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第一章 馴染むところから始めます
25.津賀留の訪問
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折り返し操作が分からないし、今を逃すと彼女はもう今日中に電話をかけてこないだろう。
着信をタッチすると、津賀留が『あ!』と嬉しそうに声を出した。
『お疲れ様です息吹戸さん。夜分に電話をかけてすいません。今お時間大丈夫でしょうか?』
「ナイスタイミング津賀留ちゃん! こっちも聞きたい事が山の様にあってね!」
そこまで息吹戸は一息に話すと、「あ。体調はどう?」と今更ながらに聞いてみた。
『はい。今、病院の帰りでして。体に問題なしと診断がでました。先ほど電話で玉谷部長に報告が終わったので、息吹戸さんにもご報告をと思って』
「そっか! 体に異常がないならよかった」
『呪詛を受けたと言っても信じてもらえないほど、何も残っていませんでした。有難うございます息吹戸さん』
「うんうん。よかったよかった!」
『それで。聞きたい事とは何でしょうか?』
「あのね。とても聞きにくいことなんだけど」
と、前置きをすると、津賀留が息を飲んで『はい』と返事をする。
「ゴミの分別方法と、曜日を教えてもらいたいの」
真面目な口調でそう続けたら、津賀留から『はい?』と肩透かしを食らった声が戻ってきた。
津賀留に日常生活が分からないと訴えると、彼女は直接伺いますと言ったので、息吹戸は一瞬焦った。
「あ、あ、でも! でも! 部屋が」
『知ってます! 大丈夫です!』
「でも津賀留ちゃんも帰らないと……」
『同じアパートに住んでるので大丈夫ですよ。では三十分で行きます!』
通話が切れると、空中ディスプレイが閉じる。
「あ、あー……。来るんだ。この部屋に」
息吹戸は腕時計を見て周囲を見渡した。
とりあえず、座れるスペースを作ろうとゴミ袋に入らないゴミを突っ込んだ。
服を集めるが洗濯しているのか脱ぎ捨てたものか判断できない。ベランダを覗くと洗濯機があったので、散らかっている服や下着を突っ込んだ。洗剤も探し出して投入しスイッチを入れる。
「時間は八時だから、まぁギリギリオッケーかな! 一回ぐらい違反しても文句は言われないだろう多分!」
そのまま整理整頓を繰り返し、リビングに座れる空間が見えてきたところで、チャイムが鳴る。
「はいはーい!」
慌てて玄関へ行き、相手も確認せずにドアを開けると津賀留が立っていた。
「いらっしゃい」
「お疲れ様です。これ、お土産です。どうぞ」
袋に入ったコンビニ弁当を差し出されたので両手で受け取った。
「ありがとうー! でも中で食べるのはあまり……」
「大丈夫です! どんな惨状の現場でもしっかり食べれますから!」
ぱぁっと明るい笑顔でそう答えてから
「それで、その、お邪魔してもよろしいでしょうか?」
少し躊躇いがちに、ソワソワしながら訪ねてきた。
仕草が可愛くて息吹戸の胸がきゅんとなる。
「勿論! ほんっっとうに汚いけど、どうぞ入って!」
息吹戸が招くと、津賀留は畏まりながら「お邪魔します」と声をかけて、ゴミまみれの玄関を抜けてリビングに入った。そこで目を丸くして周囲を見渡す。
(そうだよね。そのリアクションするよね)
息吹戸は「あはは」と空笑いして、頭をガリガリ掻いた。
「ごめんねー。本当に」
「凄いです! 座るスペースがあるし、片付いています!」
津賀留は感動した様に叫んで、キョロキョロ見まわす。
「ゴミがゴミ袋にちゃんと入ってる! 凄いですね! 感激しました!」
「お世辞?」
訝し気に息吹戸が問いかけると、津賀留はブンブンと頭を左右に振って見上げる。その目は大変輝いており、血色がよくなって頬に赤みがさしている。
「いえいえ滅相もない! 息吹戸さんのお部屋には何回か入らせてもらってますが、こんなに整っているの、初めてみました!」
「……あ、うん、そうなの」
ゴミをちょっと片づけただけでこの褒め言葉。心底恥ずかしくなって、息吹戸は顔を真っ赤にして津賀留から視線をそらした。
着信をタッチすると、津賀留が『あ!』と嬉しそうに声を出した。
『お疲れ様です息吹戸さん。夜分に電話をかけてすいません。今お時間大丈夫でしょうか?』
「ナイスタイミング津賀留ちゃん! こっちも聞きたい事が山の様にあってね!」
そこまで息吹戸は一息に話すと、「あ。体調はどう?」と今更ながらに聞いてみた。
『はい。今、病院の帰りでして。体に問題なしと診断がでました。先ほど電話で玉谷部長に報告が終わったので、息吹戸さんにもご報告をと思って』
「そっか! 体に異常がないならよかった」
『呪詛を受けたと言っても信じてもらえないほど、何も残っていませんでした。有難うございます息吹戸さん』
「うんうん。よかったよかった!」
『それで。聞きたい事とは何でしょうか?』
「あのね。とても聞きにくいことなんだけど」
と、前置きをすると、津賀留が息を飲んで『はい』と返事をする。
「ゴミの分別方法と、曜日を教えてもらいたいの」
真面目な口調でそう続けたら、津賀留から『はい?』と肩透かしを食らった声が戻ってきた。
津賀留に日常生活が分からないと訴えると、彼女は直接伺いますと言ったので、息吹戸は一瞬焦った。
「あ、あ、でも! でも! 部屋が」
『知ってます! 大丈夫です!』
「でも津賀留ちゃんも帰らないと……」
『同じアパートに住んでるので大丈夫ですよ。では三十分で行きます!』
通話が切れると、空中ディスプレイが閉じる。
「あ、あー……。来るんだ。この部屋に」
息吹戸は腕時計を見て周囲を見渡した。
とりあえず、座れるスペースを作ろうとゴミ袋に入らないゴミを突っ込んだ。
服を集めるが洗濯しているのか脱ぎ捨てたものか判断できない。ベランダを覗くと洗濯機があったので、散らかっている服や下着を突っ込んだ。洗剤も探し出して投入しスイッチを入れる。
「時間は八時だから、まぁギリギリオッケーかな! 一回ぐらい違反しても文句は言われないだろう多分!」
そのまま整理整頓を繰り返し、リビングに座れる空間が見えてきたところで、チャイムが鳴る。
「はいはーい!」
慌てて玄関へ行き、相手も確認せずにドアを開けると津賀留が立っていた。
「いらっしゃい」
「お疲れ様です。これ、お土産です。どうぞ」
袋に入ったコンビニ弁当を差し出されたので両手で受け取った。
「ありがとうー! でも中で食べるのはあまり……」
「大丈夫です! どんな惨状の現場でもしっかり食べれますから!」
ぱぁっと明るい笑顔でそう答えてから
「それで、その、お邪魔してもよろしいでしょうか?」
少し躊躇いがちに、ソワソワしながら訪ねてきた。
仕草が可愛くて息吹戸の胸がきゅんとなる。
「勿論! ほんっっとうに汚いけど、どうぞ入って!」
息吹戸が招くと、津賀留は畏まりながら「お邪魔します」と声をかけて、ゴミまみれの玄関を抜けてリビングに入った。そこで目を丸くして周囲を見渡す。
(そうだよね。そのリアクションするよね)
息吹戸は「あはは」と空笑いして、頭をガリガリ掻いた。
「ごめんねー。本当に」
「凄いです! 座るスペースがあるし、片付いています!」
津賀留は感動した様に叫んで、キョロキョロ見まわす。
「ゴミがゴミ袋にちゃんと入ってる! 凄いですね! 感激しました!」
「お世辞?」
訝し気に息吹戸が問いかけると、津賀留はブンブンと頭を左右に振って見上げる。その目は大変輝いており、血色がよくなって頬に赤みがさしている。
「いえいえ滅相もない! 息吹戸さんのお部屋には何回か入らせてもらってますが、こんなに整っているの、初めてみました!」
「……あ、うん、そうなの」
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