おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

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第一章 馴染むところから始めます

24.我が家は汚部屋

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 家路を歩く息吹戸いぶきどは、迷うことなくアパートに到着した。繁華街の中心だったが、ほとんど一本道だったため迷うことはなかった。

「ここかー!」

 アパートは四角いコンクリートの一般的な外装だ。ドキドキしながら中へ入る。住人には会わなかった。

 エレベーターに乗って三階へ。あっと言う間に到着し降りた途端、自動で照明が灯った。吹き晒しの通路を歩いて三〇五号室のドアの前に立つ。表札はないがここだろう。

 持ってきた鍵を差し込んで回すと、ガチャリと音がした。ゆっくりと開ける。
 まず鼻に匂いが届いた。

(くっさ!)

 鼻をつまみたくなるほどの異臭がする。通路の明かりで玄関を確認するとゴミ袋の山が出迎えてくれた。

(なんだよこの異臭は! やっぱり覚悟してよかった)

 玄関の電気スイッチを手探りで探し、灯す。
 小さな玄関に散乱したパンプスが沢山在って、げんなりしながらドアを閉めて鍵を掛けた。

「うううあああ」

 短い廊下にもゴミの山が積まれているのを見て、思わずゾンビの声を出してしまう。

「よし! いくぞ!」

 意を決して靴を脱ぎ、小さなごみを踏まないように注意しながら中へ進む。
 すぐにリビングに到着、壁のスイッチを探して。スイッチオン。明かりがついたので間取りを確認。

「1LDKか。そしてリビングも台所も汚い」

 リビングには最小限の家具を埋めるゴミ袋、それに入り切らないゴミが散乱。服も散乱。下着も散乱。埃はあちこちに塊となっている。
 唯一ベッドだけ、何も置かれていなかったので、ちゃんと寝に戻っていると推測できた。

 ともあれ、まずは換気だ。
 見渡してすぐにゴミの草を抜けてベランダに直結している窓を開けると、淀んだ生臭い空気が薄まっていった。

「はぁ、はぁ。キツイ」

 マスクが欲しいと思いながら台所へ行く。
 リビング並みの惨状だった。いや食品がある分リビングよりも凶悪な匂いだった。

「うんうん、自炊しない人だ」

 お湯を沸かして食べたと思われる器が洗わずに放置されている。開いたレトルトパックがあちこちにある事から、レンチンで飢えをしのいでいたに違いない。

(まぁ、片づける時間がないにしろ。汚部屋なのは間違いない)

 こんなに美人なのに片づけられない女子だった。
 
 ガッカリする反面、まあ今なら普通かなと思い直す。
 仕事に忙しくて家事を疎かにする事は多いし、精神的になにかあったのかもしれないし、元来の片づけ下手なのかもしれない。
 今の彼女にとっては、どんな理由でこの惨状になったのか、推測するくらいしか出来なかった。

(まぁ。いっか。とりあえず片づけよう)

 これでは眠ることすら困難だ。適度に片づけてしまえばいいや。と気持ちを切り返える。
 まずは台所から燃えるゴミと燃えないゴミ資源ごみの分別に入る。

(ん。この世界のゴミ問題はどうなっているんだろう?)

 息吹戸いぶきどは立ち上がり、ゴミ収集カレンダーを探すべく台所やリビング、お風呂場を漁った。
 結果は惨敗だった。

(どうやって情報収集しよう)

 この部屋、テレビもなければパソコンもない。スマホも探してみるが見つからない。

(まさかネットがない世界。ってことはないよねぇ)

 ちょっと不安になってきたところで、どこからか音がする。

(着信音?)

 音は上着のポケットから聞こえている。
 出してみると、電子腕時計から音が鳴っている。

(アラームかな?)

 何気なく右手首に腕時計を付けると、パッと画面が空中に浮かんだ。そこには『CALL:津賀留小夜つがるさよ』と書かれており、下に『着信』と『拒否』の文字が出ていた。

「くくく、空中ディスプレイ? なにこれ凄い!」

 近未来の道具に目を輝かせ画面を凝視して、ハッと我に返る。
 絶対に今、電話に出ないといけない。聞きたい事が山のようにあるのだ。
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