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第一章 馴染むところから始めます
15.上梨卯槌の狛犬本部
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住宅街を少し離れた場所、森を切り開いて建てられた上梨卯槌の狛犬本部は、三階建ての大正モダン屋敷の外観をしている。
レンガ造りの外観をしたコンクリート建築であり、襲撃を受けても100年以上破壊されていない建物だ。
本部の両脇にコンクリートが敷かれ、広い駐車スペースが設けられている。そこに沢山の車が停まっていた。有事の際に使用される車には狛犬がデザインされた赤いロゴが入っている。
玉谷《たまや》は借りている駐車スペースに車を停めると、エンジンを切って声をかける。
「到着したぞ。起きろ息吹戸」
一声で目を開けた息吹戸は、「ふわい」とあくびを噛み殺しながら、椅子にもたれ掛かって背伸びをする。
「着きましたかー?」
「着いたから声をかけとる」
「それもそっか」
息吹戸は車から出ると、本部を見てパッと目を輝かせた。
「すごい! モダンな建物! 写真撮りたい!」
観光客のように大はしゃぎする彼女に、玉谷は何とも言えない表情を浮かべる。
ほぼ毎日出勤して見飽きているはずなのに。と心で呟きつつ、頭を軽く振ってから「ついていきなさい」と息吹戸を誘導する。
呼びかけられ、「はい!」と上機嫌で返事をした彼女は、カルガモの子のように玉谷の斜め後ろをトコトコとついて歩いた。
歩くついでに、景色を楽しむのは忘れない。
本部の玄関に着くと息吹戸は目を輝かせた。
「す、すごい……!」
建築物の偉大さに息を飲み、感動しながら玄関を通り抜けて室内に足を踏み入れる。
一言で表すなら、そこはダークブラウンのモダンクラシックな内装をしていた。装飾性の高いクラシック様式の手すりと、曲線が少ない角張った棚や椅子が目を惹く。
そんな大正ロマンを感じさせる場所にも、時代に沿う様に自販機と喫煙スペースが設けられている。
まあ。その辺は便利かつ必要なので置いといて。
すごい。と息吹戸はもう一度呟く。ときめきを隠すことなく目に星を輝かせた。
しかしそれも一瞬で、速足で廊下を歩いていく玉谷の後を急いで追いかける。
玉谷は一階廊下の中央にある部屋の前で足を止める。『討伐部』と書かれたプレートを目にしながら黒いドアの前に立った。
彼女が追いついたところで問いかけてみる。
「ここがお前の職場だ。見覚えは?」
「全くありません」
「……入ってみなさい」
「はい」
促されたので、息吹戸は漆喰で塗られた木のドアを開け、室内に足を踏み入れた。
「うん?」
そこは予想とは違った空間だった。
職場も大正モダンな内装と期待したが、現代のオフィス仕様だ。
ホワイトの壁紙が壁一面に敷かれ、個室を形成する壁が最小限にあるだけの、広くて開放的空間だった。
ワークスペースに対面式個人ブースが十台設置され、その横にはファミレス席が三台。ホワイトボードにびっしりと情報が書かれている。
「これは、予想外……」
幾分ガッカリするが、玉谷も室内に入ったので気を取り直す。
「ここはどうだ?」と呼びかけられたので、首を左右に振りながら「全然なにも」と答える。玉谷は「はあ」とため息を吐き、自分のデスクへ向かうため奥へ進んだ。
(今、全員出払っているみたいだね)
室内には誰もいないので玉谷の足音がコツコツと室内に響いている。
(外装はレトロで、内装は一般的なオフィス。残念)
息吹戸は改めて、もう一度がっかりする。外見同様に内装もレトロ空間を期待してしまった。
おそらく改築工事を繰り返し、尚且つ、現在のニーズに合わせる為このような和洋折衷……というよりも温故知新な状態になったのだろう。
(これはこれで、使い勝手が良さそうだから、まぁいっか)
そう納得してから、腕を組む。
(さて、どうしよう。全然わからない)
息吹戸は視線を泳がせた。この建物や職場は初めて来た場所であり、勝手がわからない。
何をして良いか分からず、とりあえずドアの横で静かに佇んでいると、その様子に気づいた玉谷が顔をあげ呼びかける。
「会議スペースに腰をかけなさい」
「会議スペース?」
そこだ。と示されたのは、出入り口から左側にある壁の白と黒のドア。息吹戸は歩きながら近付いてドアを示す。
「ここですか?」
「そうだ。そこに入って少し待っていなさい」
「はーい」
促されたのは手前側にある白いドアだ。
会議スペースのドアを開けて覗くと、テーブル一つに二人掛けのソファーが対面で置いてあった。こちらの家具はモダン色が強い。
(わあ、可愛い家具)
ちょっとだけテンションをあげて、今度は座る場所をどっちにするか迷った。なんとなく奥側に座る。
レンガ造りの外観をしたコンクリート建築であり、襲撃を受けても100年以上破壊されていない建物だ。
本部の両脇にコンクリートが敷かれ、広い駐車スペースが設けられている。そこに沢山の車が停まっていた。有事の際に使用される車には狛犬がデザインされた赤いロゴが入っている。
玉谷《たまや》は借りている駐車スペースに車を停めると、エンジンを切って声をかける。
「到着したぞ。起きろ息吹戸」
一声で目を開けた息吹戸は、「ふわい」とあくびを噛み殺しながら、椅子にもたれ掛かって背伸びをする。
「着きましたかー?」
「着いたから声をかけとる」
「それもそっか」
息吹戸は車から出ると、本部を見てパッと目を輝かせた。
「すごい! モダンな建物! 写真撮りたい!」
観光客のように大はしゃぎする彼女に、玉谷は何とも言えない表情を浮かべる。
ほぼ毎日出勤して見飽きているはずなのに。と心で呟きつつ、頭を軽く振ってから「ついていきなさい」と息吹戸を誘導する。
呼びかけられ、「はい!」と上機嫌で返事をした彼女は、カルガモの子のように玉谷の斜め後ろをトコトコとついて歩いた。
歩くついでに、景色を楽しむのは忘れない。
本部の玄関に着くと息吹戸は目を輝かせた。
「す、すごい……!」
建築物の偉大さに息を飲み、感動しながら玄関を通り抜けて室内に足を踏み入れる。
一言で表すなら、そこはダークブラウンのモダンクラシックな内装をしていた。装飾性の高いクラシック様式の手すりと、曲線が少ない角張った棚や椅子が目を惹く。
そんな大正ロマンを感じさせる場所にも、時代に沿う様に自販機と喫煙スペースが設けられている。
まあ。その辺は便利かつ必要なので置いといて。
すごい。と息吹戸はもう一度呟く。ときめきを隠すことなく目に星を輝かせた。
しかしそれも一瞬で、速足で廊下を歩いていく玉谷の後を急いで追いかける。
玉谷は一階廊下の中央にある部屋の前で足を止める。『討伐部』と書かれたプレートを目にしながら黒いドアの前に立った。
彼女が追いついたところで問いかけてみる。
「ここがお前の職場だ。見覚えは?」
「全くありません」
「……入ってみなさい」
「はい」
促されたので、息吹戸は漆喰で塗られた木のドアを開け、室内に足を踏み入れた。
「うん?」
そこは予想とは違った空間だった。
職場も大正モダンな内装と期待したが、現代のオフィス仕様だ。
ホワイトの壁紙が壁一面に敷かれ、個室を形成する壁が最小限にあるだけの、広くて開放的空間だった。
ワークスペースに対面式個人ブースが十台設置され、その横にはファミレス席が三台。ホワイトボードにびっしりと情報が書かれている。
「これは、予想外……」
幾分ガッカリするが、玉谷も室内に入ったので気を取り直す。
「ここはどうだ?」と呼びかけられたので、首を左右に振りながら「全然なにも」と答える。玉谷は「はあ」とため息を吐き、自分のデスクへ向かうため奥へ進んだ。
(今、全員出払っているみたいだね)
室内には誰もいないので玉谷の足音がコツコツと室内に響いている。
(外装はレトロで、内装は一般的なオフィス。残念)
息吹戸は改めて、もう一度がっかりする。外見同様に内装もレトロ空間を期待してしまった。
おそらく改築工事を繰り返し、尚且つ、現在のニーズに合わせる為このような和洋折衷……というよりも温故知新な状態になったのだろう。
(これはこれで、使い勝手が良さそうだから、まぁいっか)
そう納得してから、腕を組む。
(さて、どうしよう。全然わからない)
息吹戸は視線を泳がせた。この建物や職場は初めて来た場所であり、勝手がわからない。
何をして良いか分からず、とりあえずドアの横で静かに佇んでいると、その様子に気づいた玉谷が顔をあげ呼びかける。
「会議スペースに腰をかけなさい」
「会議スペース?」
そこだ。と示されたのは、出入り口から左側にある壁の白と黒のドア。息吹戸は歩きながら近付いてドアを示す。
「ここですか?」
「そうだ。そこに入って少し待っていなさい」
「はーい」
促されたのは手前側にある白いドアだ。
会議スペースのドアを開けて覗くと、テーブル一つに二人掛けのソファーが対面で置いてあった。こちらの家具はモダン色が強い。
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