崩壊をおこし、疑心暗鬼になった人間の精神や、病死や自死の肉を食らうことができる。
あの世の地獄をこの世で再現して、生者の気力を奪おうとするのが悪鬼の目的だ。
魁に横抱きされている雪絵が不安そうに呟く。
「門が開いていたらどうしよう」
「封印が解けたら都合よく艮の鬼門があったから、アレはここの門を開くつもりだ。この程度の妖気ならまだ余裕で間に合うぞ」
魄におんぶされている鷹尾が自信満々に答えた。
「しかし……俺たちは羅刹に勝てるのだろうか……。先ほどの二の舞になってしまっては……」
魁は雪絵の精神の影響を強く受けているため弱気だった。鷹尾は「はぁ?」と唖然としたように目を見開き、雪絵と魁に指差しをしながら怒鳴った。
「二人ともグダグダうっせー。よくあることだよこんなのは!」
魁と雪絵は一瞬だけ視線を混じると「しかし」と異口同音に言葉を発した。そうではあるが、けれども、と言葉が続いたので鷹尾は憤慨した。
「雪絵! さっきも言ったが陰陽師がそんな弱腰でどうする! 式鬼が戦えないだろう! 壱拾想の志を忘れたのか! 復唱!」
「は、はい! 『壱拾想家たるもの いかなる敵においても恐れを抱かず ただ邁進するのみ』!」
「よろしい! 魁も復唱!」
「『壱拾想家たるもの いかなる敵においても恐れを抱かず ただ邁進するのみ』」
「よろしい! ってことで、死を目前にしても一切怯むな。怯んだら死ぬぞ。艮の鬼門を狙う鬼はラスボスクラスだからな」
鷹尾に睨まれた雪絵は素早く何度も頷いた。
「わ、わかりました。魁が戦えるように頑張ります!」
「期待しているぞ」
鷹尾はそう締めくくったが、実際は雪絵の頑張りを全く期待していない。彼女は今回が初陣だ。いくつかの退魔経験を積んでいる鷹尾とは雲泥の差だ。そのあたりも分かっているので、できる限りのフォローはするつもりだ。規模はともかく、誰だって最初は初陣なのだ。初陣ほど怖いものはないが、雪絵もここを乗り越えて一皮むいてもらいたいと期待する。
「魁も、いざとなったら覚悟するように」
「命を差し出せということだな」
雪絵が驚いて目を見開いた。鷹尾は「違う」と呆れたようにため息をついた。
「どこの時代の話だよ。誰からそんな思考を学んだ。まぁいいや。その時がくればな」
説明が面倒だったので鷹尾は投げた。
魄は三人の会話尾聞きながら、先ほど聞いた話を思い出していた。
劍と雪絵と魁の話から分かったことは……咲紅は悪鬼と主従契約をしてしまったようだ。
力が弱い彼女はあっさりと悪鬼に囚われてしまい、幸せな夢を見ている。悪鬼が『魁』の姿を模しているのは咲紅がそう望んだからだろう。
悪鬼の正体は羅刹。涅哩底王ともいわれ破壊と滅亡を司る神でもある。水を住処とし、怪力で足が速く空中を飛行。神通力で人を魅了して食う鬼だ。男と女がいる。
本来は闇夜に最大の力を発揮して夜明けとともに力を失うのだが、咲紅の式鬼となったため昼間も活動できるようになったかもしれない。
式鬼となった悪鬼がまず行ったのは食事だ。まずは伊代が犠牲になった。
咲紅を呼びに行ったが部屋にいなかったので家の中を探していた。玄関にサンダルがなかったので庭に出たと思い、劍に声をかけてから様子を見に行った。庭を歩いていたところを羅刹に襲われた。
悲鳴が聞こえてすぐに三人が外へ出てきたため、伊代は怪我を負ったものの噛み殺されずに済んだ。
そのあとすぐに戦闘になったが……魁は羅刹に敵わなかった。
雪絵が恐怖に慄いたから無意識に力がセーブされてしまい、通常の三分の一しか出ていなかった。
劍は深酒のため判断能力が鈍り攻撃が当たらない。敵が弱いと分かった羅刹は伊代を食らおうとするが、それを庇い劍が大怪我を負った。
魁が盾となり囮になったので、三人は一番近い蔵へ逃げて込み、劍が結界を張った。
蔵を守るべく戦っていた魁だったが、羅刹の蹴りでふっ飛ばされた。近づいてくる羅刹から距離を取ろうとしたが足を負傷しすぐには動けない。死を覚悟したとき、タイミングよく鷹尾と魄が来た。
羅刹の注意がそちらへ向かったので、魁は回復の機会を得て戦闘不能を回避できた。しかし悪鬼の姿で二人が油断すると踏んで急いで駆け付けた。
あとは鷹尾と魄が知る展開になる。
劍曰、あの鬼は小瓶に封印されていた妖魔。天魔波旬監視局山陰部署の管轄者から一時的に預かってほしいと頼まれたモノの一つだ。山陰の山にある艮の鬼門をこじ開けようとしていた鬼集団の主犯格だ。
「これが落ちていた」
魁が封印札を鷹尾に差し出す。鷹尾は受け取ると、嫌そうに眉をひそめて、「………おのれ」と呟き、ぐしゃっと握りつぶした。
「二文字の梵字が間違ってる! 誰だこれ書いたやつ! 叔父さんは気づかなかったのか!?」
「気づかなかった。っていうか、封印物が落ちていたことも気づかなかった。いつの間にスルリと抜けたのか……」
「あれは伊代お母さんが運んだのでは?」
劍が思い出そうと上を見上げている横で、魁がボソリと呟いた。パッと表情が明るくなった劍がポンと手を叩く。
「そういえばそうだった! ほかの封印物もあったから俺はそっちやってて、母さんにもっていってもらったんだ」
「叔父さんんんんんん!」
鷹尾は悔しそうに叫んだ。
「それやっちゃ駄目って母さんから言われてるじゃんかあああああ! おばさんは一般の人だし影響を受けやすい人だから持たせちゃ駄目だって! せめて雪絵か咲紅姉貴にやらせるべきだったんだよ! だから悪鬼は瓶ごと動かして逃げたんだよ! 封印甘かったから神通力が使えたんだ」
指摘を受け、劍はしょんぼりと肩を落とした。鷹尾は難しい表情をしているが、劍をみる目には憐憫があった。叔父は優しいので鷹尾は好きだ。だけど、間が抜けているところがあるのでしっかり言っておかなければならない。
「もぉ。母さんに怒られる原因沢山作らないで! ぐうの根も出ないほど叩きのめされる確定だよ! まったく!」
「すまない……」
「謝るなら伊代おばさんにして!」
鷹尾の言葉に従い、劍は寝ている伊代の頭を撫でて「すまない」と呟いていた。
「……それで鷹尾。どうすんの? 封印札の不備ってあっちの落ち度なんだけど」
魄がくしゃくしゃになった封印札を広げる。『封豕長蛇(ほうしちょうだ)を為す悪鬼封印 急急如律令』と書かれているが、よりによって封印の文字が誤魔化すためにぐにゃぐにゃになっている。読めない。
「っていうかこれ、ワザとじゃない?」
魄の指摘に「たぶん」と鷹尾は頷いた。懐から人型を取り出し「魄、血」と催促した。魄はすぐに小指を噛んで出血すると鷹尾の手のひらに10mlほど血だまりを作る。鷹尾は爪に魄の血をつけて人型に文字を書くと、ボロボロになった封印札を丸めて人型の腕に血で引っ付ける。
「韋駄天走 天魔波旬監視局東京本部 ひのまる鬼門課 似得野課長 也 急急如律令」
形代がひょこっと立ち上がるとドアの隙間を猛スピードで駆け抜けていった。
突風のようなスピードをみて、魄は引きつった表情を浮かべた。恨みが籠っている。
「あれになんて言葉を籠めたの?」
「この封印札を作った責任者出せこのやろう封印解けてこっちが滅茶苦茶なことになったから後で壱拾想劍の元に詫びにこさせろ。って思って命吹き込んだ」
魄は手のひらで額を押さえると、「あっちゃー」と呟き苦笑した。
「大丈夫? 平社員が上にそんな口調使っても」
「いいんだよ。喧嘩売った方が早く動いてくれる。あっちはそんなトコ」
鷹尾はすくっと立ち上がった。
「さ。退魔いくぞ」
「オッケー」
「わかった」
魄と魁は立ち上がるが、雪絵は顔面蒼白のまま動かない。魁は心配そうに雪絵を見つめた。彼女は震える体を両手で抱きしめる。あれほどの強大な妖魔に出遭ったことがない。両親や魁が襲われた光景が脳裏に浮かんできて、恐怖が蘇る。
鷹尾が一瞥して「雪絵」と声をかけるが彼女は動かない。
「何のために式鬼がいるか分かっているよな? 妖魔が起こす異常事態を納めるためだ。魁を使役する責任は大きいぞ。雪絵、何もできなくていいから付いてこい。見るだけでも経験値がつく」
鷹尾は魄に雪絵を運ぶように告げたが、魁が「俺が連れていく」と抱き上げた。震える雪絵はしっかりと魁にしがみつく。
そんな経緯があってか、魄は雪絵を連れてくるのが少し不安だった。
そこは社が立っているだけで何もない広い空間であるが、金神が通ると災いの影響を最小限に抑えるべく鬼門が現世にあらわれる。今年は山陰と近畿地方に鬼門が現れている時期なので、妖魔たちはここぞとばかりに鬼門を狙ってくる。
門が開いて淀みが解き放たれれば、些細なことで戦が起こり、病魔が猛威を振るう。人々の心を恐怖や不安や疑心で満たすことで世の秩序の崩壊をおこし、疑心暗鬼になった人間の精神や、病死や自死の肉を食らうことができる。
あの世の地獄をこの世で再現して、生者の気力を奪おうとするのが悪鬼の目的だ。
魁に横抱きされている雪絵が不安そうに呟く。
「門が開いていたらどうしよう」
「封印が解けたら都合よく艮の鬼門があったから、アレはここの門を開くつもりだ。この程度の妖気ならまだ余裕で間に合うぞ」
魄におんぶされている鷹尾が自信満々に答えた。
「しかし……俺たちは羅刹に勝てるのだろうか……。先ほどの二の舞になってしまっては……」
魁は雪絵の精神の影響を強く受けているため弱気だった。鷹尾は「はぁ?」と唖然としたように目を見開き、雪絵と魁に指差しをしながら怒鳴った。
「二人ともグダグダうっせー。よくあることだよこんなのは!」
魁と雪絵は一瞬だけ視線を混じると「しかし」と異口同音に言葉を発した。そうではあるが、けれども、と言葉が続いたので鷹尾は憤慨した。
「雪絵! さっきも言ったが陰陽師がそんな弱腰でどうする! 式鬼が戦えないだろう! 壱拾想の志を忘れたのか! 復唱!」
「は、はい! 『壱拾想家たるもの いかなる敵においても恐れを抱かず ただ邁進するのみ』!」
「よろしい! 魁も復唱!」
「『壱拾想家たるもの いかなる敵においても恐れを抱かず ただ邁進するのみ』」
「よろしい! ってことで、死を目前にしても一切怯むな。怯んだら死ぬぞ。艮の鬼門を狙う鬼はラスボスクラスだからな」
鷹尾に睨まれた雪絵は素早く何度も頷いた。
「わ、わかりました。魁が戦えるように頑張ります!」
「期待しているぞ」
鷹尾はそう締めくくったが、実際は雪絵の頑張りを全く期待していない。彼女は今回が初陣だ。いくつかの退魔経験を積んでいる鷹尾とは雲泥の差だ。そのあたりも分かっているので、できる限りのフォローはするつもりだ。規模はともかく、誰だって最初は初陣なのだ。初陣ほど怖いものはないが、雪絵もここを乗り越えて一皮むいてもらいたいと期待する。
「魁も、いざとなったら覚悟するように」
「命を差し出せということだな」
雪絵が驚いて目を見開いた。鷹尾は「違う」と呆れたようにため息をついた。
「どこの時代の話だよ。誰からそんな思考を学んだ。まぁいいや。その時がくればな」
説明が面倒だったので鷹尾は投げた。
魄は三人の会話尾聞きながら、先ほど聞いた話を思い出していた。
劍と雪絵と魁の話から分かったことは……咲紅は悪鬼と主従契約をしてしまったようだ。
力が弱い彼女はあっさりと悪鬼に囚われてしまい、幸せな夢を見ている。悪鬼が『魁』の姿を模しているのは咲紅がそう望んだからだろう。
悪鬼の正体は羅刹。涅哩底王ともいわれ破壊と滅亡を司る神でもある。水を住処とし、怪力で足が速く空中を飛行。神通力で人を魅了して食う鬼だ。男と女がいる。
本来は闇夜に最大の力を発揮して夜明けとともに力を失うのだが、咲紅の式鬼となったため昼間も活動できるようになったかもしれない。
式鬼となった悪鬼がまず行ったのは食事だ。まずは伊代が犠牲になった。
咲紅を呼びに行ったが部屋にいなかったので家の中を探していた。玄関にサンダルがなかったので庭に出たと思い、劍に声をかけてから様子を見に行った。庭を歩いていたところを羅刹に襲われた。
悲鳴が聞こえてすぐに三人が外へ出てきたため、伊代は怪我を負ったものの噛み殺されずに済んだ。
そのあとすぐに戦闘になったが……魁は羅刹に敵わなかった。
雪絵が恐怖に慄いたから無意識に力がセーブされてしまい、通常の三分の一しか出ていなかった。
劍は深酒のため判断能力が鈍り攻撃が当たらない。敵が弱いと分かった羅刹は伊代を食らおうとするが、それを庇い劍が大怪我を負った。
魁が盾となり囮になったので、三人は一番近い蔵へ逃げて込み、劍が結界を張った。
蔵を守るべく戦っていた魁だったが、羅刹の蹴りでふっ飛ばされた。近づいてくる羅刹から距離を取ろうとしたが足を負傷しすぐには動けない。死を覚悟したとき、タイミングよく鷹尾と魄が来た。
羅刹の注意がそちらへ向かったので、魁は回復の機会を得て戦闘不能を回避できた。しかし悪鬼の姿で二人が油断すると踏んで急いで駆け付けた。
あとは鷹尾と魄が知る展開になる。
劍曰、あの鬼は小瓶に封印されていた妖魔。天魔波旬監視局山陰部署の管轄者から一時的に預かってほしいと頼まれたモノの一つだ。山陰の山にある艮の鬼門をこじ開けようとしていた鬼集団の主犯格だ。
「これが落ちていた」
魁が封印札を鷹尾に差し出す。鷹尾は受け取ると、嫌そうに眉をひそめて、「………おのれ」と呟き、ぐしゃっと握りつぶした。
「二文字の梵字が間違ってる! 誰だこれ書いたやつ! 叔父さんは気づかなかったのか!?」
「気づかなかった。っていうか、封印物が落ちていたことも気づかなかった。いつの間にスルリと抜けたのか……」
「あれは伊代お母さんが運んだのでは?」
劍が思い出そうと上を見上げている横で、魁がボソリと呟いた。パッと表情が明るくなった劍がポンと手を叩く。
「そういえばそうだった! ほかの封印物もあったから俺はそっちやってて、母さんにもっていってもらったんだ」
「叔父さんんんんんん!」
鷹尾は悔しそうに叫んだ。
「それやっちゃ駄目って母さんから言われてるじゃんかあああああ! おばさんは一般の人だし影響を受けやすい人だから持たせちゃ駄目だって! せめて雪絵か咲紅姉貴にやらせるべきだったんだよ! だから悪鬼は瓶ごと動かして逃げたんだよ! 封印甘かったから神通力が使えたんだ」
指摘を受け、劍はしょんぼりと肩を落とした。鷹尾は難しい表情をしているが、劍をみる目には憐憫があった。叔父は優しいので鷹尾は好きだ。だけど、間が抜けているところがあるのでしっかり言っておかなければならない。
「もぉ。母さんに怒られる原因沢山作らないで! ぐうの根も出ないほど叩きのめされる確定だよ! まったく!」
「すまない……」
「謝るなら伊代おばさんにして!」
鷹尾の言葉に従い、劍は寝ている伊代の頭を撫でて「すまない」と呟いていた。
「……それで鷹尾。どうすんの? 封印札の不備ってあっちの落ち度なんだけど」
魄がくしゃくしゃになった封印札を広げる。『封豕長蛇(ほうしちょうだ)を為す悪鬼封印 急急如律令』と書かれているが、よりによって封印の文字が誤魔化すためにぐにゃぐにゃになっている。読めない。
「っていうかこれ、ワザとじゃない?」
魄の指摘に「たぶん」と鷹尾は頷いた。懐から人型を取り出し「魄、血」と催促した。魄はすぐに小指を噛んで出血すると鷹尾の手のひらに10mlほど血だまりを作る。鷹尾は爪に魄の血をつけて人型に文字を書くと、ボロボロになった封印札を丸めて人型の腕に血で引っ付ける。
「韋駄天走 天魔波旬監視局東京本部 ひのまる鬼門課 似得野課長 也 急急如律令」
形代がひょこっと立ち上がるとドアの隙間を猛スピードで駆け抜けていった。
突風のようなスピードをみて、魄は引きつった表情を浮かべた。恨みが籠っている。
「あれになんて言葉を籠めたの?」
「この封印札を作った責任者出せこのやろう封印解けてこっちが滅茶苦茶なことになったから後で壱拾想劍の元に詫びにこさせろ。って思って命吹き込んだ」
魄は手のひらで額を押さえると、「あっちゃー」と呟き苦笑した。
「大丈夫? 平社員が上にそんな口調使っても」
「いいんだよ。喧嘩売った方が早く動いてくれる。あっちはそんなトコ」
鷹尾はすくっと立ち上がった。
「さ。退魔いくぞ」
「オッケー」
「わかった」
魄と魁は立ち上がるが、雪絵は顔面蒼白のまま動かない。魁は心配そうに雪絵を見つめた。彼女は震える体を両手で抱きしめる。あれほどの強大な妖魔に出遭ったことがない。両親や魁が襲われた光景が脳裏に浮かんできて、恐怖が蘇る。
鷹尾が一瞥して「雪絵」と声をかけるが彼女は動かない。
「何のために式鬼がいるか分かっているよな? 妖魔が起こす異常事態を納めるためだ。魁を使役する責任は大きいぞ。雪絵、何もできなくていいから付いてこい。見るだけでも経験値がつく」
鷹尾は魄に雪絵を運ぶように告げたが、魁が「俺が連れていく」と抱き上げた。震える雪絵はしっかりと魁にしがみつく。
そんな経緯があってか、魄は雪絵を連れてくるのが少し不安だった。
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