上 下
30 / 33
第一章 馴染むところから始めます

30.人気討伐案件

しおりを挟む
 
 何事も使って覚えるのが一番だと、息吹戸いぶきどはリアンウォッチを操作して、玉谷たまやにCALL出来た。

玉谷たまやだ。なにかあったか』

「生首が空を飛んでました!」

 正気値san値を疑われる発言をしてしまった。と一瞬焦ったが、玉谷たまやはとても冷静だった。

異形の吸血鬼チョンチョンか。人員を二人増やす。息吹戸いぶきど、すまないが今日の休日返上だ。津賀留つがるに連絡を取り連携して可能な限り討伐するように』

「分かりました」

 ぷつっと切れた。上手く連絡できたとホッと胸をなでおろす。

「連絡取れたよ。討伐してくれってさ」

「ご苦労様です。ところでこの吸血鬼の傷。息吹戸いぶきどさんがやったんですか?」

 頭部……腹部に風穴があいている。

「うん、反射的に殴っちゃって。そしたら死んだ」

「ああ……」

 と津賀留つがるは納得した様に声を出した。彼女の攻撃力は軽いジョブでも大変強い。この程度の吸血鬼なら、胴体に穴が開くのは当然だろう。

 津賀留つがるはそっと吸血鬼チョンチョンの死体を置く。放置しても問題はないので、日が昇って自然消滅させるのが手っ取り早い。首と胴体が離れた時点で人間としてはもう死んでいる。

 実はこのような異形の吸血鬼チョンチョンは見つけ次第殺傷して良いタイプだから、サックリ倒せてストレス解消とカミナシで人気がある。

「では探しましょうか」

「どうやって探すの?」

「聞き耳、ですかね。こいつらはチョンチョン鳴きながら、飛んでますから」

「鳴き声……」

「かなり怪しいのですぐ分かるかと。病人を襲うので病院へ行ってみましょう。私がさっき行ってきた病院が一番近いです。まずはあそこから」

「移動手段はどうする?」

「歩いていきましょう」

 了解。と答えながら、あんまり遠くないんだなと息吹戸いぶきどは思った。





 病院までの道中で二体の異形の吸血鬼チョンチョンを見かけた。息吹戸いぶきどはジャンプ力が凄まじく垂直五メートルは優に超える。
 ってことで、一回のジャンプ、及び一撃で吸血鬼チョンチョンを沈めることが出来た。

(確かに。耳障りな鳴き声と大きな羽ばたき音が聞こえてる)

 蝙蝠とは思えないほど偲ばないスタイルだ。

「ところでさぁ」

 病院から一直線に向かう並木道に差し掛かって、息吹戸いぶきどが空を見上げながら問いかける。
 等間隔に街灯があるが、木々の周りにはあまり設置されていない。チョンチョンな鳴き声が不協和音のコーラス音になり、夜道に不気味に響く。

「これ、全部だよね?」

「ええ。そう、ですね」

 津賀留つがるも驚いて木々を眺める。

 枝は折れそうなほどしなっており、鈴なりに吸血鬼チョンチョンが止まっている。頭部の目がギラギラと光っており、牙が生えた口をガチガチ鳴らし威嚇している。その数ざっと六十匹ほど。

「もしかして、病院内で院内感染でもおこったのかも」

「院内感染」

 これほどミスマッチな言葉もないな。と息吹戸いぶきどは苦笑いを浮かべた。

「ギャギャギャギャ!」

 一際甲高い声が響くと吸血鬼チョンチョンが一斉に羽ばたき、空中を旋回すると次々と二人に襲い掛かってきた。息吹戸いぶきどは片腕で津賀留つがるの腰を持ちあげて、くるくるダンスするように噛みつく攻撃をかわす。

「あれあれ? 病人しか襲わないはずでは?」

「そうですけど! 統率とれてますから、おそらくキングかクイーンがいると思います」

「頭ね。何か特徴がある?」

「化粧しています!」

「化粧……」

 思わずこけそうになった。

「顔に派手な化粧。アイシャドウとかマスカラとか、見たらわかります!」

「そうなのね」

 あんまり見たくないと思いつつも、分かりやすいならそれに越したことはない。

(とはいえ、暗いから見えにくいのよねー)

「キングかクイーン倒せば、この統率された動きはなくなるの?」

「はい。そしてバラバラに逃げてしまうかと」

「なら、それは後回しの方がいいかな」

「そうかもしれません」

 と津賀留つがるは答える。

「でも、これも吸血鬼。噛まれると即座に吸血され感染する恐れがあるので、集団は脅威になります」

「それもそっか」

 左ジョブで確実に仕留めながら頷く。
 大きいので殴りやすいが、自分や津賀留つがるの体にかすり傷一つもつけずに、全部の個体を倒すのは案外難しい。

(さて、どうしようかな)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

妻は異世界人で異世界一位のギルドマスターで世紀末覇王!~けど、ドキドキするのは何故だろう~

udonlevel2
ファンタジー
ブラック会社を辞めて親と一緒に田舎に引っ越して生きたカズマ! そこには異世界への鏡が納屋の中にあって……異世界に憧れたけど封印することにする!! しかし、異世界の扉はあちらの世界にもあって!? 突如現れた世紀末王者の風貌の筋肉女子マリリン!! マリリンの一途な愛情にカズマは――!? 他サイトにも掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...