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第一章 馴染むところから始めます
17.出来事を振り返る
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次に目を開けると、彼以上にぐったりした状態で息吹戸が椅子にもたれていた。見た限り嘘を言っている様にも、こちらを困らせるつもりもないと感じる。
だからこそ理解できない。
「本当に……」と呟いたところで、息吹戸がカッと瞼を広げて牙を見せるように怒鳴る。
「ですから! 目を開けるとビルの通路で立ってたってこと以外、何も覚えてないんです!」
そこまで一気に言って「あ」と口を閉じる。
質問攻めに飽きてしまい口調が荒くなったと自覚がある。一度口に手を当てて、数秒後に手を離す。
「私は『息吹戸』じゃないけど、……本当の名前が思い出せない。あと、異界の神が侵略するって事に吃驚してる。そんなこと私の住んでる世界じゃあり得ないから! 絶対に!」
言い切った。
心臓がバクバク言ってる。怒りというよりも焦りだ。自分が何者か分からないというのは、『私』にとって過剰にストレスがかかっているようだ。
(はー。少し情報をシャットアウトしよ)
玉谷から視線をそらすと椅子にゴロンと寝ころぶ。弾力が良くて気持ちいい。
「すいません。オーバーヒートしました。ちょっと休憩させてください」
腕で目を隠しながら瞼を閉じる。血圧が上がってしまい頭痛が起こりそうな気配がして、眉間に皺が寄った。
玉谷は息吹戸を眺める。
こうやって人前で寝転ぶなんて幼少期以外見た事がない。ましてや職場でこんな風に弱った姿を見せるなんてあり得ないことだ。と唸った。
これほどまで記憶が欠落しているとは予想外で、今後を考えると大問題だ。
彼女を回復させるために数分待ってから、玉谷は口を開いた。
「しかしビルの禍神の召喚を阻止したんだろう? 何も覚えていないなら、なぜそんなことをしたんだ?」
息吹戸は目を開けて体を起こすと、疲労の色が強く出ていた。
気怠そうに頭を掻き、乱れた髪を直すべくゴムを外す。手櫛で簡単に整えながら、また一つに結び直した。一つ一つの仕草が柔らかい曲線のようで、ほんのり艶っぽい。
玉谷は瞬きを繰り返す。普段とは異なる仕草に一驚し、眉間の皺が増していく。
「あの時は夢だと思って。夢だから自分の好きな展開に出来る。イメージさえあれば、なんでもできるって思ってたから」
「それで阻止しようと思った」
「ううん。阻止というか、津賀留ちゃんを助けるミッションだと思ったから、それを成功させようとしたら、結果的に阻止しただけ」
今思い返せば、見捨てた犠牲者たちは幻想ではなく本物の人間だったということだ。
(悪い事しちゃったなー)
少しだけ申し訳なく思うが後悔はしていない。あの時は全員助けられなかった、優先順位は間違っていなかったと思う。
「なぜ、津賀留の事を知っている? それこそ『覚えている事』ではないのか?」
「うーん。急にパッと浮かんだの。妹分を助けろって。それが夢のストーリーのミッションだと思って」
「夢のストーリー?」
「本当に夢ですよ。寝てる間に見ている夢。私はよく夢を見てそれを覚えている人なんです。大抵はホラーとかモンスターと戦うとか、ちょっと違う日常とかかな? 現実と夢の区別も時々難しいくらい鮮明なんですが……。あ、部長さんはどうですか? 覚えている方ですか?」
「儂はあまり覚えている方ではないかな」
なるほど、と頷いて、息吹戸は話を元に戻す。
「妹分を助けるって、ヤンキーお兄さんに言ったら『津賀留』のことか? と言われて。そうかのかと」
「ヤンキーお兄さん?」
玉谷の目が点になった。息吹戸が普段使う表現ではないので、虚を突かれている。
「ビルの中に誰かいたのか?」
「うん。その人が臨時で協力プレイしてくれたから、ミッションクリアできた。私一人なら駄目だったかも」
「協力してくれたのは、どんなやつだった?」
あのビルに息吹戸が突入した段階では、カミナシもアメミットもまだ関与していない。
もしかしたらその人物が息吹戸に何か仕掛けた可能性もあると玉谷は考えた。
だからこそ理解できない。
「本当に……」と呟いたところで、息吹戸がカッと瞼を広げて牙を見せるように怒鳴る。
「ですから! 目を開けるとビルの通路で立ってたってこと以外、何も覚えてないんです!」
そこまで一気に言って「あ」と口を閉じる。
質問攻めに飽きてしまい口調が荒くなったと自覚がある。一度口に手を当てて、数秒後に手を離す。
「私は『息吹戸』じゃないけど、……本当の名前が思い出せない。あと、異界の神が侵略するって事に吃驚してる。そんなこと私の住んでる世界じゃあり得ないから! 絶対に!」
言い切った。
心臓がバクバク言ってる。怒りというよりも焦りだ。自分が何者か分からないというのは、『私』にとって過剰にストレスがかかっているようだ。
(はー。少し情報をシャットアウトしよ)
玉谷から視線をそらすと椅子にゴロンと寝ころぶ。弾力が良くて気持ちいい。
「すいません。オーバーヒートしました。ちょっと休憩させてください」
腕で目を隠しながら瞼を閉じる。血圧が上がってしまい頭痛が起こりそうな気配がして、眉間に皺が寄った。
玉谷は息吹戸を眺める。
こうやって人前で寝転ぶなんて幼少期以外見た事がない。ましてや職場でこんな風に弱った姿を見せるなんてあり得ないことだ。と唸った。
これほどまで記憶が欠落しているとは予想外で、今後を考えると大問題だ。
彼女を回復させるために数分待ってから、玉谷は口を開いた。
「しかしビルの禍神の召喚を阻止したんだろう? 何も覚えていないなら、なぜそんなことをしたんだ?」
息吹戸は目を開けて体を起こすと、疲労の色が強く出ていた。
気怠そうに頭を掻き、乱れた髪を直すべくゴムを外す。手櫛で簡単に整えながら、また一つに結び直した。一つ一つの仕草が柔らかい曲線のようで、ほんのり艶っぽい。
玉谷は瞬きを繰り返す。普段とは異なる仕草に一驚し、眉間の皺が増していく。
「あの時は夢だと思って。夢だから自分の好きな展開に出来る。イメージさえあれば、なんでもできるって思ってたから」
「それで阻止しようと思った」
「ううん。阻止というか、津賀留ちゃんを助けるミッションだと思ったから、それを成功させようとしたら、結果的に阻止しただけ」
今思い返せば、見捨てた犠牲者たちは幻想ではなく本物の人間だったということだ。
(悪い事しちゃったなー)
少しだけ申し訳なく思うが後悔はしていない。あの時は全員助けられなかった、優先順位は間違っていなかったと思う。
「なぜ、津賀留の事を知っている? それこそ『覚えている事』ではないのか?」
「うーん。急にパッと浮かんだの。妹分を助けろって。それが夢のストーリーのミッションだと思って」
「夢のストーリー?」
「本当に夢ですよ。寝てる間に見ている夢。私はよく夢を見てそれを覚えている人なんです。大抵はホラーとかモンスターと戦うとか、ちょっと違う日常とかかな? 現実と夢の区別も時々難しいくらい鮮明なんですが……。あ、部長さんはどうですか? 覚えている方ですか?」
「儂はあまり覚えている方ではないかな」
なるほど、と頷いて、息吹戸は話を元に戻す。
「妹分を助けるって、ヤンキーお兄さんに言ったら『津賀留』のことか? と言われて。そうかのかと」
「ヤンキーお兄さん?」
玉谷の目が点になった。息吹戸が普段使う表現ではないので、虚を突かれている。
「ビルの中に誰かいたのか?」
「うん。その人が臨時で協力プレイしてくれたから、ミッションクリアできた。私一人なら駄目だったかも」
「協力してくれたのは、どんなやつだった?」
あのビルに息吹戸が突入した段階では、カミナシもアメミットもまだ関与していない。
もしかしたらその人物が息吹戸に何か仕掛けた可能性もあると玉谷は考えた。
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