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鬼生まれし刻災厄きたる
浸食する悪しきもの②
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天災級の妖気を感じ取り、勇実がギリっと奥歯を噛みしめる。
「とにかく劍のところへ行かなければ。あいつのことだから『また今度整理しようと置いていた封印した小瓶か箱を踏み抜いた』んだろうけども! これはマズイ気配だ。劍達の生死にかかわるから私が助けに行かないと!」
勇実はリビング入り口に立てかけていたコートを取る。
急いで着ようとするが、相当酔っぱらっているので袖に手が通らない。のたのたとふらふらと、酔っ払いが千鳥足で動いている。
「劍叔父さんのなら被害は少ないと思いますが、念のために菜由香叔母さんや和水叔父さんにも連絡します! あとええと。従兄弟たちにも……誰が戻ってたかな? えーと。従妹の名前はどれだっけ! ええと。叔父さんは、ええとー!」
飛鷹も酔っぱらっているのでスマホの電話帳を開いているが、親族ではなくて友人欄で探している。見つかるはずはない。
二人とも危機感は募らせているが……酔っ払いである。必死に準備をしようと動いているが全く進んでいない。
なんだこれ。と魄と鷹尾がジト目で眺めた。
はぁ。と呆れながら息を吐くと、鷹尾は千鳥足の勇実を引っ張ってソファーに座らせる。
「母さん。その状態じゃ返り討ちだよ」
「でも劍がああああ」
勇実がべそべそと泣き始めた。泣き上戸に突入して、だめだこりゃ、と鷹尾は肩をすくめた。泣く母親を放置して上着を取りに行く。
「ほら。お兄さんこれですよ」
魄は飛鷹の手からスマホを取ると電話帳で親族欄を開いて渡した。飛鷹は「ありがとう~」とほわほわな口調でお礼を言って、なでなでと優しく魄の頭を撫でる。細い目になりじーっと眺めて、ゆっくりタップするだけで通話まで至っていない。本当に緊急連絡ができるのか不安になった。
「魄。酔っ払いに絡むな。俺たちだけで行くぞ、準備を……。そうだ」
鷹尾は急に思い立ち、リビング横のクローゼットを開けた。そこには儀式のときに着る服や小物が置かれている。その中から白衣と緋袴を出した。いわゆる巫女服だ。魄が正月や盆や行事の際に着用するものである。
鷹尾は魄に服を投げた。魄が受け取るとそれを着るように促す。
「……これ着るの? 私服でいいのでは?」
「武装衣装だから。そっちの服より魔に対する防御力が高い。寒いから服の上からでいいぞ」
魄は「じゃぁ」と呟きながら、ストレッチのズボンの上に袴を、タートルネックシャツの上に白衣を着た。鬼が着る巫女服はなかなかに迫力があったが、鷹尾は苦笑する。
「中に服を着ているから巫女コスプレに失敗した奴みたいだな。それとも現代風にアレンジしたファンタジーぽい」
「うっさい……コスプレじゃないもん」
魄が頬を染めて、恥ずかしそうにしなを作ると、赤面が移ったように鷹尾の頬に朱が刺した。すぐにそっぽを向く。
「はいはい。そうだった、そうだった」
少し乱暴に言いながら、旅行鞄から宝棒を取り出してズボンのベルトに挟む。
宝棒とは先端に宝珠がついた棒であり、如意宝棒と呼ばれている。悪を追い払う効果があり、富や幸運をもたらす働きがある武器だ。鷹尾は独りで行動するときはこれで鬼や妖魔を殴ることが多い。
いくつかの形代をポケットに入れると、もこっとしたジャケットを羽織った。
「さて、あとは……」
鷹尾はテーブルを物色しはじめた。
「なにしてるの鷹尾?」
「んー。まぁ一応……。お、これ神棚にあったやつだな」
日本酒の瓶を持ち振って中身を確認する。ちゃぷちゃぷと音がする。
近づいてきた魄に綺麗なお猪口を渡した。少しだけ注いで飲むように促す。
魄はちょっと嫌そうな顔をして「まだ未成年」と呟くと、「いいから」と強制的に飲ませた。三口で飲み干した魄は、口の中の苦いアルコールから逃げるようにペロッと舌を出すと、鷹尾がきょとんとした表情になって、微笑を浮かべた。
「なんだそれ、かわ……」
可愛い。と言いかけて固まる。魄が「かわ?」と聞くと、鷹尾は頬を赤くしながら素早く首を左右に振った。
「よし。行くぞ」
「え? なんで言うのやめたの? 日本酒飲んだ理由でしょ。教えてよ」
魄が聞き返すが、鷹尾は無視してそそくさと玄関へ向かう。素っ気ない態度を不思議に思いながら、魄は後をついていった。
「とにかく劍のところへ行かなければ。あいつのことだから『また今度整理しようと置いていた封印した小瓶か箱を踏み抜いた』んだろうけども! これはマズイ気配だ。劍達の生死にかかわるから私が助けに行かないと!」
勇実はリビング入り口に立てかけていたコートを取る。
急いで着ようとするが、相当酔っぱらっているので袖に手が通らない。のたのたとふらふらと、酔っ払いが千鳥足で動いている。
「劍叔父さんのなら被害は少ないと思いますが、念のために菜由香叔母さんや和水叔父さんにも連絡します! あとええと。従兄弟たちにも……誰が戻ってたかな? えーと。従妹の名前はどれだっけ! ええと。叔父さんは、ええとー!」
飛鷹も酔っぱらっているのでスマホの電話帳を開いているが、親族ではなくて友人欄で探している。見つかるはずはない。
二人とも危機感は募らせているが……酔っ払いである。必死に準備をしようと動いているが全く進んでいない。
なんだこれ。と魄と鷹尾がジト目で眺めた。
はぁ。と呆れながら息を吐くと、鷹尾は千鳥足の勇実を引っ張ってソファーに座らせる。
「母さん。その状態じゃ返り討ちだよ」
「でも劍がああああ」
勇実がべそべそと泣き始めた。泣き上戸に突入して、だめだこりゃ、と鷹尾は肩をすくめた。泣く母親を放置して上着を取りに行く。
「ほら。お兄さんこれですよ」
魄は飛鷹の手からスマホを取ると電話帳で親族欄を開いて渡した。飛鷹は「ありがとう~」とほわほわな口調でお礼を言って、なでなでと優しく魄の頭を撫でる。細い目になりじーっと眺めて、ゆっくりタップするだけで通話まで至っていない。本当に緊急連絡ができるのか不安になった。
「魄。酔っ払いに絡むな。俺たちだけで行くぞ、準備を……。そうだ」
鷹尾は急に思い立ち、リビング横のクローゼットを開けた。そこには儀式のときに着る服や小物が置かれている。その中から白衣と緋袴を出した。いわゆる巫女服だ。魄が正月や盆や行事の際に着用するものである。
鷹尾は魄に服を投げた。魄が受け取るとそれを着るように促す。
「……これ着るの? 私服でいいのでは?」
「武装衣装だから。そっちの服より魔に対する防御力が高い。寒いから服の上からでいいぞ」
魄は「じゃぁ」と呟きながら、ストレッチのズボンの上に袴を、タートルネックシャツの上に白衣を着た。鬼が着る巫女服はなかなかに迫力があったが、鷹尾は苦笑する。
「中に服を着ているから巫女コスプレに失敗した奴みたいだな。それとも現代風にアレンジしたファンタジーぽい」
「うっさい……コスプレじゃないもん」
魄が頬を染めて、恥ずかしそうにしなを作ると、赤面が移ったように鷹尾の頬に朱が刺した。すぐにそっぽを向く。
「はいはい。そうだった、そうだった」
少し乱暴に言いながら、旅行鞄から宝棒を取り出してズボンのベルトに挟む。
宝棒とは先端に宝珠がついた棒であり、如意宝棒と呼ばれている。悪を追い払う効果があり、富や幸運をもたらす働きがある武器だ。鷹尾は独りで行動するときはこれで鬼や妖魔を殴ることが多い。
いくつかの形代をポケットに入れると、もこっとしたジャケットを羽織った。
「さて、あとは……」
鷹尾はテーブルを物色しはじめた。
「なにしてるの鷹尾?」
「んー。まぁ一応……。お、これ神棚にあったやつだな」
日本酒の瓶を持ち振って中身を確認する。ちゃぷちゃぷと音がする。
近づいてきた魄に綺麗なお猪口を渡した。少しだけ注いで飲むように促す。
魄はちょっと嫌そうな顔をして「まだ未成年」と呟くと、「いいから」と強制的に飲ませた。三口で飲み干した魄は、口の中の苦いアルコールから逃げるようにペロッと舌を出すと、鷹尾がきょとんとした表情になって、微笑を浮かべた。
「なんだそれ、かわ……」
可愛い。と言いかけて固まる。魄が「かわ?」と聞くと、鷹尾は頬を赤くしながら素早く首を左右に振った。
「よし。行くぞ」
「え? なんで言うのやめたの? 日本酒飲んだ理由でしょ。教えてよ」
魄が聞き返すが、鷹尾は無視してそそくさと玄関へ向かう。素っ気ない態度を不思議に思いながら、魄は後をついていった。
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