おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

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第一章 馴染むところから始めます

27.異能にまつわる談話

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 津賀留つがるはとっても不安そうに息吹戸いぶきどを見つめたあと、説明をまとめるために少し黙る。
 第一印象は大事だ。しかしどう説明してもちょっとした悪口になってしまいそうだった。

東護龍弥とうごとうやさんです。討伐対策部第一課のエースで……」

 言葉を濁すと、息吹戸いぶきどが「東護龍弥とうごとうやさん?」と復唱した。
 誰だっけと言わんばかりに「???」を頭に浮かべて腕を組んでいる。
 津賀留つがるは眉間に手を当てて呻いた。

「お忘れですか?」

 信じられないという気持ちが含まれているのを感じて、息吹戸いぶきどは苦笑いを浮かべて頷く。

「うん。誰?」

東護とうごさんは同じ職場の男性で……目立つ方です。兎に角イケメンで。女性にとても人気です。でもこう言っては身も蓋もないですが、性格がちょっと、難ありというか。ええと」

 津賀留つがるはまた言葉を区切った。

「強くて、自分にも他人にも厳しい方です。自分と同じレベルでないと許せないというか。意見の相違を認めないというか……」

津賀留つがるちゃん虐められてるの?」

「いいえ滅相もない! 寧ろ守られています。申し訳ないくらいに!」

 歯切れの悪さに尋ねると、慌てて否定された。
 それならいいけど。と呟く。

「寧ろ、息吹戸いぶきどさんが嫌われているというか。お互いが嫌っているというか」

「そーなの? 分かった」
 
 職場で好かれていないのは明白だ。特に驚く事はないが、津賀留つがるの様子から推測するに、いざこざや衝突する程度はありそうだなと思案する。

 あっさりと頷かれてしまったので津賀留つがるは返答に困った。

「ええと。それで……東護とうごさんは和魂にぎみたまを扱います。最も得意なのは水神の力と聞いています」

「なんと!?」

 ヲタ心をくすぐられた息吹戸いぶきどは気持ち分、前のめりになると、津賀留つがるは吃驚して背中をそらせた。
 一般的備わっている、ありふれた力に食いつきが良いとは予想外だ。

「水神ってことは神霊しんれいを扱える人ってことかー! 凄いねこの世界! 能力も神聖な感じがする!」

 神の子孫なので『神の御魂みたま・神の能力』を使えるとのだと瞬時に理解する。

「なら荒魂あらみたまを扱える人もいるってことだね」

「あ、はい。玉谷たまや部長が荒魂あらみたま和魂にぎみたまの両方と神獣を扱える方です」

「わぁ。魔術系召喚士みたい。部長かっこいいね!」

 若い頃はさぞかし活躍したんだろうなぁと想像して頬を染めると、津賀留つがるは「?」と首を傾げた。

「ええと。そう、ですね。荒魂あらみたま和魂にぎみたまは両方使える方もいれば、どっちかに特出してたりと様々ですが。カミナシ所属の方、八割強は備わっている一般的な能力です」

「式神とかも使える人いる?」

呪具じゅぐを専門に扱う方ですね。勿論いらっしゃいますよ」

「そっかー。式神は呪具じゅぐ扱いになるんだ」

「式神は創られた生命体です。それを何代も使役されていたり、その都度作りだしたりと様々です。神獣を式神にしている方もいるそうですよ」

「神獣ってどんな生き物?」

菩総日ぼそうにち神様から承った神聖な獣です。私はそのあたりは詳しくありませんので、オフィスに置かれている本を読むことをお勧めします。お時間があるときに目を通してみて下さい」

「うん、わかった」

 息吹戸いぶきどはお弁当を片付けてからお茶を飲み、はぁっとため息を吐く。端的に聞いてみても、覚える事は沢山在りそうだ。

(でもまぁ、ヲタ心刺さりまくって凄く楽しい)

 津賀留つがるもお弁当を食べ終え、お茶をゆっくり飲みこんでいる。
 息吹戸いぶきどが「片づけていい?」と空の弁当箱を示すと、彼女は頷いた。一緒に袋に入れて口を縛る。燃えるゴミとして捨てておこう。

「あ。そうだ。私はどんな能力使ってたの?」

息吹戸いぶきどさんは、主に和魂にぎみたまでしょうか。別属性を同時に何体も出現させていました」

「よくある使い方なの?」

 津賀留つがるは慌てたように首を左右に振る。

「とんでもない!? 同時に出現させるなんてよほどのキャパシティと精神力がなければ扱えません! そして無理をする分、寿命も縮みます」

「寿命ねぇ。そんなことよりも任務達成を選ぶタイプなんだ」

「そんなことって!? あ。いえ。その通りだと思います。無計画で動くことありませんが、いざ行動を起こすと敵を倒すことを第一に考えていたようですから」
  
(なんか。そこら辺のこだわりちょっとだけ似てる。私もミッション成功させるためなら無茶しちゃうし)

 初めて親近感が湧いた瞬間だった。
 
「ありがと。じゃぁ最後に。津賀留つがるちゃんはどんな力があるの?」

 津賀留つがるは「ええと、私は……」と少し言い淀んでから、首を左右に振った。

「私は、戦闘に不向きな力です。能力は『底力』です」

 聞き慣れない言葉に息吹戸いぶきどが首を傾げると、津賀留つがるは少し恥ずかしそうに視線をそらした。

「平たくいえば、仲間の身体的能力及び潜在能力を、二倍から三倍に飛躍させる力です」

 津賀留つがるは仲間と認識している者たちの潜在能力をノーリスクで大幅に上昇することが出来る。彼女が意識している間は効力が続き、疲労蓄積も少ないという。

「え! すごいじゃん! 傍に居るだけでパワーアップするってことだよね!」

 目を輝かせて褒める息吹戸いぶきどに、津賀留つがるは何とも言えない表情を浮かべた。
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