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第一章 馴染むところから始めます
18.貴方と私の関係
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「ええと。誰だっけ? …………あ! 祠堂さんって人」
(ずっとヤンキーお兄さんと呼んでいたから、危うく本名を忘れるところだった。危ない危ない)
またしても玉谷の目が点になる。
「……ビルの中で祠堂に会ったのか?」
彼の事だ、出会ったのは偶然ではあるまい。どうやって息吹戸の動きを把握したのか。
第一課も足取りを追っていたが中々掴めなかった。俄かには信じられない話だったが。
「うん。私の事をファウストの現身って言ってたよ。それが私の本名なの?」
その名を言う奴は祠堂だけだ。と玉谷は確信した。
「それは二つ名だ。お前は二つ名が沢山在るが、そのうちの一つだ」
「二つ名か。ふふふ、中二病っぽい。かっこいい」
息吹戸はクスクスと楽しそうに笑う。
名前で呼ばないことに腹を据えかねて静かに怒るいつもの姿ではないと、玉谷は少し絶句してから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そうか。……彼が協力したのか」
『恥をかかされた事を忘れない、絶対、目に物見せる』と、祠堂が宣言したのはいつだったか。
それ以降、任務中に勝手に割り込み、突発的に息吹戸に勝負を挑むようになった。
突然乱入してくるので正直迷惑だが、真っ直ぐな性格なので正面切って正々堂々とやってくる。こそこそと裏で彼女を陥れるような真似はしないはずだ。だが息吹戸に協力する性格でもない。
協力したという話自体が眉唾物だ。
「俄かには信じられない話だ」
「本当ですよ! 津賀留ちゃん助ける為に囮になってくれました! 頼りにさせてもらいました!」
力説する息吹戸を見て、玉谷は頭痛がするように、先ほどよりも深い皺を眉間に寄せながら片手で額を隠した。
あり得ない彼女の姿に思考が少し悲鳴をあげた様だった。ついでに胃痛もするのでみぞおちを握りしめる。
突然弱った玉谷を見て、驚いた息吹戸は慌てながら腰を浮かせる。
「だ、大丈夫ですか部長さん!? 顔色悪いですよ?」
誰のせいだと言いたいが、今回は息吹戸に落ち度はない。
彼女の見慣れない態度に玉谷が勝手に頭痛と胃痛を感じているだけだ。
「なんでもない」
ため息交じりに答えると、玉谷は息吹戸をじっと観察する。
外見は彼の知る部下で間違いないが、内面は別人のようにしか思えない。彼女が演技をしていると仮定してもその理由が皆無だ。ましてや純粋で世間知らずな雰囲気を出すのは、彼女の生い立ちを考えればまず無理である。
何をどうすれば、あれだけ排他的な性格がこうも温和に変化するのか。
話すだけで疲労困憊に陥った玉谷は、ソファーの背に体を預けた。
「嘘、ではないな」
「嘘ではないですねー。逆に嘘だったら楽ですわ~。こうやって部長さんに本当の事を言わずに、頃合いをみて一人で生きる選択肢もあったかもだし」
「な……!」
玉谷がショックを受けたように目を見開いたので、息吹戸は慌てて否定をする。
「あ。いや。今のは冗談というか、噓です。あってもやらないです。記憶無いので絶対にやらないです。頼らせてくださいお願いします」
テーブルに両手をついて謝ると、玉谷の胃痛が酷くなった。思考を空っぽにさせながら彼女を眺めて「そういえば」と言葉を続けた。
「儂の事は最初から部長と呼んでいたが、それは何故だ?」
息吹戸は体を起こして背筋を伸ばす。
「あー、それも津賀留ちゃんの時と同じです。貴方をみた瞬間、頭の中で『父親のような部長』って浮かんだんです」
そこまで言って、口を紡ぐ。
(ついでに関係性を聞いておこう。今聞かないと後悔しそうだし)
ほんのり胸に感じる淡い想いは、返答次第でなかったことに、今なら出来る。
「貴方は私の父親代わりだったんですか? それとも接し方が父親みたいだったんですか? それとも本当は父親?」
「……!」
玉谷は深くショックを受けたように表情が消えた。そのまま深く体を曲げる。
「それも、覚えていないのか……。そうだよな。質問に答えられないということは、そういうことでもあるか……」
あまりにも落胆され、息吹戸は「す、すいません」とどもりながら謝る。玉谷は顔をあげて、悲しそうに微笑みながら首を左右に振った。
「儂はお前の父親ではない。義理の父親だ。まあ、養子に迎えていないので、父親というよりも後見人の立場だが」
「なんと!? 私の義理の父だったのですね!」
(やっぱりーーーー! そんな気がしてたーーーー!)
息吹戸は内心絶叫した。
向ける眼差しが妙に暖かい、その答えが出て嬉しいような、残念なような。
とりあえず安堵する。
(この段階で分かって良かった! 恋の蕾はすぐ消せる!)
息吹戸はすぐさま蕾を握りつぶした。
(さようなら。恋しなくてよかった。危ない事はしちゃいけない)
でもちょっとだけ、創作のネタになるかなと思って脳内の押し入れには突っ込んでおく。
もう少しここに慣れたらまた創作活動再開しようと心に決めて。
(ずっとヤンキーお兄さんと呼んでいたから、危うく本名を忘れるところだった。危ない危ない)
またしても玉谷の目が点になる。
「……ビルの中で祠堂に会ったのか?」
彼の事だ、出会ったのは偶然ではあるまい。どうやって息吹戸の動きを把握したのか。
第一課も足取りを追っていたが中々掴めなかった。俄かには信じられない話だったが。
「うん。私の事をファウストの現身って言ってたよ。それが私の本名なの?」
その名を言う奴は祠堂だけだ。と玉谷は確信した。
「それは二つ名だ。お前は二つ名が沢山在るが、そのうちの一つだ」
「二つ名か。ふふふ、中二病っぽい。かっこいい」
息吹戸はクスクスと楽しそうに笑う。
名前で呼ばないことに腹を据えかねて静かに怒るいつもの姿ではないと、玉谷は少し絶句してから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そうか。……彼が協力したのか」
『恥をかかされた事を忘れない、絶対、目に物見せる』と、祠堂が宣言したのはいつだったか。
それ以降、任務中に勝手に割り込み、突発的に息吹戸に勝負を挑むようになった。
突然乱入してくるので正直迷惑だが、真っ直ぐな性格なので正面切って正々堂々とやってくる。こそこそと裏で彼女を陥れるような真似はしないはずだ。だが息吹戸に協力する性格でもない。
協力したという話自体が眉唾物だ。
「俄かには信じられない話だ」
「本当ですよ! 津賀留ちゃん助ける為に囮になってくれました! 頼りにさせてもらいました!」
力説する息吹戸を見て、玉谷は頭痛がするように、先ほどよりも深い皺を眉間に寄せながら片手で額を隠した。
あり得ない彼女の姿に思考が少し悲鳴をあげた様だった。ついでに胃痛もするのでみぞおちを握りしめる。
突然弱った玉谷を見て、驚いた息吹戸は慌てながら腰を浮かせる。
「だ、大丈夫ですか部長さん!? 顔色悪いですよ?」
誰のせいだと言いたいが、今回は息吹戸に落ち度はない。
彼女の見慣れない態度に玉谷が勝手に頭痛と胃痛を感じているだけだ。
「なんでもない」
ため息交じりに答えると、玉谷は息吹戸をじっと観察する。
外見は彼の知る部下で間違いないが、内面は別人のようにしか思えない。彼女が演技をしていると仮定してもその理由が皆無だ。ましてや純粋で世間知らずな雰囲気を出すのは、彼女の生い立ちを考えればまず無理である。
何をどうすれば、あれだけ排他的な性格がこうも温和に変化するのか。
話すだけで疲労困憊に陥った玉谷は、ソファーの背に体を預けた。
「嘘、ではないな」
「嘘ではないですねー。逆に嘘だったら楽ですわ~。こうやって部長さんに本当の事を言わずに、頃合いをみて一人で生きる選択肢もあったかもだし」
「な……!」
玉谷がショックを受けたように目を見開いたので、息吹戸は慌てて否定をする。
「あ。いや。今のは冗談というか、噓です。あってもやらないです。記憶無いので絶対にやらないです。頼らせてくださいお願いします」
テーブルに両手をついて謝ると、玉谷の胃痛が酷くなった。思考を空っぽにさせながら彼女を眺めて「そういえば」と言葉を続けた。
「儂の事は最初から部長と呼んでいたが、それは何故だ?」
息吹戸は体を起こして背筋を伸ばす。
「あー、それも津賀留ちゃんの時と同じです。貴方をみた瞬間、頭の中で『父親のような部長』って浮かんだんです」
そこまで言って、口を紡ぐ。
(ついでに関係性を聞いておこう。今聞かないと後悔しそうだし)
ほんのり胸に感じる淡い想いは、返答次第でなかったことに、今なら出来る。
「貴方は私の父親代わりだったんですか? それとも接し方が父親みたいだったんですか? それとも本当は父親?」
「……!」
玉谷は深くショックを受けたように表情が消えた。そのまま深く体を曲げる。
「それも、覚えていないのか……。そうだよな。質問に答えられないということは、そういうことでもあるか……」
あまりにも落胆され、息吹戸は「す、すいません」とどもりながら謝る。玉谷は顔をあげて、悲しそうに微笑みながら首を左右に振った。
「儂はお前の父親ではない。義理の父親だ。まあ、養子に迎えていないので、父親というよりも後見人の立場だが」
「なんと!? 私の義理の父だったのですね!」
(やっぱりーーーー! そんな気がしてたーーーー!)
息吹戸は内心絶叫した。
向ける眼差しが妙に暖かい、その答えが出て嬉しいような、残念なような。
とりあえず安堵する。
(この段階で分かって良かった! 恋の蕾はすぐ消せる!)
息吹戸はすぐさま蕾を握りつぶした。
(さようなら。恋しなくてよかった。危ない事はしちゃいけない)
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