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第一章 馴染むところから始めます
28.私は貴女の傍にいる
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(ほんとうに、あの息吹戸《いぶきど》さんなんだろうか? こうしてみると別人みたい)
津賀留の脳裏に、初めて息吹戸に会った日が蘇る。
第一印象は怖い人だった。
話は聞いてくれるが基本は無口。必要以上に喋る事も、交流を深めることもしなかった。
津賀留の力が戦闘に不向きな力だと知った彼女の第一声が、『使えない』だったのをよく覚えている。
反論は出来ない。その言葉通り、確かにお荷物だった。
戦闘時に使える能力だが、自身の身を守ることは出来ない。
自分の身を守れないのであれば、死にに行くようなものだ、と苦言を呈する事も多かった。
戦闘のたびに他者の負担になり、結果、足を引っ張ってしまう津賀留は能力を重宝する一方で、その扱いに困っていた。
たらい回しの中、玉谷の指令で相棒を引き受けたのが息吹戸だ。
『構いません。肝が据わっているなら問題ない。一番困るのは、任務途中で我が身可愛さに逃走することですから』
決して快くではなかったが役立つ気があるなら。と、行動を共にするようになったのは一年前くらいからだ。
事あるごとに、『お荷物』『足手まとい』『でしゃばるな』『何もできない』『勝手に動くな』と罵声が飛び、扱いも乱雑で冷徹だった。
『足手まといと自覚するなら、考えて動け』
『クズでノロマだと自覚しているならどうにかしろ。やろうと思えば多少なりとも変化が出るだろう? 甘えるな』
『私に何も期待しなくていい。私もあんたに期待していない』
しかし。口や態度は冷たくても息吹戸はただの一度も津賀留を見捨てようとしなかった。
足り無いと感じた知識は覚えるまで叩き込まされたし、任務に関わる内容は暗唱できるまで繰り返させた。
『自分の頭で考えて答えを出せ。そして戦場の局面を把握し、常に先手を目指すようにしろ。それが私の役に立つということだ』
常にその言葉を口にしていた。
『相手の裏をかけないとこうなる。わかったか? 命拾いして良かったな』
失敗した時も、苦戦した時も、自分の命が危うくなる場面でも、必ず助けてくれた。
『理由? 部長の命令の他に何がある』
そう淡々と言い放つ後姿は、触れるなと常に拒絶していた。
だけど、時々触れる手は暖かいと感じることもあった。その暖かさをもっと欲しいと思った。
だから今回こそ彼女の役に立つため、行方不明になった小鳥の足取りを必死になって追った。
彼は禍神降臨の情報を掴んでいた。それは息吹戸に渡されるはずの天路国滅亡レベルの案件だったが、彼はその情報を持ったまま行方不明になってしまった。
計画の中枢に手を突っ込めたのは良かったが、身バレしてしまった上、生贄の条件に当てはまってしまった。
死を恐れた状況で思い浮かんだのは、息吹戸の顔や言葉だった。
結局私は、何も出来なかった。
勝手に動いて、ヘマして捕まって……。
最後にもう一度逢いたい。
そう願っていたら
『あ、これだ! 妹分だ! 津賀留ちゃんだよね?』
(記憶を失くしても、私を助けてくれた)
自惚れでないなら津賀留に価値を見出しているのだろう。
その期待に応えたい。
(今度は私が息吹戸さんの為に、出来ることは全部しなきゃ。彼女の役に立つために)
決意を新たにして息吹戸を真っ直ぐ見つめると、彼女は柔らかく微笑む。こんな表情が出来るんだと見惚れた。頬が熱くなる。
「あ、あと」と、どもりながら言葉を続ける。
これがあるから息吹戸とコンビを組むことになったと容易に想像がついている。
「『出目の引きの良さ』ですかね?」
「なにそれ?」
息吹戸のリアクションで、やっぱり忘れてるんだ。と苦笑いを浮かべる。
「不本意ですが、その、私が関わると事件が動くそうで。気が付くと、大きい事件の核心に巻き込まれてしまっています。同僚からは『トラブル探知機』と言われています」
普通に捜査をしていくうちに、気が付くと、事件の黒幕とかに深く関わってしまい、命の危険が常にあるということだと、津賀留はため息交じりに付け加えた。
「なるほど」と息吹戸は頷く。
「普通にしていても従僕に出会うというか、妙なトラブルに巻き込まれることが多くて。皆さんに大変ご迷惑おかけしています」
「いい人材じゃない? 引きの良さって重要だよ」
同じ調査をしていても目星が当たっていないと解決に至らないことだってある。そう考えると、カミナシに所属した津賀留は天職に当たったといっても過言ではないだろう。
「まぁ、そうなんですが。攻撃方法が全くないんで。その、基本的にお荷物で……」
「いいんじゃない? 出来ない事は他の人に任せれば。津賀留ちゃんの能力は重宝されるよ。津賀留ちゃんが出来ないことは、私がなんとかすればいいんだし。そのための相棒でしょ?」
津賀留は吃驚して言葉を失う。
初めて言われた言葉に感動して目じりに少し涙が浮かんだ。はい。と小さく返事をしながら指で涙をなぞった。
津賀留の脳裏に、初めて息吹戸に会った日が蘇る。
第一印象は怖い人だった。
話は聞いてくれるが基本は無口。必要以上に喋る事も、交流を深めることもしなかった。
津賀留の力が戦闘に不向きな力だと知った彼女の第一声が、『使えない』だったのをよく覚えている。
反論は出来ない。その言葉通り、確かにお荷物だった。
戦闘時に使える能力だが、自身の身を守ることは出来ない。
自分の身を守れないのであれば、死にに行くようなものだ、と苦言を呈する事も多かった。
戦闘のたびに他者の負担になり、結果、足を引っ張ってしまう津賀留は能力を重宝する一方で、その扱いに困っていた。
たらい回しの中、玉谷の指令で相棒を引き受けたのが息吹戸だ。
『構いません。肝が据わっているなら問題ない。一番困るのは、任務途中で我が身可愛さに逃走することですから』
決して快くではなかったが役立つ気があるなら。と、行動を共にするようになったのは一年前くらいからだ。
事あるごとに、『お荷物』『足手まとい』『でしゃばるな』『何もできない』『勝手に動くな』と罵声が飛び、扱いも乱雑で冷徹だった。
『足手まといと自覚するなら、考えて動け』
『クズでノロマだと自覚しているならどうにかしろ。やろうと思えば多少なりとも変化が出るだろう? 甘えるな』
『私に何も期待しなくていい。私もあんたに期待していない』
しかし。口や態度は冷たくても息吹戸はただの一度も津賀留を見捨てようとしなかった。
足り無いと感じた知識は覚えるまで叩き込まされたし、任務に関わる内容は暗唱できるまで繰り返させた。
『自分の頭で考えて答えを出せ。そして戦場の局面を把握し、常に先手を目指すようにしろ。それが私の役に立つということだ』
常にその言葉を口にしていた。
『相手の裏をかけないとこうなる。わかったか? 命拾いして良かったな』
失敗した時も、苦戦した時も、自分の命が危うくなる場面でも、必ず助けてくれた。
『理由? 部長の命令の他に何がある』
そう淡々と言い放つ後姿は、触れるなと常に拒絶していた。
だけど、時々触れる手は暖かいと感じることもあった。その暖かさをもっと欲しいと思った。
だから今回こそ彼女の役に立つため、行方不明になった小鳥の足取りを必死になって追った。
彼は禍神降臨の情報を掴んでいた。それは息吹戸に渡されるはずの天路国滅亡レベルの案件だったが、彼はその情報を持ったまま行方不明になってしまった。
計画の中枢に手を突っ込めたのは良かったが、身バレしてしまった上、生贄の条件に当てはまってしまった。
死を恐れた状況で思い浮かんだのは、息吹戸の顔や言葉だった。
結局私は、何も出来なかった。
勝手に動いて、ヘマして捕まって……。
最後にもう一度逢いたい。
そう願っていたら
『あ、これだ! 妹分だ! 津賀留ちゃんだよね?』
(記憶を失くしても、私を助けてくれた)
自惚れでないなら津賀留に価値を見出しているのだろう。
その期待に応えたい。
(今度は私が息吹戸さんの為に、出来ることは全部しなきゃ。彼女の役に立つために)
決意を新たにして息吹戸を真っ直ぐ見つめると、彼女は柔らかく微笑む。こんな表情が出来るんだと見惚れた。頬が熱くなる。
「あ、あと」と、どもりながら言葉を続ける。
これがあるから息吹戸とコンビを組むことになったと容易に想像がついている。
「『出目の引きの良さ』ですかね?」
「なにそれ?」
息吹戸のリアクションで、やっぱり忘れてるんだ。と苦笑いを浮かべる。
「不本意ですが、その、私が関わると事件が動くそうで。気が付くと、大きい事件の核心に巻き込まれてしまっています。同僚からは『トラブル探知機』と言われています」
普通に捜査をしていくうちに、気が付くと、事件の黒幕とかに深く関わってしまい、命の危険が常にあるということだと、津賀留はため息交じりに付け加えた。
「なるほど」と息吹戸は頷く。
「普通にしていても従僕に出会うというか、妙なトラブルに巻き込まれることが多くて。皆さんに大変ご迷惑おかけしています」
「いい人材じゃない? 引きの良さって重要だよ」
同じ調査をしていても目星が当たっていないと解決に至らないことだってある。そう考えると、カミナシに所属した津賀留は天職に当たったといっても過言ではないだろう。
「まぁ、そうなんですが。攻撃方法が全くないんで。その、基本的にお荷物で……」
「いいんじゃない? 出来ない事は他の人に任せれば。津賀留ちゃんの能力は重宝されるよ。津賀留ちゃんが出来ないことは、私がなんとかすればいいんだし。そのための相棒でしょ?」
津賀留は吃驚して言葉を失う。
初めて言われた言葉に感動して目じりに少し涙が浮かんだ。はい。と小さく返事をしながら指で涙をなぞった。
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