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第一章 馴染むところから始めます
31.人間は空を飛べない
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片手が塞がっている状態では動きに制限が出るが、津賀留を一人にすると彼女に群がって、あっという間に餌食になってしまうだろう。
(鏡の能力が役に立つとは思えないなぁ)
光ぐらいなら出せるかもしれないが、太陽光でなければ倒せるイメージが無い。
そもそも吸血鬼系は弱点が多様であって一定しない。物語の数だけ個性があり、一般的な弱点が効くものもいれば、個性的な弱点を備えていたり、最近は弱点がない無敵もいたりする。
人気が高いからと言えばそれまでだけども。
(ここでの倒し方は……津賀留ちゃんに聞こう)
「津賀留ちゃん。生首の効率良い倒し方ってある?」
「ええと。一言で言えば、なんでも効きます」
「弱点だらけ?」
「はい。朝日は勿論、聖水、物理攻撃や属性攻撃全部。捕縛も可能です。動きもやや鈍いので、統率とれてなければ一般人の方でも倒せます」
「集団行動が怖いタイプか」
「そうですね。噛みつかれると吸血されますし、一斉に群がって来られたらすぐに出血死かと」
「全体攻撃がほしいところだなぁ~」
うーんと唸りながら、近づく吸血鬼をしっかり殴り倒していると、津賀留がリアンウォッチの操作を終えた。
「息吹戸さん。現場の位置を発信したので、近くにいるカミナシが応援にくると思います」
「ナイス!」
そう叫んで息吹戸はジャンプした。
そして吸血鬼の頭部を踏みながらジャンプ、そしてまた吸血鬼の頭部を踏むを数回繰り返し、この並木通りで一番高い木を目指した。
(ボスってのは大体、少し離れて全体を見渡せる位置に居るのがセオリーよね。この場所で高い木はあそこだから……)
チョンチョンチョンチョン
木に向かって高くジャンプした瞬間、十匹ほどの吸血鬼が螺旋状にやって来た。
(わぁ。空中戦。どうすればいいんだろう?)
先頭の顔を蹴って距離を取るが、次がすぐに迫ってくるのでこれも蹴る。
不安定にならないようバランスを取るが、四方八方から飛んでくるので津賀留を抱えていると、もどかしく感じる。
(これじゃマズイな!)
そもそも、人間は空を飛ぶ様になっていない。
寧ろ、飛ぶ生首を踏みつけながらよく空中散歩を保っていられるな、と自分自身に感心する。
ボスを探すのを諦めた息吹戸は吸血鬼の隙間をみつけて地面に降り立った。
それを追うように十数体の吸血鬼が耳を羽ばたかせて垂直に降りてくる。
(全体攻撃がほしい! でもまずは鏡で防御しないと。あ! そうだ! 大きな鏡で攻撃を受け止めてから鏡で殴っちゃえ!)
攻撃方針が決まったところで津賀留を降ろし、鏡を出そうとイメージした。
(あと少し引きつけて……)
「行け」
低い男性の声が聞こえると、パノラマ一杯に広がっていた吸血鬼たちが大量の水に飲まれた。
声を発することもなく水圧の衝撃で顔面が破裂していく。
驚いて「あ!」と声を出すと、「あれ! あそこ!」と津賀留が並木道の向こう側を示す。
そこに男性が一人立っていた。
二十代後半のスーツ姿の男性で黒髪でハーフアップバングの髪型。背の高いがっしりした身体つきの人物で、端正な彫りの深い顔をしていた。眉目秀麗といって間違いないだろう。
漂う雰囲気が冷たく感じる。触ると拒絶されそうな印象だ。
(ん? なんかどっかで見た事あるような? どこだっけ? えー、覚えてないやー)
彼は満身創痍の小鳥を担いで車で病院に運んだ人物だったが、息吹戸の記憶には留まっていなかった。
「あれが東護さんです」
津賀留が本人に気づかれないように指さしをする。
「わぁ。モデルみたい。…………カミナシは顔の偏差値が高い人が入社するの?」
数人会っただけだが、見た眼麗しい人達が揃っている気がする。
唐突に放たれた場違いな感想に、そんなこと考えたこともない津賀留は「え? そう、かもしれない、ですね」と口ごもった。
「いやぁでも、助かったわ」
息吹戸が夜空を見上げると、水流が空を駆け巡っていく。
水流に飲まれ、穴が開いた生首がぼとぼと落ちてきて沢山ころころ転がっていく。どれも絶命しておりピクリともしない。
ごとん。
息吹戸の目の前に、少し大きな吸血鬼が転がった。
その吸血鬼は肌を白く塗っており目元に太いアイライン。口元にへの字の紅が引かれ、まるで歌舞伎役者だ。
「これがキングです」
津賀留が指し示すと、息吹戸はふふっと笑った。
(鏡の能力が役に立つとは思えないなぁ)
光ぐらいなら出せるかもしれないが、太陽光でなければ倒せるイメージが無い。
そもそも吸血鬼系は弱点が多様であって一定しない。物語の数だけ個性があり、一般的な弱点が効くものもいれば、個性的な弱点を備えていたり、最近は弱点がない無敵もいたりする。
人気が高いからと言えばそれまでだけども。
(ここでの倒し方は……津賀留ちゃんに聞こう)
「津賀留ちゃん。生首の効率良い倒し方ってある?」
「ええと。一言で言えば、なんでも効きます」
「弱点だらけ?」
「はい。朝日は勿論、聖水、物理攻撃や属性攻撃全部。捕縛も可能です。動きもやや鈍いので、統率とれてなければ一般人の方でも倒せます」
「集団行動が怖いタイプか」
「そうですね。噛みつかれると吸血されますし、一斉に群がって来られたらすぐに出血死かと」
「全体攻撃がほしいところだなぁ~」
うーんと唸りながら、近づく吸血鬼をしっかり殴り倒していると、津賀留がリアンウォッチの操作を終えた。
「息吹戸さん。現場の位置を発信したので、近くにいるカミナシが応援にくると思います」
「ナイス!」
そう叫んで息吹戸はジャンプした。
そして吸血鬼の頭部を踏みながらジャンプ、そしてまた吸血鬼の頭部を踏むを数回繰り返し、この並木通りで一番高い木を目指した。
(ボスってのは大体、少し離れて全体を見渡せる位置に居るのがセオリーよね。この場所で高い木はあそこだから……)
チョンチョンチョンチョン
木に向かって高くジャンプした瞬間、十匹ほどの吸血鬼が螺旋状にやって来た。
(わぁ。空中戦。どうすればいいんだろう?)
先頭の顔を蹴って距離を取るが、次がすぐに迫ってくるのでこれも蹴る。
不安定にならないようバランスを取るが、四方八方から飛んでくるので津賀留を抱えていると、もどかしく感じる。
(これじゃマズイな!)
そもそも、人間は空を飛ぶ様になっていない。
寧ろ、飛ぶ生首を踏みつけながらよく空中散歩を保っていられるな、と自分自身に感心する。
ボスを探すのを諦めた息吹戸は吸血鬼の隙間をみつけて地面に降り立った。
それを追うように十数体の吸血鬼が耳を羽ばたかせて垂直に降りてくる。
(全体攻撃がほしい! でもまずは鏡で防御しないと。あ! そうだ! 大きな鏡で攻撃を受け止めてから鏡で殴っちゃえ!)
攻撃方針が決まったところで津賀留を降ろし、鏡を出そうとイメージした。
(あと少し引きつけて……)
「行け」
低い男性の声が聞こえると、パノラマ一杯に広がっていた吸血鬼たちが大量の水に飲まれた。
声を発することもなく水圧の衝撃で顔面が破裂していく。
驚いて「あ!」と声を出すと、「あれ! あそこ!」と津賀留が並木道の向こう側を示す。
そこに男性が一人立っていた。
二十代後半のスーツ姿の男性で黒髪でハーフアップバングの髪型。背の高いがっしりした身体つきの人物で、端正な彫りの深い顔をしていた。眉目秀麗といって間違いないだろう。
漂う雰囲気が冷たく感じる。触ると拒絶されそうな印象だ。
(ん? なんかどっかで見た事あるような? どこだっけ? えー、覚えてないやー)
彼は満身創痍の小鳥を担いで車で病院に運んだ人物だったが、息吹戸の記憶には留まっていなかった。
「あれが東護さんです」
津賀留が本人に気づかれないように指さしをする。
「わぁ。モデルみたい。…………カミナシは顔の偏差値が高い人が入社するの?」
数人会っただけだが、見た眼麗しい人達が揃っている気がする。
唐突に放たれた場違いな感想に、そんなこと考えたこともない津賀留は「え? そう、かもしれない、ですね」と口ごもった。
「いやぁでも、助かったわ」
息吹戸が夜空を見上げると、水流が空を駆け巡っていく。
水流に飲まれ、穴が開いた生首がぼとぼと落ちてきて沢山ころころ転がっていく。どれも絶命しておりピクリともしない。
ごとん。
息吹戸の目の前に、少し大きな吸血鬼が転がった。
その吸血鬼は肌を白く塗っており目元に太いアイライン。口元にへの字の紅が引かれ、まるで歌舞伎役者だ。
「これがキングです」
津賀留が指し示すと、息吹戸はふふっと笑った。
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