上 下
32 / 33
第一章 馴染むところから始めます

32.前途多難なもう一人の相棒

しおりを挟む
「たしかに、分かりやすい」

 と感想を述べた後、空が静かになった。羽ばたきの音も声もしなくなり夜の静寂が戻る。
 首を動かして一八〇度の景色を一瞥すると、地面に沢山の吸血鬼チョンチョンが落ちて絶命していた。出血はないため穴の開いた生首のおもちゃが転がっているようだった。

「はぁ」

 あからさまにため息をつきながら、吸血鬼チョンチョンを全て葬った東護とうごは歩み寄る。息吹戸いぶきどの前で立ち止まると、彼女を軽蔑しながら見下ろした。

「何を遊んでいるんだ息吹戸いぶきど。この程度、五分もあれば片付くだろう」

 自分の実力なんてこれっぽっちも把握していない息吹戸いぶきどは「そうなの?」と聞き返す。東護とうごは嫌悪感を隠すことなく口をへの字に曲げた。

「話に聞いていたが、無様だな」

 彼も玉谷たまやから彼女の状態を聞いているが、この程度の雑魚で手を貸さなければならないという状況に苛立ちを隠せない。まるで新米以下の一般人だ。と毒づく。

「そりゃどうも」

 と息吹戸いぶきどは肩をすくめた。
 言葉から伝わる嫌悪はさておき、一応助けてくれたことに対して感謝を述べる。

「とりあえず、ありがとう。全体攻撃出来ないから助かったよ」
 
 東護とうごは少しだけ眉を動かす。
 別人のようだと誰かが言っていたが、確かにそう思える態度だ。
 侮辱する言葉を発したのに噛みつくことなく無視をしている。
 
 とはいえ、記憶喪失であろうとも根本は変わらないと、東護とうごは強く睨んで相手を制した。
 睨まれた方は少しだけ首を傾げて苦笑いを浮かべた。
 
(めっちゃ睨まれてる)

 なんとなく、何かを思い出しそうだ。
 
(敵意に混じった殺意の視線だね。これは■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■……)

 黒塗りで潰された。
 息吹戸いぶきどは痛い程刺さる視線にうんざりしながら、頭を振りつつ立ち上がる。

(はぁ。しかしまぁ、大変だなぁこの体)
 
 この体に憑依してから嫌っている人の方が多いと認識しているが、東護tぴgpは別格だ。明らかに敵視している。
 でも、こちらがひどい事をしたんだろうと、あまり深く考えないことにした。

 悪関係を修復できたらいいが、現段階で積極的に行う相手ではなさそうだ。
 突っついたら、突っついた分だけ、好感度が下がる気がする。いや、マイナス数値が更に増えるだけだ。

 各々考える事は違えど、二人はずっと視線を合わせている。
 その雰囲気は冷え冷えを通り越え極寒だ。相手の荒を狙い、何かあればそこを突っついて攻撃しようと思案している。
 
 津賀留つがるは、まただ……と冷や汗を浮かべながら、雰囲気を壊すべく東護とうごに話しかける。 

「あの、東護とうごさん。応援にかけてつけて頂き、有難うございました」

 津賀留つがるが深々とお辞儀をしながら礼を言うと、東護とうごは視線だけ向けて「別に」と答えた。極寒の雰囲気が若干和らいだが、愛想のない男だと息吹戸いぶきどは思った。
 
(とはいえ、私だけあの態度だけど他の人には普通なのかもな。でも、クール系っていうよりもクールドライ系。好きな人が出来てもデレるかどうかわからないタイプ……顔がいい分、これは女性にモテそう……)

「ん?」

 と息吹戸いぶきどは声をあげた。

東護とうご? ってことは、当分この人と組むってこと?」
 
 仕返しとばかりに指さしすると、彼は嫌そうに目を細めた。

 津賀留つがるは「そうです」と引きつった笑みで答えると、息吹戸いぶきどから「うわぁマジか」と本音が出た。慌てて口を押えて「ええと。よろしく?」と取り繕ってみると、東護とうごは嫌そうに眉をひそめ、数歩距離を取った。態度に出過ぎて逆に清々しく感じてしまった息吹戸はつい笑ってしまう。

東護とうごさんって呼んでいい?」

「本当に何も覚えてないんだな。軽々しく話しかけるな」

「次の仕事からよろしくね」

 態度を気にせず声をかけると、目障りな存在だと呟いた東護とうごは元来た道を歩き始めた。
 息吹戸いぶきどは彼の背中を見送り、姿が見えなくなって、津賀留つがるに話しかける。

津賀留つがるちゃん。彼の事もう少し詳しく教えて。敵意ビシビシくるんだけど、私なにかしてた?」

 津賀留つがるは「詳しく知りませんが」と前置きをして

「お二人は昔、一度だけ相棒を組んでいたそうです。最初から仲が悪かったと聞いています。東護とうごさんが息吹戸いぶきどさんにあんな態度を取るようになったのは、組んでから二年目からだと噂があります。仲の良い同僚に、取り返しのつかない事をされた、と漏らしていたそうですよ」

 息吹戸いぶきどは瞬き二つして、「詳しいね?」と聞き返すと、津賀留つがるは首を左右に振った。

「あくまでも噂です。本人たちは口を閉ざしていますから」

 本人たち。息吹戸いぶきどもそれに含まれている。
 息吹戸いぶきどは軽く肩をすくめて「そっかー」とため息を吐く。

息吹戸いぶきどは嫌われ者だねぇ。何をどうしてこうなったのか」

 苦笑いを浮かべながら若干ションボリしていると、津賀留つがるは強く否定した。

「そんなことありません! 私は息吹戸いぶきどさんが大切です!」

「わー、ありがとう」

 適当に励ましてくれているのかと思ったが、

「本当ですからねっ!」

 彼女は真剣に感謝の気持を伝えようと必死に見つめている。
 想いが真摯に『私』の心に伝わる。
 この世界でも孤独じゃないって思うと嬉しくて微笑んだ。

 息吹戸いぶきどとなった『私』の一日はイベント密度が高く、目まぐるしいものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...