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第一章 馴染むところから始めます
30.人気討伐案件
しおりを挟む何事も使って覚えるのが一番だと、息吹戸はリアンウォッチを操作して、玉谷にCALL出来た。
『玉谷だ。なにかあったか』
「生首が空を飛んでました!」
正気値を疑われる発言をしてしまった。と一瞬焦ったが、玉谷はとても冷静だった。
『異形の吸血鬼か。人員を二人増やす。息吹戸、すまないが今日の休日返上だ。津賀留に連絡を取り連携して可能な限り討伐するように』
「分かりました」
ぷつっと切れた。上手く連絡できたとホッと胸をなでおろす。
「連絡取れたよ。討伐してくれってさ」
「ご苦労様です。ところでこの吸血鬼の傷。息吹戸さんがやったんですか?」
頭部……腹部に風穴があいている。
「うん、反射的に殴っちゃって。そしたら死んだ」
「ああ……」
と津賀留は納得した様に声を出した。彼女の攻撃力は軽いジョブでも大変強い。この程度の吸血鬼なら、胴体に穴が開くのは当然だろう。
津賀留はそっと吸血鬼の死体を置く。放置しても問題はないので、日が昇って自然消滅させるのが手っ取り早い。首と胴体が離れた時点で人間としてはもう死んでいる。
実はこのような異形の吸血鬼は見つけ次第殺傷して良いタイプだから、サックリ倒せてストレス解消とカミナシで人気がある。
「では探しましょうか」
「どうやって探すの?」
「聞き耳、ですかね。こいつらはチョンチョン鳴きながら、飛んでますから」
「鳴き声……」
「かなり怪しいのですぐ分かるかと。病人を襲うので病院へ行ってみましょう。私がさっき行ってきた病院が一番近いです。まずはあそこから」
「移動手段はどうする?」
「歩いていきましょう」
了解。と答えながら、あんまり遠くないんだなと息吹戸は思った。
病院までの道中で二体の異形の吸血鬼を見かけた。息吹戸はジャンプ力が凄まじく垂直五メートルは優に超える。
ってことで、一回のジャンプ、及び一撃で吸血鬼を沈めることが出来た。
(確かに。耳障りな鳴き声と大きな羽ばたき音が聞こえてる)
蝙蝠とは思えないほど偲ばないスタイルだ。
「ところでさぁ」
病院から一直線に向かう並木道に差し掛かって、息吹戸が空を見上げながら問いかける。
等間隔に街灯があるが、木々の周りにはあまり設置されていない。チョンチョンな鳴き声が不協和音のコーラス音になり、夜道に不気味に響く。
「これ、全部だよね?」
「ええ。そう、ですね」
津賀留も驚いて木々を眺める。
枝は折れそうなほどしなっており、鈴なりに吸血鬼が止まっている。頭部の目がギラギラと光っており、牙が生えた口をガチガチ鳴らし威嚇している。その数ざっと六十匹ほど。
「もしかして、病院内で院内感染でもおこったのかも」
「院内感染」
これほどミスマッチな言葉もないな。と息吹戸は苦笑いを浮かべた。
「ギャギャギャギャ!」
一際甲高い声が響くと吸血鬼が一斉に羽ばたき、空中を旋回すると次々と二人に襲い掛かってきた。息吹戸は片腕で津賀留の腰を持ちあげて、くるくるダンスするように噛みつく攻撃をかわす。
「あれあれ? 病人しか襲わないはずでは?」
「そうですけど! 統率とれてますから、おそらくキングかクイーンがいると思います」
「頭ね。何か特徴がある?」
「化粧しています!」
「化粧……」
思わずこけそうになった。
「顔に派手な化粧。アイシャドウとかマスカラとか、見たらわかります!」
「そうなのね」
あんまり見たくないと思いつつも、分かりやすいならそれに越したことはない。
(とはいえ、暗いから見えにくいのよねー)
「キングかクイーン倒せば、この統率された動きはなくなるの?」
「はい。そしてバラバラに逃げてしまうかと」
「なら、それは後回しの方がいいかな」
「そうかもしれません」
と津賀留は答える。
「でも、これも吸血鬼。噛まれると即座に吸血され感染する恐れがあるので、集団は脅威になります」
「それもそっか」
左ジョブで確実に仕留めながら頷く。
大きいので殴りやすいが、自分や津賀留の体にかすり傷一つもつけずに、全部の個体を倒すのは案外難しい。
(さて、どうしようかな)
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