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鬼集い火花散る
式鬼の決闘④
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「いつでもこい!」
その瞬間、魁が動いた。地面に砂煙を上げて追突するように迫ってくる。コンマ一秒で間合いに入った。
「い すい い とう ウォータージェット!」
魁が懐に入る前に術を発動させる。眉間、肩、喉、大腿部を狙って高圧の水流が飛んでくる。魁は左に飛んで紙一重で避ける。先ほどより動きがいい。連発していたので彼の目が慣れてきたのかもしれない。
魁が背を低くしてボディブローを繰り出してきた。魄はステップを踏んで右に避けると足を開いて重心を低くした。追ってきた魁の右ストレートを左手だけで受け止める。そして右手で魁の腹部に向けて術を出す。
「い すい い とう ウォータージェット!」
高圧水流が五本、至近距離で魁の腹部に放たれる。
「烈火よ。我の呼び声に応じ姿を変化させよ! 炎風!」
魁の体から炎が噴き出して腹部に渦巻き防御を行う。熱量に魄の全身に大粒の汗が浮かんだ。炎の熱に水柱は若干蒸発したが威力は失われていない。真っすぐ進み魁を貫くかと思われたが――
雪絵は魄の術に狙いを定め、右手で作った刀印を左手で作った鞘に納めて、素早く九字を切る。
「臨兵闘者皆陣烈在前!」
バシュ! とすべての水流が霧散した。流石陰陽師と魄は心の中で絶賛する。
「烈火よ。我の呼び声に応じ姿を変化させよ! 炎風烈火!」
魁の体に纏わせていた炎が大きく開けた口のように四方に広がると、魄を包むように覆いかぶさって来た。
これはまずいな、と魄は炎から逃げるため後方に下がる。すると、パァン、と足元の地面が破裂した。へこみは少なかったので足をくじくことはしなかったが着地点が続々と破裂していく。チラッとみると、雪絵が九字を切りまくっていた。魄のバランスを崩して隙を作ろうとしている。
魄は、なるほどねぇ。と感心して、雪絵が立っている位置と距離のおおよそ目視で測る。彼女は殆ど動いていないようだ。魁が常に雪絵を背に庇うように誘導してくる。魁を突破しないと雪絵にたどり着けないように考えているようだ。
炎で水を牽制しながら肉弾戦へ持ち込もうとする魁。激しく動いているがまだ息は切れていない。
それは魄も同じことで、雪絵の攻撃をかわしながら魁の攻撃を紙一重でかわしている。
均衡した状態のまま二十分が経過すると、魁の息が少し上がってきた。雪絵の集中力が切れてきたようだと魄は感じる。集中力が切れてから魁の相手をしてもいいのだが、それだと面白くないと判断して、一気に勝負を決めることにした。
急接近して近づくと、魁はこの機を逃さないとばかりに左ストレートで魄の顔面を狙う。顔の骨を威力が魄の頬をかすめると、至近距離で術を繰り出した。
「せい ふ せい すい せき う ウォーターポロ!」
バスケットボール代の水球が魁の顔面を狙う。魁は素早く左手で庇いながら腰をひねって避けた。威力を考えると顔面や頭部に当たるのは可能な限り避けた方がいい。
魄はまた同じ術を繰り返す。
「せい ふ せい すい せき う ダブルウォーターポロ!」
水球が同時に二つ、剛速球で飛んでくる。魁はすぐに両腕をクロスして頭部を守った。当たった威力によって後方へ押し込まれる。耐えるために踏ん張った足で地面がえぐれていた。
「せい ふ せい すい せき う トリプルウォーターポロ!」
三つの水球を防御する。
「せい ふ せい すい せき う クワットウォーターポロ! せい ふ せい すい せき う クィンティプルウォーターポロ! せい ふ せい すい せき う セクタプルウォーターポロ!」
四つの水球、五つの水球、六つの水球……と矢継でやってくるため、魁の足元が沈み地面に穴をあける。攻撃を受けると後方に押されるため、クワで耕したような溝が伸びていった。
炎を纏っているが水球が激しく全身にぶつかり痛みが走る。回避しようと足を浮かせると水球の衝撃でバランスが崩れる。踏ん張るのをやめると、吹っ飛ばされるか転倒してしまうため動くに動けない。
「せい ふ せい すい せき う ディカプルウォーターポロ!」
「この程度では効かん!」
全身に火の守りがあり尚且つ、雪絵が三分の一ほど相殺しているので、魁のダメージは微々たるものだ。
何かほかに策があるのかと様子をみていたが、魄は一メートルの距離を保ちながら水球を投げているだけだ。雪絵も魁も実戦経験が乏しく長期戦に慣れていない。雪絵から届く力がゆっくりとだが弱まっている。こちらの消耗を待っていると感じた魁はすぐに決着をつけようと動いた。水球を避けたり殴りながら、威嚇するように犬歯を見せて詠唱を始める。
「烈火よ。我の呼び……」
「せい ふ せい すい せき う ディカプルウォーターポロ!」
魄が術を出したあとのタイムロスは三秒から五秒。早口言葉に慣れており活舌もよく一度も舌を噛んでいない。
詠唱してすぐに十の水球が飛んできたので、魁は身を翻しながら数歩分横にずれて水球を全回避する。詠唱中は別の言葉――うめき声でも出すと中断され一からやり直しになる。
「声に応じ……」
「きゃああああ!」
「!?」
雪絵の悲鳴が背中から聞こえた。慌てて振り返ると、雪絵の足元に沢山のクレーターができていた。バスケットボールほどの大きさでクレーターは濡れている。魄の術だと気づいたが、それよりも雪絵との距離が数メートルまで近づいていたことに魁は驚きを隠せなかった。
避けてしまったことで雪絵に術が当たってしまった。もっと注意を払っていればとショックを受け、ほんの一瞬だけ詠唱の意識が途切れた。
魁の意識が雪絵に集中したのを見計らって、魄は素早く詠唱を行う。
「光陰流水 山高く水低し 風に乗り波を破る 心を椎ちて泣血す水面を 水を以て水を救うべし」
魄の体から巨大な水柱があがり噴水のように踊り始めた。一つひとつが意志を持つ波のように渦を巻く。
滅多に使わない――必殺技だ。
その瞬間、魁が動いた。地面に砂煙を上げて追突するように迫ってくる。コンマ一秒で間合いに入った。
「い すい い とう ウォータージェット!」
魁が懐に入る前に術を発動させる。眉間、肩、喉、大腿部を狙って高圧の水流が飛んでくる。魁は左に飛んで紙一重で避ける。先ほどより動きがいい。連発していたので彼の目が慣れてきたのかもしれない。
魁が背を低くしてボディブローを繰り出してきた。魄はステップを踏んで右に避けると足を開いて重心を低くした。追ってきた魁の右ストレートを左手だけで受け止める。そして右手で魁の腹部に向けて術を出す。
「い すい い とう ウォータージェット!」
高圧水流が五本、至近距離で魁の腹部に放たれる。
「烈火よ。我の呼び声に応じ姿を変化させよ! 炎風!」
魁の体から炎が噴き出して腹部に渦巻き防御を行う。熱量に魄の全身に大粒の汗が浮かんだ。炎の熱に水柱は若干蒸発したが威力は失われていない。真っすぐ進み魁を貫くかと思われたが――
雪絵は魄の術に狙いを定め、右手で作った刀印を左手で作った鞘に納めて、素早く九字を切る。
「臨兵闘者皆陣烈在前!」
バシュ! とすべての水流が霧散した。流石陰陽師と魄は心の中で絶賛する。
「烈火よ。我の呼び声に応じ姿を変化させよ! 炎風烈火!」
魁の体に纏わせていた炎が大きく開けた口のように四方に広がると、魄を包むように覆いかぶさって来た。
これはまずいな、と魄は炎から逃げるため後方に下がる。すると、パァン、と足元の地面が破裂した。へこみは少なかったので足をくじくことはしなかったが着地点が続々と破裂していく。チラッとみると、雪絵が九字を切りまくっていた。魄のバランスを崩して隙を作ろうとしている。
魄は、なるほどねぇ。と感心して、雪絵が立っている位置と距離のおおよそ目視で測る。彼女は殆ど動いていないようだ。魁が常に雪絵を背に庇うように誘導してくる。魁を突破しないと雪絵にたどり着けないように考えているようだ。
炎で水を牽制しながら肉弾戦へ持ち込もうとする魁。激しく動いているがまだ息は切れていない。
それは魄も同じことで、雪絵の攻撃をかわしながら魁の攻撃を紙一重でかわしている。
均衡した状態のまま二十分が経過すると、魁の息が少し上がってきた。雪絵の集中力が切れてきたようだと魄は感じる。集中力が切れてから魁の相手をしてもいいのだが、それだと面白くないと判断して、一気に勝負を決めることにした。
急接近して近づくと、魁はこの機を逃さないとばかりに左ストレートで魄の顔面を狙う。顔の骨を威力が魄の頬をかすめると、至近距離で術を繰り出した。
「せい ふ せい すい せき う ウォーターポロ!」
バスケットボール代の水球が魁の顔面を狙う。魁は素早く左手で庇いながら腰をひねって避けた。威力を考えると顔面や頭部に当たるのは可能な限り避けた方がいい。
魄はまた同じ術を繰り返す。
「せい ふ せい すい せき う ダブルウォーターポロ!」
水球が同時に二つ、剛速球で飛んでくる。魁はすぐに両腕をクロスして頭部を守った。当たった威力によって後方へ押し込まれる。耐えるために踏ん張った足で地面がえぐれていた。
「せい ふ せい すい せき う トリプルウォーターポロ!」
三つの水球を防御する。
「せい ふ せい すい せき う クワットウォーターポロ! せい ふ せい すい せき う クィンティプルウォーターポロ! せい ふ せい すい せき う セクタプルウォーターポロ!」
四つの水球、五つの水球、六つの水球……と矢継でやってくるため、魁の足元が沈み地面に穴をあける。攻撃を受けると後方に押されるため、クワで耕したような溝が伸びていった。
炎を纏っているが水球が激しく全身にぶつかり痛みが走る。回避しようと足を浮かせると水球の衝撃でバランスが崩れる。踏ん張るのをやめると、吹っ飛ばされるか転倒してしまうため動くに動けない。
「せい ふ せい すい せき う ディカプルウォーターポロ!」
「この程度では効かん!」
全身に火の守りがあり尚且つ、雪絵が三分の一ほど相殺しているので、魁のダメージは微々たるものだ。
何かほかに策があるのかと様子をみていたが、魄は一メートルの距離を保ちながら水球を投げているだけだ。雪絵も魁も実戦経験が乏しく長期戦に慣れていない。雪絵から届く力がゆっくりとだが弱まっている。こちらの消耗を待っていると感じた魁はすぐに決着をつけようと動いた。水球を避けたり殴りながら、威嚇するように犬歯を見せて詠唱を始める。
「烈火よ。我の呼び……」
「せい ふ せい すい せき う ディカプルウォーターポロ!」
魄が術を出したあとのタイムロスは三秒から五秒。早口言葉に慣れており活舌もよく一度も舌を噛んでいない。
詠唱してすぐに十の水球が飛んできたので、魁は身を翻しながら数歩分横にずれて水球を全回避する。詠唱中は別の言葉――うめき声でも出すと中断され一からやり直しになる。
「声に応じ……」
「きゃああああ!」
「!?」
雪絵の悲鳴が背中から聞こえた。慌てて振り返ると、雪絵の足元に沢山のクレーターができていた。バスケットボールほどの大きさでクレーターは濡れている。魄の術だと気づいたが、それよりも雪絵との距離が数メートルまで近づいていたことに魁は驚きを隠せなかった。
避けてしまったことで雪絵に術が当たってしまった。もっと注意を払っていればとショックを受け、ほんの一瞬だけ詠唱の意識が途切れた。
魁の意識が雪絵に集中したのを見計らって、魄は素早く詠唱を行う。
「光陰流水 山高く水低し 風に乗り波を破る 心を椎ちて泣血す水面を 水を以て水を救うべし」
魄の体から巨大な水柱があがり噴水のように踊り始めた。一つひとつが意志を持つ波のように渦を巻く。
滅多に使わない――必殺技だ。
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