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第一章 馴染むところから始めます
29.羽ばたく生首
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ピーピー!
ベランダから洗濯終了のお知らせが鳴る。息吹戸は「あ」と声をあげて立ち上がった。
「洗濯機済んだみたい。ちょっと服を干すから待ってて」
「え!? は、はい」
洗濯機を回しているとは!? と驚く津賀留をよそに、息吹戸はゴミを避けながらベランダの窓へ向かう。
窓を開けて、砂で黒く汚れた屋外スリッパを履いてバルコニーに降り、横に設置されている洗濯機の蓋を開ける。
脱水した衣服を取り出そうとして
バサバサ。
羽ばたき音が真横で聞こえた。外壁の手すりに何か留まった気がする。
(こんな夜中に鳥?)
顔を左に動かして手すりをみる。
鳥かと思っていたその物体は、体全体が人間の頭部の形状をしており、異様に大きな耳が翼のように広がっている。
つまり、耳の大きな生首だ。
「きゃああああああああああああああああああ!」
驚きと気持ち悪さで反射的に叫びながら、鋭い右ストレートを生首にぶちかます。
拳が生首の鼻と口にヒット。
鼻がへしゃぎ、牙が数個もぎ取られ宙を舞うのがスローモーションで確認できた。
途端に顔が凹んで反対側にボンと破裂し、血しぶきをあげた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」
間髪入れず二度目の悲鳴。
まさか穴が開くとは思わなかった的な、殺ってしまったという絶叫だった。
前回の悲鳴から五秒ほどしか間があいておらず、通常の耳では長い一つの悲鳴として捉えられただろう。
血相を変えた津賀留が、急いでベランダに駆け寄り息吹戸に声をかける。
「どうしました!?」
息吹戸は自身の右手を触りながら、真っ青な顔で振り返った。
「生首が、手すりに止まっていた」
「生首が!?」
津賀留は靴下のままベランダに降りて手すりの向こうを確認する。
暗くて見えにくいが、確かに何かが落ちているのが確認できた。
「降りて確認します!」
津賀留が急いで玄関へ向かうので、息吹戸もその後を追った。
ベランダの裏手へ行くと、胴体、というか、顔面を破壊された生首がコンクリートに転がっていた。
険しい表情をした津賀留は持っていたビニール手袋をはめて生首を持ちあげる。
「これは……異形の吸血鬼ですね」
「チョンチョン?」
「ええ。人間の頭部をもち、耳を翼として空を飛ぶ生首で、夜行性の吸血鬼です」
「ああ。チョンチョンね」
息吹戸の脳裏に南米産のヴァンパイアが浮かぶ。
翼をはためかせて夜空を飛び回る。のは西洋の吸血蝙蝠と類似点があるが。
チョンチョンの外見はそれとは異様な姿をしている。
体全体が人間の頭部を形成し、異様に大きな耳で空を飛んでいるのが特徴だ。
夜間、病人のいる家の周囲を飛び回り、怪しい鳴き声を発するという。
鳴き声は病人が死ぬ前兆と捉えられ、病人の魂とチョンチョンが格闘している証だと考えらている。
チョンチョンが勝利すると病人の体に入り込み、血を吸うと考えられていた。
一説には、彼らは人間の魔法使いとも言われており、チョンチョンの秘密を知ると頭部を体から分離させて飛べるようになるとか。
そこまで考えていると、津賀留が眉をひそめた。
「これはアスマイドの禍神が持ってきた伝染病の一種で、主に病人を襲います」
「え? 伝染病なの?」
どうみても、病気とかけ離れている。
(うーん。この世界に出てくる侵略者って、どう考えても神話の生物だよねえ。まあ、モンスターって言ったほうが早いだろうけど)
「そうです……でもその説明は後で」
津賀留は言葉を濁した。
天路国における病気概念は呪いによる遺伝子変異も含まれている。それを説明すると長くなるので、追々話すことにした。
「吸血鬼の討伐はカミナシの管轄です。すぐに連絡をして吸血鬼が飛んでいないか見回ってみましょう。この付近で首のない死体があると思います」
「分かった」
「連絡の仕方は分かりますか?」
「やってみる!」
と息吹戸は意気揚々に答えた。
ベランダから洗濯終了のお知らせが鳴る。息吹戸は「あ」と声をあげて立ち上がった。
「洗濯機済んだみたい。ちょっと服を干すから待ってて」
「え!? は、はい」
洗濯機を回しているとは!? と驚く津賀留をよそに、息吹戸はゴミを避けながらベランダの窓へ向かう。
窓を開けて、砂で黒く汚れた屋外スリッパを履いてバルコニーに降り、横に設置されている洗濯機の蓋を開ける。
脱水した衣服を取り出そうとして
バサバサ。
羽ばたき音が真横で聞こえた。外壁の手すりに何か留まった気がする。
(こんな夜中に鳥?)
顔を左に動かして手すりをみる。
鳥かと思っていたその物体は、体全体が人間の頭部の形状をしており、異様に大きな耳が翼のように広がっている。
つまり、耳の大きな生首だ。
「きゃああああああああああああああああああ!」
驚きと気持ち悪さで反射的に叫びながら、鋭い右ストレートを生首にぶちかます。
拳が生首の鼻と口にヒット。
鼻がへしゃぎ、牙が数個もぎ取られ宙を舞うのがスローモーションで確認できた。
途端に顔が凹んで反対側にボンと破裂し、血しぶきをあげた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」
間髪入れず二度目の悲鳴。
まさか穴が開くとは思わなかった的な、殺ってしまったという絶叫だった。
前回の悲鳴から五秒ほどしか間があいておらず、通常の耳では長い一つの悲鳴として捉えられただろう。
血相を変えた津賀留が、急いでベランダに駆け寄り息吹戸に声をかける。
「どうしました!?」
息吹戸は自身の右手を触りながら、真っ青な顔で振り返った。
「生首が、手すりに止まっていた」
「生首が!?」
津賀留は靴下のままベランダに降りて手すりの向こうを確認する。
暗くて見えにくいが、確かに何かが落ちているのが確認できた。
「降りて確認します!」
津賀留が急いで玄関へ向かうので、息吹戸もその後を追った。
ベランダの裏手へ行くと、胴体、というか、顔面を破壊された生首がコンクリートに転がっていた。
険しい表情をした津賀留は持っていたビニール手袋をはめて生首を持ちあげる。
「これは……異形の吸血鬼ですね」
「チョンチョン?」
「ええ。人間の頭部をもち、耳を翼として空を飛ぶ生首で、夜行性の吸血鬼です」
「ああ。チョンチョンね」
息吹戸の脳裏に南米産のヴァンパイアが浮かぶ。
翼をはためかせて夜空を飛び回る。のは西洋の吸血蝙蝠と類似点があるが。
チョンチョンの外見はそれとは異様な姿をしている。
体全体が人間の頭部を形成し、異様に大きな耳で空を飛んでいるのが特徴だ。
夜間、病人のいる家の周囲を飛び回り、怪しい鳴き声を発するという。
鳴き声は病人が死ぬ前兆と捉えられ、病人の魂とチョンチョンが格闘している証だと考えらている。
チョンチョンが勝利すると病人の体に入り込み、血を吸うと考えられていた。
一説には、彼らは人間の魔法使いとも言われており、チョンチョンの秘密を知ると頭部を体から分離させて飛べるようになるとか。
そこまで考えていると、津賀留が眉をひそめた。
「これはアスマイドの禍神が持ってきた伝染病の一種で、主に病人を襲います」
「え? 伝染病なの?」
どうみても、病気とかけ離れている。
(うーん。この世界に出てくる侵略者って、どう考えても神話の生物だよねえ。まあ、モンスターって言ったほうが早いだろうけど)
「そうです……でもその説明は後で」
津賀留は言葉を濁した。
天路国における病気概念は呪いによる遺伝子変異も含まれている。それを説明すると長くなるので、追々話すことにした。
「吸血鬼の討伐はカミナシの管轄です。すぐに連絡をして吸血鬼が飛んでいないか見回ってみましょう。この付近で首のない死体があると思います」
「分かった」
「連絡の仕方は分かりますか?」
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