おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

文字の大きさ
上 下
25 / 33
第一章 馴染むところから始めます

25.津賀留の訪問

しおりを挟む
 折り返し操作が分からないし、今を逃すと彼女はもう今日中に電話をかけてこないだろう。
 着信をタッチすると、津賀留つがるが『あ!』と嬉しそうに声を出した。

『お疲れ様です息吹戸いぶきどさん。夜分に電話をかけてすいません。今お時間大丈夫でしょうか?』

「ナイスタイミング津賀留つがるちゃん! こっちも聞きたい事が山の様にあってね!」

 そこまで息吹戸いぶきどは一息に話すと、「あ。体調はどう?」と今更ながらに聞いてみた。

『はい。今、病院の帰りでして。体に問題なしと診断がでました。先ほど電話で玉谷たまや部長に報告が終わったので、息吹戸いぶきどさんにもご報告をと思って』

「そっか! 体に異常がないならよかった」

『呪詛を受けたと言っても信じてもらえないほど、何も残っていませんでした。有難うございます息吹戸いぶきどさん』

「うんうん。よかったよかった!」

『それで。聞きたい事とは何でしょうか?』

「あのね。とても聞きにくいことなんだけど」

 と、前置きをすると、津賀留つがるが息を飲んで『はい』と返事をする。

「ゴミの分別方法と、曜日を教えてもらいたいの」

 真面目な口調でそう続けたら、津賀留つがるから『はい?』と肩透かしを食らった声が戻ってきた。
 津賀留つがるに日常生活が分からないと訴えると、彼女は直接伺いますと言ったので、息吹戸いぶきどは一瞬焦った。

「あ、あ、でも! でも! 部屋が」

『知ってます! 大丈夫です!』

「でも津賀留つがるちゃんも帰らないと……」

『同じアパートに住んでるので大丈夫ですよ。では三十分で行きます!』

 通話が切れると、空中ディスプレイが閉じる。

「あ、あー……。来るんだ。この部屋に」

 息吹戸いぶきどは腕時計を見て周囲を見渡した。

 とりあえず、座れるスペースを作ろうとゴミ袋に入らないゴミを突っ込んだ。
 服を集めるが洗濯しているのか脱ぎ捨てたものか判断できない。ベランダを覗くと洗濯機があったので、散らかっている服や下着を突っ込んだ。洗剤も探し出して投入しスイッチを入れる。

「時間は八時だから、まぁギリギリオッケーかな! 一回ぐらい違反しても文句は言われないだろう多分!」

 そのまま整理整頓を繰り返し、リビングに座れる空間が見えてきたところで、チャイムが鳴る。

「はいはーい!」

 慌てて玄関へ行き、相手も確認せずにドアを開けると津賀留つがるが立っていた。

「いらっしゃい」

「お疲れ様です。これ、お土産です。どうぞ」

 袋に入ったコンビニ弁当を差し出されたので両手で受け取った。

「ありがとうー! でも中で食べるのはあまり……」

「大丈夫です! どんな惨状の現場でもしっかり食べれますから!」

 ぱぁっと明るい笑顔でそう答えてから

「それで、その、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

 少し躊躇いがちに、ソワソワしながら訪ねてきた。
 仕草が可愛くて息吹戸いびきどの胸がきゅんとなる。

「勿論! ほんっっとうに汚いけど、どうぞ入って!」

 息吹戸いぶきどが招くと、津賀留つがるは畏まりながら「お邪魔します」と声をかけて、ゴミまみれの玄関を抜けてリビングに入った。そこで目を丸くして周囲を見渡す。

(そうだよね。そのリアクションするよね)

 息吹戸いぶきどは「あはは」と空笑いして、頭をガリガリ掻いた。

「ごめんねー。本当に」

「凄いです! 座るスペースがあるし、片付いています!」

 津賀留つがるは感動した様に叫んで、キョロキョロ見まわす。

「ゴミがゴミ袋にちゃんと入ってる! 凄いですね! 感激しました!」

「お世辞?」

 訝し気に息吹戸いぶきどが問いかけると、津賀留つがるはブンブンと頭を左右に振って見上げる。その目は大変輝いており、血色がよくなって頬に赤みがさしている。

「いえいえ滅相もない! 息吹戸いぶきどさんのお部屋には何回か入らせてもらってますが、こんなに整っているの、初めてみました!」

「……あ、うん、そうなの」

 ゴミをちょっと片づけただけでこの褒め言葉。心底恥ずかしくなって、息吹戸いぶきどは顔を真っ赤にして津賀留つがるから視線をそらした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。 最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。 千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた! そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……! 7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕! コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,) カクヨムにて先行連載中!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

処理中です...