19 / 33
第一章 馴染むところから始めます
19.義理父と書いてパパと読む
しおりを挟む
「こほん」
息吹戸は咳払いをして注目させた。この際、玉谷について聞いておこうと決めた。まずは彼の家族だ。
「部長さんはご結婚をされていますよね。奥様やお子さんはどんな方なんですか?」
「……」
玉谷は茫然とした表情になり、辛そうに視線をそらした。
その態度だけで息吹戸の背中に冷や汗が流れる。
(これやらかたした!)
嫌な予感がするが質問は取り消せない。
仕方なく、黙ったままの玉谷が話し始めるのを待った。
「……居た」
時間としては一分も満たなかったが、重々しく帰ってきた過去形の言葉に、息吹戸は内心頭を抱えた。
(やややややっちまったーーーー! これ深い傷があるやつだ!)
「亡くなったよ。五年前に」
「そ、れは、大変失礼しました……」
玉谷の悲しそうな表情を見た息吹戸は顔を引きつらせながら頭を下げた。本当ならば両手を合わせて盛大に謝罪したかったが、心に反応して体が動いたのはこの程度であった。
(義理の父ばかりか、義理の母も忘れている娘という構図。どう思うだろうか。いい気分しないよね。落ち込むのも当然だ!)
考えただけで息吹戸の胃がキリキリ痛む。実際には胃が痛くないのでメンタルにダメージを受けている。
玉谷もあの記憶や思い出が彼女から落ちていることにショックを受けて胃が激しく痛んだ。
お互いに胃がキリキリ痛んだところで、玉谷は苦笑いを浮かべる。
「この話はまた後日、時間を取って話そう。その前に思い出すかもしれんからな」
「はい。そうしてください」
居た堪れない気持ちを十二分に味わったところで、息吹戸は玉谷を真っ直ぐ見る。
もう気持ちは切り替えた。
「では、ここでは部長と呼べばいいのですね」
「そうだな。職場では儂とお前が家族だと知らん」
「なるほど」と呟いて、息吹戸は少し頬を赤らめた。
「なら、ええと。もし、宜しければ、二人っきりとか、外でとか、外出中は呼び方を変えてもいいですか?」
玉谷が「ん?」と不思議そうに聞き返すと、息吹戸は目を輝かせて前のめりになり詰め寄る。
「パパって呼んでもいいですか!?」
ガタン!
玉谷は椅子からずり落ちた。驚愕の表情を浮かべて「は?」と疑問形の声を出す。
「え? だって義理とはいえパパでしょ? だからパパ」
「は? いや、なん、はあ?」
「パパ、駄目ですか?」
息吹戸がしょんぼりしながら手を組んでおねだりをする。その目つきは真剣であり本気を伺わせる。
「え……あ」
衝撃が強すぎて玉谷は床から立ち上がれない。
「駄目ですか? パパ」
「う、ぐ……」
確かに、引き取った直後はそう呼んでほしかったと記憶の感情が引っ張り起こされる。だが今更と困惑するのも事実。
「パパがダメなら、お父さんでも……」
うるうるした目で見つめられ、玉谷は折れた。
「分かった。好きなように呼びなさい」
椅子に座り直して観念した様に言うと、息吹戸はスタンディングオベーションのように立ち上がって歓喜の声を挙げた。
「やったああああ! 私、前々から優しいパパが欲しいって思ってたんですよね! しかもダンディで紳士とか最高じゃないですか! 私にパパが出来たなんて嬉しいずっと夢だった!」
なんだか泣きそうになった。
(ずっと願っていた事が、ここで叶うなんて!)
うっすら浮かぶ涙を手の甲でこすると、玉谷が心配そうに声をかけた。
「どうした?」
「あ、なんでもありません」
テンションを沈めて椅子に座る。
「そうだ。部長さんのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「玉谷紫黄だ」
「玉谷部長さんですね!」
満足そうに頷いて、息吹戸は柔らかく微笑んだ。
「……!」
玉谷は今まで見た事のない娘の笑顔に呆気にとられた。口を半開きにして困惑色を浮かべる。
数秒固まってからハッと意識を戻すと、改めて対話の様子を振り返った。
今までの息吹戸の面影が全くない。別人と話しているようだと思いそうになり頭を左右に振る。
「こ、今回の記憶喪失は、今までにない程強力だ、な」
「うん? 今回のって?」
息吹戸は首を捻った。
息吹戸は咳払いをして注目させた。この際、玉谷について聞いておこうと決めた。まずは彼の家族だ。
「部長さんはご結婚をされていますよね。奥様やお子さんはどんな方なんですか?」
「……」
玉谷は茫然とした表情になり、辛そうに視線をそらした。
その態度だけで息吹戸の背中に冷や汗が流れる。
(これやらかたした!)
嫌な予感がするが質問は取り消せない。
仕方なく、黙ったままの玉谷が話し始めるのを待った。
「……居た」
時間としては一分も満たなかったが、重々しく帰ってきた過去形の言葉に、息吹戸は内心頭を抱えた。
(やややややっちまったーーーー! これ深い傷があるやつだ!)
「亡くなったよ。五年前に」
「そ、れは、大変失礼しました……」
玉谷の悲しそうな表情を見た息吹戸は顔を引きつらせながら頭を下げた。本当ならば両手を合わせて盛大に謝罪したかったが、心に反応して体が動いたのはこの程度であった。
(義理の父ばかりか、義理の母も忘れている娘という構図。どう思うだろうか。いい気分しないよね。落ち込むのも当然だ!)
考えただけで息吹戸の胃がキリキリ痛む。実際には胃が痛くないのでメンタルにダメージを受けている。
玉谷もあの記憶や思い出が彼女から落ちていることにショックを受けて胃が激しく痛んだ。
お互いに胃がキリキリ痛んだところで、玉谷は苦笑いを浮かべる。
「この話はまた後日、時間を取って話そう。その前に思い出すかもしれんからな」
「はい。そうしてください」
居た堪れない気持ちを十二分に味わったところで、息吹戸は玉谷を真っ直ぐ見る。
もう気持ちは切り替えた。
「では、ここでは部長と呼べばいいのですね」
「そうだな。職場では儂とお前が家族だと知らん」
「なるほど」と呟いて、息吹戸は少し頬を赤らめた。
「なら、ええと。もし、宜しければ、二人っきりとか、外でとか、外出中は呼び方を変えてもいいですか?」
玉谷が「ん?」と不思議そうに聞き返すと、息吹戸は目を輝かせて前のめりになり詰め寄る。
「パパって呼んでもいいですか!?」
ガタン!
玉谷は椅子からずり落ちた。驚愕の表情を浮かべて「は?」と疑問形の声を出す。
「え? だって義理とはいえパパでしょ? だからパパ」
「は? いや、なん、はあ?」
「パパ、駄目ですか?」
息吹戸がしょんぼりしながら手を組んでおねだりをする。その目つきは真剣であり本気を伺わせる。
「え……あ」
衝撃が強すぎて玉谷は床から立ち上がれない。
「駄目ですか? パパ」
「う、ぐ……」
確かに、引き取った直後はそう呼んでほしかったと記憶の感情が引っ張り起こされる。だが今更と困惑するのも事実。
「パパがダメなら、お父さんでも……」
うるうるした目で見つめられ、玉谷は折れた。
「分かった。好きなように呼びなさい」
椅子に座り直して観念した様に言うと、息吹戸はスタンディングオベーションのように立ち上がって歓喜の声を挙げた。
「やったああああ! 私、前々から優しいパパが欲しいって思ってたんですよね! しかもダンディで紳士とか最高じゃないですか! 私にパパが出来たなんて嬉しいずっと夢だった!」
なんだか泣きそうになった。
(ずっと願っていた事が、ここで叶うなんて!)
うっすら浮かぶ涙を手の甲でこすると、玉谷が心配そうに声をかけた。
「どうした?」
「あ、なんでもありません」
テンションを沈めて椅子に座る。
「そうだ。部長さんのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「玉谷紫黄だ」
「玉谷部長さんですね!」
満足そうに頷いて、息吹戸は柔らかく微笑んだ。
「……!」
玉谷は今まで見た事のない娘の笑顔に呆気にとられた。口を半開きにして困惑色を浮かべる。
数秒固まってからハッと意識を戻すと、改めて対話の様子を振り返った。
今までの息吹戸の面影が全くない。別人と話しているようだと思いそうになり頭を左右に振る。
「こ、今回の記憶喪失は、今までにない程強力だ、な」
「うん? 今回のって?」
息吹戸は首を捻った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜
星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。
最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。
千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた!
そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……!
7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕!
コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,)
カクヨムにて先行連載中!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる