おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

文字の大きさ
上 下
14 / 33
第一章 馴染むところから始めます

14.さしあたって、話が進む

しおりを挟む
 天路あまじの国。ここは菩総日ぼそうにち神が創りだした人間が生きる世界。
 菩総日ぼそうにち神の休息場として作られた箱庭世界。

 人間達は、神が休息するときに安全にかつ快適に休めるように、世界を保つ使命を持って生まれてきた。そのため神の力の一部を宿している。

 本来ならば、その力は世界を豊かに保つためだけに使われる予定だった。

 発想の自由を与えて、どのように世界が変化していくのかを観察し、実際に世界に降り立って人間のように体験するのが菩総日ぼそうにち神の目的であり、娯楽の一つだった。

 しかし、思わぬ障害が立ちはだかる。
 世界を創りだせる他の四人の神が天路あまじの国に興味を持った。
 ある者は箱庭の雰囲気を気に入り、ある者は箱庭の環境を気に入り、ある者は人間の質に目をつけた。

 それが全ての始まりだったと、後に菩総日ぼそうにち神は呆れながら呟いていたという。
 そして四人の神は、侵略ゲームという賭け遊びを始めた。

 留守にしている間に度々箱庭が壊滅寸前に追い込まれ、流石に腹に据えかねた菩総日ぼそうにち神は、人間に与えた力を攻撃の力へと変化さることにした。
 組織を作り、敵の侵略にすぐに対応できるよう、色々な手を打ってきた。
 こうして箱庭は、神の休息場所であると同時に神の代理戦場と化した。


 そんな歴史を踏まえて、


 天路あまじ国、真中県、天路あまじ中央市。

 そこに禍神まがかみ侵略阻止を行う上梨卯槌の狛犬かみなしうづちのこまいぬ、略してカミナシと呼ばれる組織の本部がある。小規模な事件を担当することが多いが、個々の能力値が高いので禍神まがかみに対抗する主戦力でもあった。

 今回の中央市で行われた降臨の儀は、カミナシの調査や捜索を掻い潜られかいくぐられ、大惨事を引き起こす一歩手前だったが、息吹戸いぶきどの活躍によって未然《みぜん》に防ぐことに成功した。

 いくつかの地域で発生した従僕じゅうぼくの事件は囮であると、ずっと主張していた彼女の言葉は多忙な日々で後回しにしていたことは否めない。
 辜忌つみきが関与しているという尻尾が掴めないために、思い切った調査が出来なかった。

 何も証拠がなくても動くべきだと強く訴えた彼女は、中々動かないカミナシにしびれを切らし、勝手に姿をくらませて独自の調査を行っていた。
 調査書類を机に投げ捨て、あえて連絡が取れないようにリアンウォッチを置き捨て、行方をくらます。
 玉谷たまやが追ってくることを狙って。

 結果的に、息吹戸いぶきどの勘は大当たりだった。
 残した資料を解析すると、今までの事件があのビルで行われた降臨の儀に関連していると結論がでた。
 ご丁寧に降臨の儀式の日付と、時間が記入されているところを見ると、この禍神まがかみは相当神経質かつ知能の高い神だと推測できる。

 おそらく息吹戸いぶきどはもう現場に到着しているはずだ。と、一課全員を招集して現場に向かった。
 そして、予想通り事件は終息していた。
 
 そこまでは良かった。
 いつも通りといえば、いつも通りだったから。

 しかし今回は、それ以外の問題が発生した。

「ええと、あの。私が誰か、思い出せないんですけど。この場合、どーしたらいいですかね?」

 息吹戸いぶきどが自分を忘れていた。
 これはマズイことだと、カミナシの討伐部署の部長こと玉谷紫福たまやしぶきは、部下に後始末を任せ、彼女と共に車に乗り込む。
 運転する前に、アメミットの禍神まがかみ討伐部署に連絡を入れて情報を共有したところで、大きなため息を吐きながら車を動かす。

 玉谷たまやは五十代半ばの男性で、前髪だけ白髪交じりの茶髪をオールバックにしている。
 太い眉にやや垂れた目が困惑した様に、助手席で眠っている女性を見つめた。

 女性こと、息吹戸いぶきどは気持ちよさそうに眠っていた。
 ネイビーグレージュ色の長い髪をひとつにまとめて、ローポジションのポニーテールにしている。キリッとした眉毛、ほっそりとした頬、艶々な唇。振動で頭が振れるたびに、オーバルフレームの黒い眼鏡がずり落ちそうだった。

 信号が青に変わり、玉谷たまやは視線を道路へ戻す。
 部下である息吹戸いぶきどの『記憶がない発言』を聞いて、報告がしなくないための冗談と思った。しかし彼女にしてはあり得ない言葉選びと態度に加え、必死に『覚えてない』発言を繰り返す姿に、嘘を言っているように思えなかった。

 玉谷たまやはその場で深く追及せず本部に戻ることにした。
 本来ならビルの現場検証と捜査を指揮しないといけなかったが、それを丸投げして今に至る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅
ファンタジー
およそ30年前、地球にはダンジョンが出現した。それは人々に希望や憧れを与え、そして同時に、絶望と恐怖も与えた──。 最弱探索者高校の底辺である宝晶千縁は今日もスライムのみを狩る生活をしていた。夏休みが迫る中、千縁はこのままじゃ“目的”を達成できる日は来ない、と命をかける覚悟をする。 千縁が心から強くなりたいと、そう願った時──自宅のリビングにダンジョンが出現していた! そこでスキルに目覚めた千縁は、自らの目標のため、我が道を歩き出す……! 7つの人格を宿し、7つの性格を操る主人公の1読で7回楽しめる現代ファンタジー、開幕! コメントでキャラを呼ぶと返事をくれるかも!(,,> <,,) カクヨムにて先行連載中!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...