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第一章 馴染むところから始めます
14.さしあたって、話が進む
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天路の国。ここは菩総日神が創りだした人間が生きる世界。
菩総日神の休息場として作られた箱庭世界。
人間達は、神が休息するときに安全にかつ快適に休めるように、世界を保つ使命を持って生まれてきた。そのため神の力の一部を宿している。
本来ならば、その力は世界を豊かに保つためだけに使われる予定だった。
発想の自由を与えて、どのように世界が変化していくのかを観察し、実際に世界に降り立って人間のように体験するのが菩総日神の目的であり、娯楽の一つだった。
しかし、思わぬ障害が立ちはだかる。
世界を創りだせる他の四人の神が天路の国に興味を持った。
ある者は箱庭の雰囲気を気に入り、ある者は箱庭の環境を気に入り、ある者は人間の質に目をつけた。
それが全ての始まりだったと、後に菩総日神は呆れながら呟いていたという。
そして四人の神は、侵略ゲームという賭けを始めた。
留守にしている間に度々箱庭が壊滅寸前に追い込まれ、流石に腹に据えかねた菩総日神は、人間に与えた力を攻撃の力へと変化さることにした。
組織を作り、敵の侵略にすぐに対応できるよう、色々な手を打ってきた。
こうして箱庭は、神の休息場所であると同時に神の代理戦場と化した。
そんな歴史を踏まえて、
天路国、真中県、天路中央市。
そこに禍神侵略阻止を行う上梨卯槌の狛犬、略してカミナシと呼ばれる組織の本部がある。小規模な事件を担当することが多いが、個々の能力値が高いので禍神に対抗する主戦力でもあった。
今回の中央市で行われた降臨の儀は、カミナシの調査や捜索を掻い潜られ、大惨事を引き起こす一歩手前だったが、息吹戸の活躍によって未然《みぜん》に防ぐことに成功した。
いくつかの地域で発生した従僕の事件は囮であると、ずっと主張していた彼女の言葉は多忙な日々で後回しにしていたことは否めない。
辜忌が関与しているという尻尾が掴めないために、思い切った調査が出来なかった。
何も証拠がなくても動くべきだと強く訴えた彼女は、中々動かないカミナシにしびれを切らし、勝手に姿をくらませて独自の調査を行っていた。
調査書類を机に投げ捨て、あえて連絡が取れないようにリアンウォッチを置き捨て、行方をくらます。
玉谷が追ってくることを狙って。
結果的に、息吹戸の勘は大当たりだった。
残した資料を解析すると、今までの事件があのビルで行われた降臨の儀に関連していると結論がでた。
ご丁寧に降臨の儀式の日付と、時間が記入されているところを見ると、この禍神は相当神経質かつ知能の高い神だと推測できる。
おそらく息吹戸はもう現場に到着しているはずだ。と、一課全員を招集して現場に向かった。
そして、予想通り事件は終息していた。
そこまでは良かった。
いつも通りといえば、いつも通りだったから。
しかし今回は、それ以外の問題が発生した。
「ええと、あの。私が誰か、思い出せないんですけど。この場合、どーしたらいいですかね?」
息吹戸が自分を忘れていた。
これはマズイことだと、カミナシの討伐部署の部長こと玉谷紫福は、部下に後始末を任せ、彼女と共に車に乗り込む。
運転する前に、アメミットの禍神討伐部署に連絡を入れて情報を共有したところで、大きなため息を吐きながら車を動かす。
玉谷は五十代半ばの男性で、前髪だけ白髪交じりの茶髪をオールバックにしている。
太い眉にやや垂れた目が困惑した様に、助手席で眠っている女性を見つめた。
女性こと、息吹戸は気持ちよさそうに眠っていた。
ネイビーグレージュ色の長い髪をひとつにまとめて、ローポジションのポニーテールにしている。キリッとした眉毛、ほっそりとした頬、艶々な唇。振動で頭が振れるたびに、オーバルフレームの黒い眼鏡がずり落ちそうだった。
信号が青に変わり、玉谷は視線を道路へ戻す。
部下である息吹戸の『記憶がない発言』を聞いて、報告がしなくないための冗談と思った。しかし彼女にしてはあり得ない言葉選びと態度に加え、必死に『覚えてない』発言を繰り返す姿に、嘘を言っているように思えなかった。
玉谷はその場で深く追及せず本部に戻ることにした。
本来ならビルの現場検証と捜査を指揮しないといけなかったが、それを丸投げして今に至る。
菩総日神の休息場として作られた箱庭世界。
人間達は、神が休息するときに安全にかつ快適に休めるように、世界を保つ使命を持って生まれてきた。そのため神の力の一部を宿している。
本来ならば、その力は世界を豊かに保つためだけに使われる予定だった。
発想の自由を与えて、どのように世界が変化していくのかを観察し、実際に世界に降り立って人間のように体験するのが菩総日神の目的であり、娯楽の一つだった。
しかし、思わぬ障害が立ちはだかる。
世界を創りだせる他の四人の神が天路の国に興味を持った。
ある者は箱庭の雰囲気を気に入り、ある者は箱庭の環境を気に入り、ある者は人間の質に目をつけた。
それが全ての始まりだったと、後に菩総日神は呆れながら呟いていたという。
そして四人の神は、侵略ゲームという賭けを始めた。
留守にしている間に度々箱庭が壊滅寸前に追い込まれ、流石に腹に据えかねた菩総日神は、人間に与えた力を攻撃の力へと変化さることにした。
組織を作り、敵の侵略にすぐに対応できるよう、色々な手を打ってきた。
こうして箱庭は、神の休息場所であると同時に神の代理戦場と化した。
そんな歴史を踏まえて、
天路国、真中県、天路中央市。
そこに禍神侵略阻止を行う上梨卯槌の狛犬、略してカミナシと呼ばれる組織の本部がある。小規模な事件を担当することが多いが、個々の能力値が高いので禍神に対抗する主戦力でもあった。
今回の中央市で行われた降臨の儀は、カミナシの調査や捜索を掻い潜られ、大惨事を引き起こす一歩手前だったが、息吹戸の活躍によって未然《みぜん》に防ぐことに成功した。
いくつかの地域で発生した従僕の事件は囮であると、ずっと主張していた彼女の言葉は多忙な日々で後回しにしていたことは否めない。
辜忌が関与しているという尻尾が掴めないために、思い切った調査が出来なかった。
何も証拠がなくても動くべきだと強く訴えた彼女は、中々動かないカミナシにしびれを切らし、勝手に姿をくらませて独自の調査を行っていた。
調査書類を机に投げ捨て、あえて連絡が取れないようにリアンウォッチを置き捨て、行方をくらます。
玉谷が追ってくることを狙って。
結果的に、息吹戸の勘は大当たりだった。
残した資料を解析すると、今までの事件があのビルで行われた降臨の儀に関連していると結論がでた。
ご丁寧に降臨の儀式の日付と、時間が記入されているところを見ると、この禍神は相当神経質かつ知能の高い神だと推測できる。
おそらく息吹戸はもう現場に到着しているはずだ。と、一課全員を招集して現場に向かった。
そして、予想通り事件は終息していた。
そこまでは良かった。
いつも通りといえば、いつも通りだったから。
しかし今回は、それ以外の問題が発生した。
「ええと、あの。私が誰か、思い出せないんですけど。この場合、どーしたらいいですかね?」
息吹戸が自分を忘れていた。
これはマズイことだと、カミナシの討伐部署の部長こと玉谷紫福は、部下に後始末を任せ、彼女と共に車に乗り込む。
運転する前に、アメミットの禍神討伐部署に連絡を入れて情報を共有したところで、大きなため息を吐きながら車を動かす。
玉谷は五十代半ばの男性で、前髪だけ白髪交じりの茶髪をオールバックにしている。
太い眉にやや垂れた目が困惑した様に、助手席で眠っている女性を見つめた。
女性こと、息吹戸は気持ちよさそうに眠っていた。
ネイビーグレージュ色の長い髪をひとつにまとめて、ローポジションのポニーテールにしている。キリッとした眉毛、ほっそりとした頬、艶々な唇。振動で頭が振れるたびに、オーバルフレームの黒い眼鏡がずり落ちそうだった。
信号が青に変わり、玉谷は視線を道路へ戻す。
部下である息吹戸の『記憶がない発言』を聞いて、報告がしなくないための冗談と思った。しかし彼女にしてはあり得ない言葉選びと態度に加え、必死に『覚えてない』発言を繰り返す姿に、嘘を言っているように思えなかった。
玉谷はその場で深く追及せず本部に戻ることにした。
本来ならビルの現場検証と捜査を指揮しないといけなかったが、それを丸投げして今に至る。
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