おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

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第一章 馴染むところから始めます

26.衣食住にまつわる談話

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「じゃぁ。ごはん食べながらお話伺っても良い?」

「勿論です! そのために来たんですから!」

 津賀留つがるは元気に言うと、何の躊躇いもなくテーブルの横に座り、袋からお弁当を出して置いた。

(次呼ぶ時は、もっとキレイにしなきゃ)

 そう強く決心してから、息吹戸いぶきども彼女の対面に座る。
 津賀留つがるはお茶のペットボトルを出し、紙コップに注ぎ込んだ。

「一応、温めてもらったので。お好きな方をどうぞ」

 生姜焼き弁当と焼肉弁当だ。
 息吹戸いぶきどは生姜焼き弁当を取った。製造元とコンビニ名を確認するが、知らない名前だ。

「差し入れありがとう、頂くね」

 お礼を言うと、津賀留つがるは笑みを浮かべた。



 食事しながら細かく一般常識を訪ねる息吹戸いぶきど。この際、知っている事は全部聞こうと踏んで、彼女を質問攻めにしていた。
 津賀留つがるは嫌な顔一つせず、一つ一つの質問に丁寧に答えていった。

 おかげで、日常生活の決まりごとが頭に入った気がする。
 名称は全く違えども、『私』がいた世界と生活文化の違いや遜色の差が殆どなかった。
 これなら普通に生活できるレベルだ、とほっと胸をなでおろす。

「ほんっとに助かるーーー!」

「はい。他に何か聞きたい事有りますか?」

「えーとね。あとそうそう」

 度重なる質問に答えながら、にこやかな笑顔を浮かべている津賀留つがるは、内心とても驚いていた。

 玉谷たまやから彼女の記憶喪失について聞いていたが、ここまで欠落しているとは思わなかった。

 息吹戸いぶきど一人きりにしておくと、通常生活に支障をきたすのは明白だ。今、ある程度の基本生活知識を教えたので、日常生活はなんとかなるだろうけど、問題は業務。

 万が一にでも、辜忌つみきがこの事に気づいてしまったら。

 これ幸いにと息吹戸いぶきどの暗殺を企てるかもしれない。
 運が悪ければ、言葉巧みに彼女を組織辜忌側に引きずり込むかもしれない。

 玉谷たまやが念を押す意味がしっかり理解できた。
 今の彼女は何が善くて何が悪いか解っていない。

 気を付けないと……。と思いながら、津賀留つがるはたくわんを噛み砕く。

 一方の息吹戸いぶきどは知識を得てまったりしながら、お弁当を堪能していた。

「そっかー。スマホの役割がこの時計ってことなんだねー」

 電子腕時計式タブレット『リアンウォッチ』。
 これ一つで通話やネットは勿論。銀行口座への入金支払い。役所への手続き。更にGPS機能搭載、地図道案内、翻訳、計算などなど。が一つで補える。

 電池は人体の生体エネルギーだ。
 人間の体は微弱ながら電気が流れている。スマホのタッチパネルもその原理を応用しているが、ここではそれ以上に、人体の電流を蓄電として利用しているようだ。
 なので、常に肌に触れていなければ使う事が出来ない。という欠点はあるものの、肌に着ければ即使用できる。つまり充電する必要がない。
 
 カミナシが支給するリアンウォッチは機密事項が満載なため、生存している本人しか扱えない様になっている。
 本人の静脈・指紋・角膜認証に加え一定体温が探知されなければ使用不可能だ。

 カミナシ内部の情報がいつでも引き出せるようになっており、禍神まがかみ従僕じゅうぼくの資料、現在追いかけている事件の詳細もその場で確認できる。

(なんでこれ、忘れてったんだろうこの人)

 ビルにいるとき、これは持っていなかった。

 急いでいたのか、位置を把握されるのを嫌がったのか、という推測しかできない。

息吹戸いぶきどさん。さっきから言っている、スマホってなんですか?」

 津賀留つがるが不思議そうに質問してきた。息吹戸いぶきどは少し苦笑いしてから

「これと似たような物だよ」

 と、リアンウォッチを指し示しつつ答えた。
 スマホはどうやらこの世界に存在していないようである。



息吹戸いぶきどさん、他に聞きたい事有りますか? 私で良ければ教えますよ!」

 ドンと自信満々に胸を張って、目を輝かせながら頼られるのを待っている津賀留つがるを、かわいいなぁと思いながら、カミナシについての業務を簡単に教えてもらうことにした。

 基本は二人一組で業務にあたり、息吹戸いぶきどの現在の相棒は津賀留つがるだと判明する。

「そうだったんだねー。ポンコツになったけどよろしくね」

 「ポンコツだなんてそんな!」と津賀留つがるは前置きをして

「でも息吹戸いぶきどさんが本調子じゃないので、明日以降、東護とうごさんも加えて、三人で業務に当たることになるそうです」

「へぇ。東護とうごさんって誰?」

 知らないので当たり前の様に聞き返すと、案の定、津賀留つがるは困ったように眉を潜めた。
 
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