おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

文字の大きさ
上 下
28 / 33
第一章 馴染むところから始めます

28.私は貴女の傍にいる

しおりを挟む
(ほんとうに、あの息吹戸《いぶきど》さんなんだろうか? こうしてみると別人みたい)

 津賀留つがるの脳裏に、初めて息吹戸いぶきどに会った日が蘇る。

 第一印象は怖い人だった。
 話は聞いてくれるが基本は無口。必要以上に喋る事も、交流を深めることもしなかった。
 津賀留つがるの力が戦闘に不向きな力だと知った彼女の第一声が、『使えない』だったのをよく覚えている。
 反論は出来ない。その言葉通り、確かにお荷物だった。
 戦闘時に使える能力だが、自身の身を守ることは出来ない。
 自分の身を守れないのであれば、死にに行くようなものだ、と苦言を呈する事も多かった。

 戦闘のたびに他者の負担になり、結果、足を引っ張ってしまう津賀留つがるは能力を重宝する一方で、その扱いに困っていた。

 たらい回しの中、玉谷たまやの指令で相棒コンビを引き受けたのが息吹戸いぶきどだ。

『構いません。肝が据わっているなら問題ない。一番困るのは、任務途中で我が身可愛さに逃走することですから』

 決して快くではなかったが役立つ気があるなら。と、行動を共にするようになったのは一年前くらいからだ。

 事あるごとに、『お荷物』『足手まとい』『でしゃばるな』『何もできない』『勝手に動くな』と罵声が飛び、扱いも乱雑で冷徹だった。

『足手まといと自覚するなら、考えて動け』

『クズでノロマだと自覚しているならどうにかしろ。やろうと思えば多少なりとも変化が出るだろう? 甘えるな』

『私に何も期待しなくていい。私もあんたに期待していない』

 しかし。口や態度は冷たくても息吹戸いぶきどはただの一度も津賀留つがるを見捨てようとしなかった。
 足り無いと感じた知識は覚えるまで叩き込まされたし、任務に関わる内容は暗唱できるまで繰り返させた。

『自分の頭で考えて答えを出せ。そして戦場の局面を把握し、常に先手を目指すようにしろ。それが私の役に立つということだ』

 常にその言葉を口にしていた。

『相手の裏をかけないとこうなる。わかったか? 命拾いして良かったな』

 失敗した時も、苦戦した時も、自分の命が危うくなる場面でも、必ず助けてくれた。

『理由? 部長の命令の他に何がある』

 そう淡々と言い放つ後姿は、触れるなと常に拒絶していた。
 だけど、時々触れる手は暖かいと感じることもあった。その暖かさをもっと欲しいと思った。

 だから今回こそ彼女の役に立つため、行方不明になった小鳥の足取りを必死になって追った。
 彼は禍神まがかみ降臨の情報を掴んでいた。それは息吹戸いぶきどに渡されるはずの天路あまじ国滅亡レベルの案件だったが、彼はその情報を持ったまま行方不明になってしまった。

 計画の中枢に手を突っ込めたのは良かったが、身バレしてしまった上、生贄の条件に当てはまってしまった。
 死を恐れた状況で思い浮かんだのは、息吹戸いぶきどの顔や言葉だった。
 結局私は、何も出来なかった。
 勝手に動いて、ヘマして捕まって……。
 最後にもう一度逢いたい。
 そう願っていたら
 

『あ、これだ! 妹分だ! 津賀留つがるちゃんだよね?』

 
(記憶を失くしても、私を助けてくれた)

 自惚れでないなら津賀留つがるに価値を見出しているのだろう。
 その期待に応えたい。

(今度は私が息吹戸いぶきどさんの為に、出来ることは全部しなきゃ。彼女の役に立つために)

 決意を新たにして息吹戸いぶきどを真っ直ぐ見つめると、彼女は柔らかく微笑む。こんな表情が出来るんだと見惚れた。頬が熱くなる。

 「あ、あと」と、どもりながら言葉を続ける。
 これがあるから息吹戸いぶきどとコンビを組むことになったと容易に想像がついている。

「『出目の引きの良さ』ですかね?」

「なにそれ?」

 息吹戸いぶきどのリアクションで、やっぱり忘れてるんだ。と苦笑いを浮かべる。

「不本意ですが、その、私が関わると事件が動くそうで。気が付くと、大きい事件の核心に巻き込まれてしまっています。同僚からは『トラブル探知機』と言われています」

 普通に捜査をしていくうちに、気が付くと、事件の黒幕とかに深く関わってしまい、命の危険が常にあるということだと、津賀留つがるはため息交じりに付け加えた。

「なるほど」と息吹戸いぶきどは頷く。

「普通にしていても従僕じゅうぼくに出会うというか、妙なトラブルに巻き込まれることが多くて。皆さんに大変ご迷惑おかけしています」

「いい人材じゃない? 引きの良さって重要だよ」

 同じ調査をしていても目星が当たっていないと解決に至らないことだってある。そう考えると、カミナシに所属した津賀留つがるは天職に当たったといっても過言ではないだろう。

「まぁ、そうなんですが。攻撃方法が全くないんで。その、基本的にお荷物で……」

「いいんじゃない? 出来ない事は他の人に任せれば。津賀留つがるちゃんの能力は重宝されるよ。津賀留つがるちゃんが出来ないことは、私がなんとかすればいいんだし。そのための相棒コンビでしょ?」

 津賀留つがるは吃驚して言葉を失う。
 初めて言われた言葉に感動して目じりに少し涙が浮かんだ。はい。と小さく返事をしながら指で涙をなぞった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。 最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。 千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた! そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……! 7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕! コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,) カクヨムにて先行連載中!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...